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魔眼の使徒  作者: vata
第二章 暗き森の魔女
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真・暗き森のマトリーシェ 11


「キリがないな!」


 ヴァルヴィナスは目の前のゴーレムにとどめを刺すと次の獲物に視線を向けた…アダム、ヴリドラ、ヴァルヴィナスの三人が前線に出て来た事でゴーレム達は遠距離攻撃から近接戦闘に切り替え予想以上の数が襲いかかってきた。


「ふぅ…年寄りにはきつい作業じゃのう…」


 巨大な竜と姿を変えたヴリドラが手元のゴーレムを握り潰すとその隣のゴーレムを持ち上げ同じように捻り潰した……城下町で見かける内職作業にも似た効率の良さそうな戦い方であった。


「……すごく楽そうに見えるのは気のせいか?」

「オラァ!手前らサボってんじゃねえ!さっさと片付けろや!」


 アダムのいる戦場では大小のゴーレムが宙に舞っている……


「お前が異常なだけだ!これが普通なんだよ、」

「細かいのがちょこまかと多過ぎるからな……いいのか?お前の国の兵士達に倒せるのか?死ぬぞ?」

「ゔっ」


 正論であった。

巨大なゴーレムの足元には人間サイズの歪なゴーレムが大量に配置されて居たのだ…

今は大きな被害がなく防御と攻撃、回復と補給が機能しておりこのまま問題がなければ勝利は可能だろう。

しかし彼らにも限界はある為、疲労が蓄積した先には現状の体制の崩壊が目に見えている。

極め付けは先の互いの争いに寄ってマクガイアやヒュゴラスと言った高戦力の将兵が戦死や負傷などにより不足している。


「お前のコレクションを久々に見せてみろよ」


 隣に降り立ったアダムがヴァルヴィナスに問いかけた。

一瞬嫌そうな顔を見せたが仕方がないと諦めた。


「いいだろう……いつかお前を葬る為に見せたくは無かったが……そうも言ってられない状況だしな……行くぞ!魔剣解放」


宣言と共にに彼の背中に翼が広がる……それは片翼が六本の魔剣で構成された…十二本の魔剣による翼だった


「一の魔剣!」


 その声と共に背中の一本が彼の手元に現れる。

掛け声とともに横凪で剣を振るうと巨大な斬撃が眼前のゴーレムを真っ二つに切り裂き,その背後の魔物達も次々に切り倒してやがて消えた。

そしてその魔剣は光の粒子となって消えた。


「二の魔剣!」


 次の呼び声に再び背中の剣が一つ彼の手元に現れる

上段からの振り下ろしに応じて周囲に落雷が殺到する……十二本の魔剣を使役する…それが「魔剣王」と呼ばれる彼の実力だった。


「おお!すげえなぁ!かっこいいじゃねーか」

「ふむ…魔剣王は健在じゃったな……ではワシもええ所を見せておくか」


 ヴリドラが飛翔しその体から眩い光が放たれた……背中の対の翼が大きく躍動し六対の翼となった。


『竜王顕現』


 その背よりゲートが開かれ中から六匹の竜が現れる……赤竜、青龍、風龍、雷竜、黒龍、聖龍……龍族の頂点「六精龍」である…その全てを従える彼こそが「魔竜王」なのである。

