ヤミノフルヨル3
………紫音は暫く路上に両手をついて項垂れていた。
いくら子供とはいえなんつー………夢見る子供かっ!
……いや子供だったんだけど……ね。
過去を回想するついでに自らの恥ずかしい初体験も思い出した紫音は思いっきり凹んでいた。
なんとか立ち直るとハンカチを腕の傷に巻き付けた。
……へんなバイ菌とかいないだろうな……
先程まで命の危険を感じていたが一度の戦闘が紫音の気持ちを切り替えていた。
紫音は鞄を抱えると奥に向かって歩き出した。
このまま此処にいても事態は進展しそうに無いし……未だに戦闘の気配が奥から感じられる。
再びさっきの猫ちゃん達に出会う可能性もあったけど……私の心の声が(進め)と告げていた。
……気配が濃くなった……いるっ?!
再び鞄を抱えシールドを展開するべく構えた。
前方の路地の暗闇に無数の目が輝く……その数およそ十数匹……これは流石に防げ無いなぁ…
紫音は咄嗟に駆け出した。
先程の戦闘で動きを見る限りそこまで足が速いとは感じなかった。
…二足歩行だから?
追い付いてくる奴は鞄で殴り飛ばした。
…魔眼を発動させたいが
一度発動させると次までは30分位時間を空けないと無理なのだ。
…発動したからといっても成功率は相変わらずなのだが…
(…さっきのファイアボールはこちらから来た筈だ。)
ワイルドキャットと敵対する者が味方になってくれると判断した行動であった。
……まさか犬が相手だったなんて事は無いはず……そう信じたい
。違った時は………そんときゃそんときだわっ!
路地を突っ切った先の階段を駈け上がりその先の小さな公園を目指す。
改めてこの結界の規模に驚く。
このまま紫音のアパートまで帰れるんじゃないかと思ってしまうほどの広範囲だった。
公園を渡り切る前に紫音は足を止めた。
やはり数が多い為か逃げ切るのは不可能だった。
リングの補助を受けて紫音の使える初級魔法で戦うしかない。
最初に飛び出してきた奴に「感電」の魔法を見舞う。
それを見た他のキャット達は警戒しそれ以上は飛び掛かってこなかった。
(…どうする?ここは一発逆転狙いで指輪の力で「炎の壁」で行くか……)
問題はその成功率だ。
初級魔法はそこそこの確率で成功するが 中級となるとその成功率は三割を切る。
魔眼が不安定な事もあるが、紫音が頑なに魔眼の使用を避けていた為 熟練度が著しく低いのが原因でもある。
しかし背に腹は変えられない!
「ええぃ!ファイアウォ……」
紫音が腕を突きだし魔法を行使しようとした時 周囲に爆炎のの壁が巻き起こった。
周りにいた何匹かのワイルドキャットが巻き込まれて消し炭になった様だ。
その規模と熱量に驚いた紫音は後退りしながらも躓いて尻餅をついた。
ななななな何よこれっ?! 私っ?!私がやったの?! 私SUGEEEEE!!!
「貴女大丈夫?……って紫音?!」
背後からの声に振り返った。
そこには毛先に赤く燃える炎を灯したイリューシャがいた。
彼女がここに居ることは驚きだったが…彼女もここに紛れ込んだのだろうか?
それにしてはやけに落ち着いた雰囲気だった。
…ああ、そうか…先ほどのファイアボールの主が彼女であることに気づいた。
イリュが差し伸べた手によって引き起こされる。
彼女も私が居たことに対して驚いているようだった。
「!?イリュ?……燃えてるっ!」
紫音は彼女の髪先に火を見つけ、慌てて彼女の毛先に燃える炎を叩いた。
しかしそれは一向に消える気配を見せない。
とゆうか 熱さを感じないのだ。
「あはは…紫音大丈夫だよ…それは私の魔力の現れ……体の一部だよ。」
「はっ?」
「……それよりも紫音……その腕…」
イリュが腕に巻かれたハンカチに気付きそう呟いた。
「あはは…さっきあいつらに……?イリュ?」
瞬間イリュを取り巻くオーラが変わったように感じた。
炎の暖かさから氷の様な冷たさに……
「よくも……よくも私の可愛い紫音に傷を………!!」
彼女を取り巻く炎が一層燃え上がる。
……えっ?……私のって言った?いやいや今はそんな事は放っといて……
イリュの身体に変化が現れた。
髪は肩から先は炎となり 手首 肘 膝にも炎が燃えていた。
……あれ?イリュの耳ってあんなに長かったっけ?
極めつけはスカートの下から覗いてる……アレは何?ふりふり~あぁなんだ…尻尾か……尻尾?!
そこでイリュは声高らかに自分達を取り囲む妖魔の群れに向け、名乗りを上げた。
「下等な妖魔の分際で我が逆鱗に触れた事を後悔するがいい!!
我が名はイリューシャ‐ハイヴァリエル!誇り高き焔魔族最後の戦士なり!」