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魔眼の使徒  作者: vata
第二章 暗き森の魔女
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混沌の魔女 2


「おわっ!」


 穴に落ちた先は地面だった。

直ぐに体制を整えて周囲を見回した……危険はないようだが

隣では鉄平とキースが地面とキスをしている所だった。


「マードック!」

「小夜子か…ここは外で間違いないな」


 自分よ呼ぶ声に振り返る……そこは塔の入り口付近に建てられた部隊の待機所だった。

声の主…小夜子と後方支援の部隊員が数名ほど近くのテントから駆け寄って来た。


「状況は?」

「つい先ほど高魔力の反応を感知したわ…ドローンを飛ばそうにも三十階より上は魔力嵐が酷くて近づけないの…それに……」

「何だ?」

「入り口から狼型の魔物がこちらに溢れてて…今交戦中よ」


 モニターに視線を向けると塔の入り口を円形に囲み部隊が対応していた。

カイルの言っていた我々の仕事の様だ。


「マードック…伊織は?」

「まだ上だ…そんな顔するな…心配はいらん!あいつが一緒だからな…キース!鉄平!装備を整えろまだ仕事は終わってないぞ!」


 上での戦闘では足手纏いにしかならないが……ここならばまだ出来る事はある筈だ…記憶水晶(メモリースフィア)によって見せられた過去が本物なら今部隊が対応している魔物にも変化が現れる筈だ。


「部隊に通達!装備を変更特殊A装備だ」


 直ぐにマードックは身に付けていた装備を外すとテントの奥にあるトレーラーに早足で向かう…

荷台から大きなトランクケースを引っ張り出すとロックを解除する。

 開かれた中身は先日のシャドウマンティスとの戦闘データを元に新たに開発された『特殊装備』である。

身につけるだけで身体強化、防御力上昇の効果が発動できる。

防御に特化した装備だった。

 

「準備はいいか?」

「いつでもいいぜ!」


 体力と魔力を回復させるエーテルを飲み干したキースと鉄平がこちらにやって来た。

上に比べるとこんなものは脅威にはならないかもしれないが……


「これ以上アイツらの仕事を増やす訳にはいかないからな…怒鳴られる事のない様にしっかりと努めを果たすか!」










 目の前に迫り来る触手の様な黒髪の束を伊織は横凪に切り裂いた。

直ぐに左右からの追撃に苛立ちを覚えた。

魔弾により撃ち抜かれた髪は直ぐ様燃え上がり黒い煙となって霧散するが直ぐに次の髪が襲いかかってくる。


「んだよ!コレ!」

「文句の前にもっと手を動かせ!」


 悪態を吐きながらもイリューシャとの連帯で互いの背中を合わせる様に周囲の蠢く髪を撃退していた

向こう見ればカイルを中心にマトリーシェと互いの背中を預けて戦っていた……紫音はアイリスと共にしゃがみ込んでいた。


「「向こうが良かった」」


 ふと背後のイリューシャと声が重なった。


 互いに不満げな視線を交わした後再び前を向き戦闘に集中した。

お互いに不覚にも「こいつならまぁ良いか」と思ってしまった事を互いに悟られない様にするのに必死だった。


「なら…さっさと向こうに合流するか」

「…そうだな」


 顔を向けると互いに不敵な笑いを浮かべていた。

そして二人はカイルの元へと駆け出すのだった。







「くうっ」

「アイリス!」


 段々と濃くなるヘブラスカの魔力にアイリスは頭を抱えて呻いた周囲に漂うヘブラスカの魔力が彼女に纏わりつく様に濃密に集まっている。

憑依していた魂割体は消滅しているが、魂レベルでの融合の症状が見られるアイリスには未だに影響があった為、結界を貼りながら心配する紫音がその側についていた。

カイルが言うにはルミナス達の結界が完成すれば……多少は抑えられるらしいが……問題は……紫音は視線を前に居る二人に向けた。


「ねぇねぇ……もうカミュに交代しても良いんじゃない?ねーねー」


 カイルの左腕にしがみつく様にマトリーシェがずっとこの調子で話しかけていた。


「せめて今の状況をどうにかしてからにしろ」

「やだもん!もう千年待ったんだから!」

(すいません!すいません!マリー今はダメだよ!もう少し我慢してねっ?ねっ!)


