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魔眼の使徒  作者: vata
第二章 暗き森の魔女
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混沌の魔女 8

『呪いの魔剣 』

 それは一族に秘宝として受け継がれてきた魔剣で代々の巫女の系譜が管理するものであった。

何百年にも渡り、魔剣の呪いを鎮め、来たるべき戦いに備えるのが我が一族の務めであった。

その怒りを鎮める為に一族の癒しの秘術である「白焔(びゃくえん)」を代々注いで来たのだ。


 だがある日一族の裏切り者により村が襲われ多くの焔魔族の者達が命を落とした……父も、母も、姉も…

そして私は魔剣と共に囚われの身となった。


魔剣の纏う呪いの炎は誰も寄せ付けない………巫女の血筋の者以外は。

故に誰も触れる事すら出来ない魔剣を心を閉ざしたイリューシャはずっと抱き締めていた…この剣の側ならば誰も近づけない……この剣を守る事が父様の遺言だから。

何日も飲まず食わずの状態が続きこのまま死を待つだけとなった私に魔剣が語りかけてきた…


『仇を打ちたいなら我を受け入れろ』………と


極限状態の私は死への恐怖と生への渇望によりその提案を受け入れ、魔剣にこの体を差し出した。

そして一族の仇である裏切り者とその協力者達を街ごと焼き払った。


 仇は討った…後は…もうどうでも良かった…大好きな父も…母も…優しかった姉ももういない……

呪詛を奏でる魔剣に身を委ね次の街を炎に焼く為に魔界の荒野へと足を踏み出した……


そこでカイルによってこの体に魔剣を封じられた。








「キサマはユルサナイ!!」


心の魔剣が叫ぶ……ここまでの激しい怒りを感じたのは初めての様な気がする……この魔剣の根底に関係する何かなのかもしれない。

その苦痛が…その痛みが…その怒り全てがイリューシャにとって共感できるものだった…魔剣に宿る彼女の怒りがイリューシャの怒りと共鳴した為この体を与えあの男への復讐に力を貸している。


「全くしつこい娘ですね!」


 レイヴンから放たれた暗黒の魔力弾が殺到する…それらを躱し、相殺し、時には腕で弾いた。


「デタラメですね!」


 レイヴンの剣をイリューシャの魔力刀で受けた……その扱いは荒い我流だ……基本イリューシャの戦闘スタイルは後衛の魔術師である……なので剣技などは嗜む程度である。

しかしガンマリーは剣ではあるが剣の使い手ではない。

剣の聖地に辿り着いたのもカミュでありガンマリーは何一つ剣技は使えない。

出来る事と言えば、ただ、感情のままに切る事と、切り刻む事だけである。

しかしその剣身は恐ろしく頑丈である。

マリファとマリータ…そしてマクガイアの魔力と結界をその身に宿している上に焔魔族の祈りと癒しを受け続けてきたのだ。

 同様にそれを身に宿しているイリューシャも同様の強さを共有していた……以前の暴走の時と違い今はイリューシャが魔剣を受け入れている為その特異性を受け継いだ形となっている。

レイヴンにより切り付けられても魔法の直撃を受けてもダメージは受けるがその体が破壊される事は無い。

既に何発もその身に魔法を受けておりそれでもイリューシャは止まらなかった。


「はは……滅茶苦茶ですね」


 先程まで余裕の表情を見せていたレイヴンもこの異常なまでの耐久力に少々焦りを感じた。

更にはカミュとマトリーシェがこちらに参戦する気配を見せている……

三対一では流石にこちらが部が悪い。


「全く思い通りに行きませんね……『使徒』レイヴンが乞う!主よ!その御力の顕現を!!」


 レイヴンが胸の前で祈りを捧げるような仕草で「祝詞」を紡いだ……

結界内であるにも関わらず天から光が差し込んだ……


「使徒力行使!」


 レイヴンの背中から対の黒翼が現れその頭上には黒い光輪(ハイロウ)が現れた。


「何だ…あれは……」

「鑑定」


 駆けつけたカミュ達はレイヴンの変貌に驚愕する……

マトリーシェの鑑定によると……


【レイブン】

【***の使徒】

暗黒天使(ダークエンジェル)


「暗黒天使!?」


 マトリーシェは驚きの声をあげた……それは魔界・神界では都市伝説的な名前だったからだ。

悪事を働いた天使は天罰により堕天使となる


 しかしそれは正しくは無い


 悪事を働いた天使は魂の階位が降格しその神聖力を低下させるだけである。

だからこの暗黒天使と呼べる存在は常識的にはあり得ない存在だった。


「では…行きますよ」


 次の瞬間爆発的な闇の力に結界が軋む様な音を上げた。

気がつけば正面からレイヴンの膝蹴りを受けて押し倒された形になっていた……


「ガハッ!」


 遅れて強い衝撃が体の内部に響き渡り反撃のタイミングを逃してしまった。


「よくやりましたね……おやすみなさい」


 ゼロ距離からの魔道弾の連発に激しい爆音と衝撃が辺りを包み込んだ。


「むっ?!」


 レイヴンは何かを感じて咄嗟に後ろへと飛び退いた。

直ぐそこにはカミュの剣先が掠めるのだった。

 死角からの剣技をまさか躱されるとは思わなかったカミュは驚愕の表情を浮かべた。


「ふむ……剣の聖地へと至った貴方の力も気になりますね… 」


 レイヴンが腰の剣を抜き構えた。



「ガンマリー!大丈っっっ!!」


 慌てて駆け寄ったマトリーシェはイリューシャに触れた途端、その熱に顔を顰めた。

今の彼女は何も見ていない…感じていない…ただ、レイヴンを殺す事だけの思考に埋め尽くされていた。


「ガンマリー!イリューシャ!ねえ!聞いて!それ以上怒りに飲まれては駄目!!」


 呪いの炎に焼かれる事も厭わずマトリーシェは必死に説得を試みた…しかしそれを障害と受け取った怒りの矛先がマトリーシェへと向いてしまう。


「ジャマスルモノハユルサナイ!!」

「ちょっと!ガンマリー!いい加減に……!」


 殴りかかって来たイリューシャに対して瞬時に防御結界をはり距離を取った。


完全に敵として認識された様だ……


(ちょっと!本体!マリー!何やってるの!)

(仕方ないじゃ無い!言葉で止まる様な状態じゃ無いもの!)

(あわわわ…二人とも!前!前!!)



 チャットルームでもマリーとマリファのいがみ合いが始まり

マリータが危険を知らせる……意識を外に向ければ目の前までイリューシャが迫って来ていた。


(なにか…この魔剣…作った時より滅茶苦茶頑丈になってるんだけど?)


イリューシャの拳が地面に突き刺さり、マトリーシェは慌てて地面を転がり危機を回避した。


『ジャマヲスルナ!!チカラノナイモノハダマッテミテイロ!!』

「あ?」


 この言葉にマトリーシェが反応した。


「並列思考の分際で言ってくれたな!よーし…本体の力を思い知らせてやる」

(ちょっと!マリー何やってんだ!!)

(五月蝿い…自分がなんなのか…本体は誰がハッキリ!キッチリ!と教えてやるだけだ!)



「魔眼解放」


 カミュも知らない彼女の魔眼がベールを脱いだ。


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