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魔眼の使徒  作者: vata
第二章 暗き森の魔女
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混沌の魔女 7


 獣の様な咆哮をあげてイリューシャがヘブラスカに飛びかかった。

同様に咆哮をあげてヘブラスカが両腕を突き出すと凄まじい熱量の閃光が飛び出した。

光線(レイ)」の魔法である。

それは真正面からイリューシャを捉え直撃した……瞬間にイリューシャにより弾かれて軌道を変えた。

その先にはレイヴンと対峙するカミュ達が戦う戦場だった。







「おっと!……これはこれは…お友達は正気を失っておられる様ですが大丈夫ですかな?」


 光線を最小の動きで回避したレイヴンは遥か向こうで戦うヘブラスカとイリューシャに視線を向けた。

 向こうからの流れ弾を警戒して両者とも距離をあけて様子を見ていた……その姿に違和感を感じたカミュはレイヴンに問いかけた。


「お前の目的とは一体何なんだ?」

「目的?勿論、我らが主の復活ですよ」

「主?お前の目的はあの女を復活させることじゃないのか?」


かつてネアトリーシェの故郷すらも犠牲にして復活させようとしていた女性を今は捨て駒の様に扱うその姿に以前のレイヴンとは違う何かを感じていた。


「ふむ…目的の為の手段の一つとしての彼女は有能ですからね……戦力としては押さえておきたいと思いましたよ?最も貴方達の様に化け物じみた存在がこうも沢山現れたのでは意味がないのですけどね……」


 やはり以前のレイヴンとは何処かが違う……あの最後の戦いでは自分の身を捧げてまで尽くしていたあの姿が今の彼と同一人物とは思えなかったのだ。

重い当たる事が有るとすれば……彼は一度死を経験してから蘇っている……その原因は「使徒」だろう。

自分はカイルの一部だが全てを知らされている訳では無いのだが……今のこのレイヴンの変化もそれに関係していると思っている。


「じゃあ…・何の為に私を襲ったの?」

「誰でも良かったのですよ…たまたま都合よく貴女の家族が丁度良かった……という事ですかね」


 マトリーシェの問いかけに何の感情もなく言い捨てた。

彼女の両手に力が篭り歯をぎりりと食いしばる音が聞こえた。


「そのせいで!私の家族が!ファルミラが…!!本当にアンタだけは許さない!!」









『本当にアンタだけは許さない!!』


一際強い感情が心に生まれた。


『アイツダケハユルサナイ!』



イリューシャは標的をヘブラスカからレイヴンへと変更した……

心の中で荒れ狂う怒りの叫びがあの男を殺せと声を張り上げていた。


 マトリーシェとレイヴンの魔法の攻防は続いた。

互いに高度な魔法を放ち、互いの魔法を防御していた。

その力はほぼ互角と言っても良い。

その場にイリューシャが乱入して来た…

魔法を放とうとしていたマトリーシェは慌てた。


「ちょっと何を!」


マトリーシェの前に躍り出たイリューシャは本能のままにレイヴンへと殴りかかった。


「全く…獣ですね…」


殴りかかったイリューシャを躱すと、その横から魔力弾を叩きつけた……轟音と土煙が舞い上がり視界を塞いだ。

その中をイリューシャの剛腕がレイヴンを捉えた。


「!!」


 ギリギリで回避するとその地面にイリューシャの拳が突き刺さった……凄まじい轟音と土砂が空高く舞い上がった。


「全く厄介な!!」


 イリューシャの拳には高濃度の魔力が纏っており、その一撃は上級魔法にも匹敵する威力を秘めていた。


「…コロス…コロス…」


 激しい怒りが燃え盛る炎を更に加速させる。

見れば先ほどのダメージも無いように見えたがよく見れば足元も心なしかおぼつかない……ダメージの蓄積はある様だ。


「おい!無理をするな!あれは私の獲物……」



(貴方と共に戦えて光栄ですー)

(さぁ!このボタンを押してー)

(爆発のショックで主な機能は消失ー)

(あ、あの女!!!カミュの子供をー)

(私達は仲の良い姉妹でいられたのかなー)

(魔力を返して貰ー)

(私達の怒り…憎しみからあの子は生まれてー)