 今や左肩に魔導魔眼として発現しているカミュからひたすら謝罪の言葉が飛んでくる。


「カミュがそう言うなら……ねぇ後どれくらいかな?もうすぐかな?」

(マリー…まだ30秒も経ってないよ!もう少し……あぁすいませんすいません!)

「何よ!カミュは私と会えて嬉しくないの?」

(嬉しいに決まってるだろ!だからもう少し我慢して……あぁすいませんすいません!)


 しかもマトリーシェは一見、いちゃついている様に見えてしっかりと攻撃を防いでいる……その背後のアイリスと紫音もしっかりと護っていた。

 その隙をついて紫音の側から髪の毛が殺到した……がそれは駆けつけたイリューシャと伊織によって煙へと姿を変えた。


「おい!魔女!離れろ!」


 イリューシャがマトリーシェの反対側からカイルへとしがみつきマトリーシェへと威嚇の声を上げた。


カイルは両手を塞がれた形だか、彼の前に立った伊織が代わりに全ての髪を迎撃していた……時折熱い視線をこちらに向けながら……


「カイル!アイリスが…!」


 詩音の声に視線を向ける。

アイリスの髪が半分ぐらい黒く変色していた……ここが彼女のチャットルームである事が災いし空間を使ってヘブラスカによる侵食が進んでいるのだ。


『ヘブラスカ様…苦戦されてますね…』


 空間にノイズが走り中からの黒騎士が現れる。


「レイヴン!!」


 マトリーシェがその姿を確認すると殺意のこもった視線で睨み付けた。


「おや?これはこれは…森の魔女様お久しぶりですね…愛しの騎士と再会できたようで何よりです」

「貴様がそれを言うか!」


マトリーシェが腕を突き出すとその横に魔方陣が浮かび上がる。

次の瞬間レイヴンの周囲に凄まじい爆発が巻き起こった。


「出合い頭にいきなりですね……相変わらずのじゃじゃ馬ですね」


いつの間にかヘブラスカの横に転移していたレイヴンが周囲を見るとこの空間が鎖に覆われて行く所だった。


「……おや?結界ですか?やれやれこれは厄介なモノですね」

「……お前…あの時姉妹の技を喰らって死んでなかったか?」

「ああ…あれは効きましたよ……でもそのお陰で呪いも無くなって元の姿に戻れたのですけどね…全くヘブラスカ様には感謝していますよ」


 隣のヘブラスカに向き直るとその額に指を押し当てた。


「さあ…ヘブラスカ様最後にもう一仕事お願いしますよ……」


 何かが指を伝い、ヘブラスカの中へと入り込んだ……瞬間へブラスカの体が大きく仰け反り獣のような雄叫びをあげた。


「やはり使徒に堕ちていたか…」


 ヘブラスカに黒い瘴気が集まりその姿を新たに構築し始めた。

と、同時にルミナスの結界が完成し空間を覆い尽くした……その結果展開していたアイリスのチャットルームは魔素となって急速に彼女の中へと吸収されていった。

空間の繋がりを失い、ヘブラスカの魔力の侵食は押し戻され、彼女の髪の色が本来の蒼銀髪へと戻ってゆく。


「おや?空間に閉じ込められましたか…いやいやこれ程の結界とは…少々侮っていましたね」


 隣のヘブラスカはその姿を大きく変えていた。

全身黒尽くめのドレス姿だが、そこから伸びる手足には光沢を放つ鱗と巨大な爪が生えていた。

その背中には小さな翼もあり当然尻尾も確認できた……本来耳のある場所には尖った角とも呼べる様な突起物が存在していた。


「竜人種かよ……」

「ええ…過去に学びましたからね…竜種では機動性に欠けますからね」


 見るにヘブラスカの意識は無い状態だと考えられた…その目にあるのは闘争本能と殺意の篭った視線だけだった。


「さて……カミュ…あの時の決着をつけましょう…魔女殿もご一緒にどうぞ…構いませんよ?」

「あ?言ったな?アンタには散々してやられたからな……たっぷりとお返ししてやるわ!!」


 何気にやる気を見せるマトリーシェにアーガイルはため息をついた…次の瞬間その髪が翠に変わり

カミュと入れ替わった。


『交代だ…好きにやれ…負けたら承知しねえぞ』

「!いいのか?」

『良いも何もご指名だ…散々煮湯を飲まされたんだ…お返ししてやれ』

「……ありがとう アダム」

 

 アーガイルはその言葉には答える事なくその右肩の眼を閉じた。


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