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魔眼の使徒  作者: vata
第二章 暗き森の魔女
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真・暗き森のマトリーシェ 12


「こいつが最後だ!」


ヴァルヴィナスのスの魔剣がドラゴンの心臓を貫いた……その巨体は大地へと倒れ込み動かなくなった………そして戦場に動く敵対生物は居なくなった。

 周囲の兵士達も同様に辺りを見回し勝利を確信したような喜びの声が溢れた……やがては戦場を埋め尽くす歓喜の声で包まれた。

 ヴァルヴィナスは安堵のため息を吐き周囲を見回した。

おびただしい数のゴーレムと魔物の死体が横たわっており、そこには自分たちの配下の兵士達の姿も見受けられた……

予想以上に被害は抑えられたが死者がゼロとはいかなかった。

しかしまだ戦いは終わってはいない…自分も森に向かおうとしてソレに気がついた


 戦場となった上空に小さな黒点を見つけた……まるで空に穴が空いている様な黒くて丸い…黒点だった。


「あれは……なんだ?」


 やがて周囲の兵士達もそれに気付き全員が空を見上げた。

やがてその黒点は水が染み出すように真っ黒い水滴となり地面へと落ちた。

その先には最後に倒した巨大なドラゴンの死体があった。

瞬間、言いようもない悪寒がヴァルヴィスナを襲った


「全員退避!下がれ!早くしろ!」


 そう叫ぶとドラゴンの体めがけて魔剣の斬撃を放った。

しかしそれは届く事無く鞭の様にしなやかな黒い魔力の奔流に弾かれた。

 ドラゴンの死体が……体のあらゆる場所から血を流しながら起き上がった……まるで黒い魔力の糸に操られる操り人形の様にぎこちなく…おぞましく…

さらに奇怪な事に周囲の魔物も黒い魔力に絡め取られドラゴンを中心に混ざり合い異様な生物へと変貌を遂げていた。

ヴァルヴィナスは立て続けに斬撃を放ちながらその距離を詰め攻撃の手を休める事なく攻めた立てた。

その間にも兵士たちの避難は進んでゆく。


「ヴァルよ!これは何じゃあ?!」

「わからん!わかっているのはコレは死体で動いているって事だけだ!」

「ドラゴンゾンビか…」

「わからん…でもそれだけではない気がする」


 カミュはアダムの消えた森へと視線を向けた……あちらでも何かが起こった……コレはそれに関係するのだろうと感じていた。








 カミュと異形のドラゴンの戦いは続いていた。

ドラゴンは動きは無いがその背中から無数の魔力の触手が縦横無尽に襲い掛かって来るのだ。


(凄い……)


 ベラドンナとネアトリーシェは息をする事すら忘れてしまうほど目の前の戦いに見入っていた


 魔剣ガンマリーの力は強力であったがそれを扱うカミュには技術が不足していた。

 最初の頃は傷を受けながらの防戦一方であったが

やがてまともに打ち合う様になり、そして今では攻撃を交わし相手に傷を与える程になった。


「何というか…凄いな…」

(なんなの?この子…一体何者なの?)

「ああ……順応するのが早過ぎるけど…」


 ベラドンナとネアトリーシェは困惑すら感じていた。

カミュの成長する速度が異常すぎるのだ…その姿は見ているものを不安にさせる……生き急いでいる様な錯覚すら感じられる程に。






 既にカミュは痛みを感じてはいなかった

ドラゴンより放たれた黒い針のような魔力が彼の肩を貫いた。

しかし彼は止まる事無くドラゴンに迫るとその尾を切り落とした。

痛みを感じているのかは不明だが、ドラゴンが咆哮を上げた。

ベラドンナ達は堪らず耳を塞いだが、カミュはその中でも更に動きを速め切り掛かった……最早、音も聞こえているのかさえ怪しい状況だつた。







痛みが消えた……

音も消えた………

目の前のドラゴンしか見えなくなり……

やがて全てが真っ白な世界に一人佇んでいた。


『よくぞ此処に辿り着いた』


 その声に振り返ると白い鎧に身を包んだマクガイアが立っていた……そしてその後ろにも何人もの人影が見えた。


(此処は?)

