混沌の魔女 3
「全くあなたは怪我の治療もせずに……」
「いや…あの緊急時では……すまん」
アネモネにそう言われ、イングリッドは言葉を詰まらせた。
純粋に彼女を心配している言葉だと理解できたからだ。
軽症であった彼女は治療もそのままに各方面へ世話しなく動き回っていた。
そんな姿をアネモネに見つかり保健室へと引きずり込まれた。
「前田崎は……眠ったか」
視線の先にはカーテンの引かれたベットがあった。
「ええ…怪我ではなく疲労だからね.…全く羨まけしからんだわ」
目の前に置かれたコーヒーを受け取り口に運んだ……体に染み渡る暖かさが心地良い。
「ところで」
アネモネの言葉を聞きながら安堵の溜息を吐きながらコーヒーを口に含んだ……まだ何も解決はしていないが……
「貴女…カイルとは一体どういう関係……いえ、どこまでの関係なのかしら」
「ぶはぁ!!」
思わずコーヒーを盛大に吹き出した。
「…誰が掃除すると思ってるのよ…汚いわね…」
「こっこの非常時に何を……!…掃除ぐらい自分でするわっ!!」
立ち上がると乱雑にテッシュを掴み後始末を始めた。
「……先日…HRを代わったわよね?……お泊まりで朝までお楽しみだったと言ってたわね…?」
「…そ、そんな事言ったかな?あの時は私も勝ちたいが為にありもしない事を口走ってしまったかもしれないからな〜」
「………ふーん」
やばい……アネモネの目が全く私の嘘など見抜いている……
あの邪暗拳の時…もう思いっきり自分で暴露してしまっているので
今更ではあるが……しまった……
「まぁ…そういう事にしておいてあげるわ……」
「……いや…すまない…私の方こそあんな誤解を招く様な…「……先月の祝日」……」
私の言葉に被せて来たアネモネの単語に背筋が凍りついた……
「…前から買い物の約束してたわよね?…貴女が駅前のあのお店に行きたいからって……当日の朝に体調悪いってキャンセルになったけど……もしかしてあの日も?そうよねー?だってその次の日はげんきだったじゃ無い?それに貴女のフェロモン凄かったし……職員室の男性教員皆んな前屈みだったでしょ?まぁ貴女は幸せそうにしてたから気がつかなかったかもしれないけど……」
「…………」
冷や汗が止まりません……だって思い当たることがありすぎです…
だってその日も朝になってアーガイルが転がり込んできたし…その後はあの可愛いカイルに謝られて襲っちゃったし……魔族は感情に生きる生き物なんだもん!!
「それよりも…いつから?何か手慣れてる様な感じがしたのだけれど?…冬休み明け?いや…休みの間に何かあった?」
……何て勘の鋭い女なのでしょうか?ほぼ正解です…
「そこは…ウルガノフ家にとっての秘匿事項として……」
「あら?…そうなんだ…じゃあギゼルヴァルド家として質問しようかな?」
「ゔっ」
「さぁ…洗いざらい吐いてもらいましょうか……」
「あ…あははは……」
ダメだ…この目をしているアネモネは何を言ってもダメな時だ…その目は既に確信している……
イングリッドは観念して全てを白状するのだった。
「…まぁ…それはなんとも…」
「…私だって。こんなのは間違ってるとは思ってるんだ…でも…アーガイルの魔力にはどうしても抗えなくて…」
「…ふむ……まぁそれは…何と言うか…結果からすれば羨ましい限りだな」
彼女の話を聞いてそんなことでは無いかとはきっかけの予想はしていたが…
あれ?もしかして今カイルにとって一番近い所にいるのでは?
イリューシャは何となく従者っぽいイメージが強いし……
今現在同行しているお姉様がまさかの「アーガイル様推し」とは予想はしていたけどあそこまでのガチ勢とは思わなかったし……
ん?もしかして私が一番出遅れてる?不味いわね……
「イリット…理解したわ…貴女の行為は立派よ…教え子を救う為の献身ですもの…友として誇らしいわ」
「!!……モネ……」
責められる覚悟はしていたが…まさか褒められるとは思っていなかったのだろう…イングリッドの目に涙が滲んだ。
「貴女の事だもの…ずっと罪悪感に苛まれていたのでしょう?安心して…私はいつだって貴女の味方よ?これからは私も貴女の苦労を半分背負ってあげるわ」
「モネ……ありがとう…持つべきものはやはり友だな…これからはモネが半分背負って……?えっ?半分?」
まさか……と困惑するイングリッドに過去一番のいい笑顔で告げた。
「今週末カイルが泊りに来るんだろ?安心しろ私も泊りに行くから」
(どうしよう…凄い話を聞いてしまった……)
ベットの上で既に目を覚ましていた律子は二人の会話を聞いて悶々としていた。
(私も先生の家に泊りに……いやいやもう既にこんな関係なんだからそのまま直接彼の部屋に行って……)
その時目の前にユラユラと揺れる緑の雑草が目についた……雑草?
思わずそれを掴むみ引っ張り上げると幼女の顔が飛び出した。
「うわあああああ!」
「どうした!」
衝撃の光景に思わず叫びながらベットから飛び起きた。
直ぐにカーテンを引き開けてイングリッドとアネモネもやって来た…… 2人ともベッドの横から頭だけを出す幼女の姿を見て驚いている。
「りつこ……いたい……」
見れば幼女のは涙目で自分の頭を撫ででいた。
「「「かわええ……」」」
教師二人からおっさんのような感想が飛び出していた。
いや……おそらく私も同じ言葉を口にしていた……私の名前を知ってる?
「もしかして…ラプラスなの?」
幼女がこくりと頷いた……まじか…初めて見た…かわええ……鼻血出そう。
「ますたぁからでんごん……いんぐりっどは『せいとかい』と『ふうきいいん』にれんらくして……あねもねはわたしときて……」
「生徒会と風紀委員?」
「いや…制討会と封鬼委員だな」
「噂には聞いた事あるけど…本当に存在したんだ…」
本来生徒会と風紀委員会は対照的な統治組織だ。
生徒会は生徒全般の権利の保護と生活を約束する為の生徒を代表する立場にある。
風紀委員会はその生徒の生活態度、行動を抑制する為の組織だ……目に余る行動は彼等によって懲罰対象となる。
常日頃から生徒会と風紀委員会は対立し合っている………そんな認識だが実際は違う。
裏ではこれでもかと言うぐらいに密接な関係だ。
制討会…それは裏の生徒会とも呼ばれる存在だ……主な仕事は「制圧」「討伐」「撃退」荒事全般である。
主観としては生徒に害なす存在に対しての執行を行うが時としては害意ある生徒に対しても失効する場合もある
封鬼委員…それは裏の風紀委員である……秩序を乱す存在に対して完全に封じ込める対策を主にしている。
主な仕事は「封印」「封殺」「黙殺」…情報全てをコントロールするのが仕事である。
「こうしちゃいられない!すぐに着替え無いと!」
アネモネが机の下から宝箱の様な衣装ケースをひっぱりだした。
中からは先ほどルミナスが着ていた様な純白の勝負服が出て来た。
「お母様が私にも送ってくれていたんだ!きっと手当のお誘いだろ?待っててね!カイル!」
「「いや、違うだろ」」
友と教え子の言葉が室内に響いた。