 六竜が戦場を飛び回りゴーレム達を駆逐してゆく……

そんな様子を笑みを浮かべて見ていたアダムだが……森に向けて険しい視線を向けた。


「……おい!ここを任せてもいいか?」


 突然アダムから声をかけられた…予定外の行動にヴァルヴィナスの脳裏に嫌な予感がよぎった。


「ちょっと問題が発生したようだ…‥…そんな心配そうな顔するなよ.お前の嫁達は安全だ」

「……そうか……?まて,嫁達…だと?カミュは?」

「…それはあいつ自身が決める事だ」


 それだけを言うと目の前のゴーレムを切り伏せると森に向かって駆け出していった。









  レイヴンより無数の触手がヘブラスカを包み込みむとその体内へと取り込み巨大な繭の様な物体にへと変貌を遂げた。

脈動するその繭が大きく跳ねると中から禍々しい形状の腕が突き出された……中から何かが這い出ようとしていた。


 カミュは立ち上がると腰から剣を抜き出し構えた。


 中から現れたのはその身から黒いオーラを放つ四足歩行の黒い獣の様な存在だった。

 長い耳は狼を連想させ、耳まで裂けた口はドラゴンを彷彿させる。

頭部には赤い光のラインが走り無機物の様な印象も与えた。

突如その口から赤黒い炎の様なブレスが吐き出された。

咄嗟にかわしたカミュだったかそれを浴びた木々は枯れて朽ち果てしまった……


「!?腐食性ブレス!」


 慌てて後方のイヴ達を確認するが彼女の結界だけはブレスを防いだ様だ。

その魔力はヘブラスカでもなくレイヴンでも無い全くの別の何かだった。


 やがて地面に突き立てられたマリファ達の宿る錫杖を見つけると

獰猛な笑みの様に口を広げた。

 咄嗟に二人を庇う為にその前に立ちはだかったカミュだったがその腕の横凪の一閃に手持ちの剣は砕け散り、自身も吹っ飛ばされてしまった。


「!!しまっ…」


獣は先程の恨みを晴らす様に錫杖へと向けてブレスを放った。

とてもでは無いが間に合わない……


 その時、マリファとマリータは柔らかい優しい光に包まれた。

自分達を守るように白い鎧の騎士が盾となっていた。


『!!マクガイア(お父様)


それは役割を終えて魔剣のコアに消えたはずのマクガイアだった。

残された魂の残滓と彼女達の溜め込んだ魔力を利用し,再び肉体を得たのだった。

しかしその体も腐食ガスによって端から朽ちてゆく……


『!!お父様!』

『お別れだ…娘たちよ』


 その手で二人の宿る錫杖を地面から抜き去るとカミュに向かって投げた。

2人が最後に見たのは優しい笑顔向けたマクガイアが黒い炎の本流の中に消えていく姿だった。


『うわあああああ』


 それは誰の叫びだったのか?マリファ?マリータ?いや二人の叫びだったのかもしれない。

空中で錫杖が光に包まれ、カミュの手に一本の錫杖と一振りの剣が収まった。


「!!」


剣から黒い炎が噴き上げその腕を焼いた為、カミュはその場に剣を取り落とした。

マクガイアを失った事による悲しみと怒り…凄まじいまでの憎悪の炎だ。


『カミュ!大丈夫?』

「ああ…この剣は一体?マリータなのか?」

『いや…私もマリファも錫杖の中だよ…この剣…この子は私たちの悲しみと憎しみから生まれた3番目のマトリーシェ……でも人格と言うより…負の感情…精霊に近いかもしれないわ』

『ガンマリーシェ』

「…!?」

『我が名はガンマリーシェ!全てを憎む者』


 手に取ろうとしたカミュの手を黒い炎が焦がした。

呪いの魔剣…いや…呪いではない。

(何故私だけが…)(寂しい…寂しい…)(憎い…憎い…)(皆、私だけを残して…)

これはマリーの感情の一つなのだ…今まで眩いばかりの輝きを放つ存在であったマトリーシェだがその生い立ちは苦難の連続であったと聞く……今まで見せなかっただけでその心には少なくない悪感情が溜め込まれていたに違い無い。

そう考えると不思議とこの剣に対する恐怖心は無くなった。


「カミュ」

「ネアト…これを…」

 

 そばまで近寄ってきたネアトリーシェに錫杖を託すと彼女はカミュに回復、強化などありったけの補助魔法をかけるとイヴの結界へと退避した。

 それを見届けたカミュは再び魔剣を手に取った…黒い負の炎が彼の腕を焼いた。


「ガンマリー…寂しいかい?僕もだよ…何故僕がこの世界に居るんだろう?もう思い出せないけど僕にも両親が居たはずなんだ……憎いかい?僕もだよ…何故自分がこんな目に遭うんだろう?やっと出会えたマリーすらも僕から奪っていくあいつらが憎い……君のその感情は正しい…誰もが持っている物なんだ…だから一緒に戦ってくれないか?」

『貴様に何がわかる?!この私の悲しみが!苦しみが!この孤独を!!わかるものか!』

「……わかるよ……ガンマリー…だってその悲しみも苦しみも孤独も……僕が与えてしまった物かもしれないんだ……だから…もうマトリーシェにそんな思いをさせたく無いんだ……これからはずっと側に居たいんだ…だから…力を貸してほしい…」

『………』


 この男の言葉は本物だ。

この身を包む『憎悪の炎』に触れてなお、その感情に迷いはなかった。


『いいだろう…その約束が果たされない時はその身を持って償うがいい』

「…ありがとう」


  先ほどまでの腕を焼く痛みが波が引く様に鎮まった。

逆に痛みが癒やされてゆく……

先程の様な熱さは感じない…彼女だって生き物だ…悪感情だって持っている…それを認めて、寄り添える事にカミュはある種の喜びを感じていた。



「行くよ!ガンマリー!!」


 その柄を握る手にはもう刺す様な痛みは感じなかった…

あの日二人で感じた草原の日差しの様な暖かさだけだった。




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