『此処はお前の精神世界……誰もが辿り着ける可能性を持ち、誰も辿り着けない…無の境地』


『お前は皆を守りたいと願い』

『剣もお前を守りたいと願った』

『ここにいる英霊は結果は違えど何かを護りたいと願い』

『散っていった英霊達の集う剣の聖地……』

『『『『エクスカリュシオン』』』』


そこにいる彼らに見覚えがあった…

赤き鬼神ゴルドラ

青き闘神ヒュゴラス

斬首皇帝ギルロンド

その他にも歴史に名を連ねる剣豪や英雄と呼ばれる者達だった。


彼らも友を、家族を、国を守る為にその身を犠牲にしてきたのだ。

彼らの目には既に怨みや憎しみと言った感情は感じられ無い。

ただ今愛する者の為に戦うカミュに温かく優しい視線を向けていた。

『力を求める者はやがて道を迫られる』

『護るか…攻めるか…』

『我らは護る為に攻め……』

『そして命を失った……』

『カミュ…お前は…護る為に力を求め……』

『此処に至った』


気がつくとカミュを中心に英霊達が円陣となっていた……その全てが剣を頭上へと掲げた。


『認めようー我らが新たな仲間をー』

『応えようーお前が求めるならー』

『守護騎士カミューリア…お前は何を求める?』









ドラゴンの一撃にカミュは回避が間に合わず後方へと弾き飛ばされる……

それでもゆっくりと立ち上がり…一言放った。


「彼女を護り、取り戻す力を!」


 瞬間、周囲の空気が変わった……いや、空気が変わるなんて有り得ない…しかしそう表現するしか他に例えようがなかった。


 触手がカミュに殺到した時、既にカミュはドラゴンの後方で剣を腰に戻す格好だった。


「居合閃光 ー 【煌】」


 触手が一瞬でバラバラに切り刻まれドラゴンの足から黒い血が噴き出した。


ドラゴンは再び触手を創り出すとそれを一つにまとめ上げ強靭な一本の触手としてカミュへと繰り出した。


 カミュは振り返ると中段の構えで大地に足を踏み下ろした……足が地面に埋まり、周囲に亀裂を入れた。


「鬼神剣 ー 凪流星」


 踏み込みからの前方への横凪はその触手を両断した…一瞬の閃光が走った様に見えたが数十回の斬撃が重ねられた物である…


「東方剣技 ー 百花繚乱」


 凄まじい剣の軌跡が触手の上を刻み付けながらドラゴン本体に迫った。

さながら風に舞う桜の花弁のように防ぐ事は出来ない。

ドラゴンは無数の傷を受けながら咆哮をあげる事しか出来なかった。


「……あの剣技……姉さんの所にいた鬼の人が使っていた……」


 過去に姉の国に遊びに行った時 たまたま演習をしていた場面で見た記憶がある……

その他の技の名前もどこかで聞いた様な気がする……なのに流派も構えも統一されていない……先程とは彼の纏うオーラとでも言うのか……雰囲気が別人の様であった……


「まさか……至ったのか?「無の境地」へ!!」

「「無の境地」?…自らの求める力を授かると言う……あれはおとぎ話でしょう?」

「だが目の前のあれをどう説明する?」

「それは…」

「あなたも魔道に身を置くものならわかる筈だ…力を求める者には決して真理は見えないと……それに……」

「……それに?」

「愛する女の為に此処までする男なんて…かっこいいじゃないか」









「東方剣術、桜花流指南役 ムラサメ」

「バーアット流剣術 ギダン=バーアット」

「水神二刀流 ファルシオラ」

「岩斬剛剣術 ギュステリアス」




英霊達が剣を掲げ、名乗りを上げる……その度に彼等の技と記憶が頭の中に刻み込まれる。

指南書や吟遊詩人の詩…どこかで聞いた事のある名前ばかりだ。


目の前に見覚えのある男が立っていた。


「青き闘神 ヒュゴラス」

「恨みは無い…お前の思いの強さが俺よりも優っただけ……我が剣は攻めの剣!護る為に攻める…」





ドラゴンが雄叫びをあげ体勢を崩した…


「阿修羅旋風!地獄独楽!」


 カミュが剣を大きく振り回す…二回…三回…

その遠心力で回転速度とその威力は増してゆく…!

ドラゴンの脇に着地と同時に袈裟斬りにその一撃が切り裂いた




「赤き鬼神 ゴルドラ」

「我が剣は折れぬ剣!民を護り 心を護り 己の信念を護る!」


 苦痛にもがくドラゴンがその腕をカミュ目掛けて突き出した

この至近距離では回避は不可能だった。


「剣波」


 その掛け声とともに剣より闘気が噴き出し見えない盾となってその爪を防いだ。





「斬首皇帝 ギルロンド」

「我は…アレと戦った……アレは獣から獣へ…人から人へと伝染する……倒すには首を切り落とすことしかできぬ」





攻撃を防がれたドラゴンは致命的な隙を見せてしまった。


「斬首剣 尖」


 高速の一撃が下から上へと直角に切り上げられた………しかしドラゴンは俊敏に反応しその巨大を瞬時に後ろへと飛び退かせた……

首から頭部だけを空中に残したまま……




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