 イリューシャに触れた瞬間…見た事のない光景がフラッシュバックした。

その間にイリューシャは彼女の手を逃れて再びレイヴンへと飛びかかっていった。


「な…何?…今の記憶は……」


 私の知らない……私の記憶……

マトリーシェはその場に力なく座り込んだ。











『マリー』


呼び声に目を覚ました。

ゆっくりと体を起こすと見慣れたあの森の家の自分の部屋だった。

そうか……これがチャットルーム……


『マリー』


再び自分を呼ぶ声が聞こえた…

声に導かれる様に部屋を出るといつも食事を取るテーブルに誰か二人の人物が座っていた……よく見るとそれは自分達だった。


『やっと話をする事が出来るわね』


右手に座る落ち着いた自分…やや青みを含んだ金髪……マリファと名乗った。


『ほんと…ここに戻って来るまでこんなに時間がかかるなんて思わなかったよ』


 左手の明るい笑顔を見せる淡い桃色を含む金髪の自分はマリータと名乗った。


「そう…そうだったわね……貴女達は私の分割した並列思考……」


 森でカミュの為にポーションや色々なものを作成している段階で

自分の中で話し相手になっていた存在……色々な検証や理論の討議から、ありもしない空想の話やカミュとの将来について…このチャットルームでよく話していた……

そしてネアトリーシェが居なくなってからは自分を支える存在だった。

何故こんな大切な事を忘れていたのだろう?


『あの娘の中にいるのはガンマリーシェ……私達の怒りを体現する存在…』


 マトリーシェは気づかぬうちに涙を流していた……

マリファ、マリータ、ガンマリー…彼女達は無意識のうちにマトリーシェ本人によって分割された喜怒哀楽の感情そのものだった。

彼女を取り巻く環境の変化に彼女の心が追いつかなかったのだ。

自分には希望と安らぎの「喜」

ガンマリーには負の感情「怒」

マリファには自分の境遇を嘆く「哀」

マリータには物事を重く捉えない様に「楽」

ひとりぼっちで森の家で待つ事に精神が消耗しかけていたのだ……感情を切り離し、楽しい思い出と希望だけで生きていく……そうする事でカミュの帰りを待つ事だけを希望を持ってやって来れたのだった……かつて同じ姿だった筈の四人は今では見た目も人格も変わってしまった…それはそれぞれの経験によるものだ…マトリーシェは二人を見る……笑顔を浮かべていてもその瞳に宿る哀しみの色は誤魔化せないのだった。


「ごめんね…貴女達には辛い役目を……」


アイスロッドの中で長い時を過ごす内に自身を守る為に長い眠りについていた…二人はルミナスの手によりマトリーシェの体内へ魔力として還元された際に再び本体と融合し、チャットルームの住人として再現できるほどに回復していた。


『後は…あの子を迎えに行くだけ…』


あの子……もう一人の私…最後の私…本来…誰かの為に怒り、誰かの為に泣く…それがガンマトリーシェの立ち位置だった……しかし自らの境遇に極限まで高められた怒りは彼女を怒れる獣へと変えてしまった……

遂には唯一の心の繋がりのあるカミュを自らが刺し殺した事で発狂して呪いの魔剣と成り果ててしまったのだ。




「迎えに…行かないとね…!…カミュ!聞こえていたわよね?お願い!力を貸して!」

「勿論だよ…そうか…ガンマリー…あの子には酷いことをしてしまったね」


カミュから差し出された手を取り立ち上がる……


『ならお姉さんにも手伝わせてよね?』


突然カミュの左肩に魔道魔眼が開きマトリーシェと視線が交差した……すぐそばに魔法陣が現れ中から長い金髪の女性が現れた。


「ふぅ……顕現完了!……やぁ!カミュ少年!懐かしいなぁ…」


 いきなり現れた美女がとてもフレンドリーに話しかけてきた……近い…近いな……隣のマトリーシェからは絶対零度の冷ややかな視線が向けられていた。


「ええっと…すいませんどちら様でしょうか?」

「あら?覚えてない?んー……!これならわかるかな?」


 そう言って女性は両手の指でメガネの形を作り顔に押し当てた……


「……!!イヴさん!」

「正解〜!いい子いい子…良かったわね…取り戻せたんだね」


 カミュの頭を子供をあやす様に撫で撫でしていた……それをジト目で見ていたマトリーシェに気がつくと

『彼女ちゃんも撫で撫で〜』と頭を撫で回してきた。


「ほわっ?!…か…彼女って…」


 初対面の女性からそう認識されている事と急に撫でられたマトリーシェは慌てて距離を取った……頭を撫でられるなんて…子供の頃ネアトにしてもらって以来だ……今更ながらに恥ずかしさを感じた。


「さて、まずは……あら?魔女が彼方の方に気がついたみたいね……じゃあ私は魔女の方を足止めするから…あ、言っとくけど今に私は仮の体だから魔法とか使えないからね?殴る蹴るしか出来ないから早めに来てくれると助かるかな?」


そう言い残すとアイリスと紫音の所に向かって走り出した……凄いスピードで……

あの女……イヴの事は今は不問にしておこう……やけに近いし馴れ馴れしいし…撫で撫でとか……思い出すと恥ずかしさが込み上げてきた。


「と、取り敢えず…ガンマリーを止めましょう!」


 マトリーシェとカミュは互いに手を繋ぐとイリューシャの跡を追いかけた。


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