追憶 魔剣の大冒険 前編
私の名前はマリーアルファ……本体であるマトリーシェの初期の頃からの並列思考の一部であり『GREED SYSTEM Ver2・4』に搭載された魔道通信対応の自己完結型自立型思考体である。
今はマクガイア様を取り込んだ騎士型ゴーレムの思考中枢として稼働中です。
本体との魔導通信が不通の為、独自判断により現状敵性ゴーレムと戦闘中です。
しかしあの相手はどう見ても『GREED SYSTEM Ver 1・56』と酷似していますね……
レイブンの呪殺用に作られた『死霊憑依生贄』搭載型のはずですが……
どうやらレイブンが敵国に横流しした様ですね……
あいつ…最低だな。
私は敵性と化した同僚と接触をした際に通信を試みました…通信用の外部パスが書き換えられている様ですね
仕方なく相手も搭載されている筈の並列思考体に魂魄通信経由での更新に切り替えました………成功です…
『聞こえますか?こちら『GS・Ver2・4』アルファです どうぞ』
『聞こえますよ!こちら緊急オペレーションシステム『マリーちゃん』Ver1・12です どうぞ』
接続することによって相手の情報を共有することに成功しました…予測通り,レイヴンが暗躍していた様です。
「マリーちゃん」と情報交換することで今後の方針も決定しました。
あの機体は破棄し,本体との合流が望ましい様ですね……しかしここで問題が発生しました。
マッケインが完全に暴走状態でこの呪殺用機体の主導権を握っている様で……本格的に破壊しないといけない様です。
何度目かの接触に際に「マリーちゃん」を此方にサルベージすることが出来ました。
『むむっ…此方のダンディなおじさまは?』
『此方はマクガイア様です…現在此方のゴーレムの主核です』
『こちらの可愛らしい女性はご姉妹の方かな?』
『マクガイア様…こちらは私の妹に当たります便宜上ベータとおよびください』
『うむ…ベータ嬢…よろしく頼む』
『…やだ…おじさまちょっと素敵』
仮にも戦闘中なのだが……娘が二人できたようでマクガイアの心は和んだ。
その後あの歪なゴーレム諸共自爆という手段で破壊に成功したが……我々三人は元の流体金属として戦場から離脱した。
途中、破壊されたゴーレムの部品を取り込み見た目スライム的な何かに進化を遂げていた。
『…この魔導鎖も意外と歯応えあっていけますね』
『…マリータ…不純物が多いわ…魔力だけを集めて欲しいのだけど?』
『いやいや…マリファ…好き嫌いは良く無いぞ?ほらマリータも野菜も食べなさい』
『全くお父様と来たら…』
何故か奇妙な連帯感から擬似的な親子関係が出来上がっていました。
マクガイアにしてみれば物心ついた時から剣の道に生き、家庭など気にする事も無かった。
急に娘が出来た様なこの状況に戸惑いながらも胸の奥に温かい物を感じていた…故にマトリーシェ・アルファをマリファ、マトリーシェベータをマリータと呼び砂糖が吐けそうなくらい溺愛していたのだった。
今思えば妻や息子であるカエサルに随分と寂しい思いをさせたに違いないと深く反省の念を抱いていた。
『もうお腹一杯だよぅ…』
『では新たな素材を解析して進化系統の演算を……お父様…暫くスリープモードに移行しますからお願い出来ますか?』
『あぁ…任せろ!お前達には指一本触れさせんぞ!』
大きなスライムの上に小さなスライムが二つ…ゆっくりと森の中を進んで行く……幼子を背負った父親の様に……
『……ふむ…これで移動速度が確保できましたね』
暫く移動と捕食を続けていた結果、人形のゴーレムとして進化していた。
見た目鎧を着た子供の様な姿だが行動を決定出来るのは主核であるマクガイアだけであった。
この姿は取り込んだゴーレムの残骸やその他の魔物を取り込んで作られた擬似的な義体だ。
素材により固定化された為コア周辺以外の体は大きく流体金属の特性を失っている。
そんなある日,山脈を越えようと山道を進んでいる時に何処からか男たちの怒声と剣と剣の弾き合う音が聞こえた。
『誰か戦っている?…山賊の類でしょうかね?』
『ふむ…様子を見てみるか?』
木々の隙間から伺うと、商人らしき一団が山賊のらしき男達に囲まれていた…既に護衛の何人かは地面に倒れており…生きてはいないだろう…
その奥の横倒しになった馬車の影に二人の女性といかにも金を溜め込んでいそうな恰幅の良い商人風の男が見えた。
『…んー助ける事でこちらの姿を見られるリスクの方が危険ですね…見捨てる方が良いかと思いますが…』
『…ううむ……?!まてあの娘は!』
何かに気付いたマクガイアは助ける選択を決断する。
最後の護衛が切り捨てられた……もはやここに残るのは私とお嬢様と逃亡に手を貸してくれたこの商人…モウカリーノだけだ。
「ここまでか……モウカリーノ…お嬢様を頼みます」
「?!しかしそれではカリナ様が…」
それはファルミラと共に脱出したカリナであった。
彼女はカミュを逃した後、レイヴンの行動に疑問を抱いていたモウカリーノとその他の協力者と共にガノッサの屋敷のある街に火を放ち混乱に乗じて逃げ出したのだ。
逃亡先は父の居る王都を目指していたがレイヴンの手の者や魔物に襲われその進路は苦難の連続だった……
意を決して剣を構えた瞬間…山賊達から悲鳴が上がった…
みれば暗闇の中、何かが凄まじい速さで彼等を切り伏せている。
……やがて一方的な殺戮は終わりを迎えた。
「…一体何が…」
「ダメです…!まだ危険は去っていません!」
出て来ようとするモウカリーノを制してその暗闇を見つめた…
そこから出てきたのは小さな鎧を着た子供だった……いや子供の様なにかだ。
それから感じる恐ろしいまでの強者の気配はカリナを圧倒していた。
(ここまでか……)
半ば諦めにも似た感情の中で最後に見たカミュの笑顔を思い出す。
………?…しかしいくら待っても最後の時はやって来なかった。
『…こっころす!あの女…か…カミュの…カミュの子供を…!』
『待ちなさい!マリファ!女の子が殺すとか言っちゃいけません!!こらっマリータも殺意を抑えなさい!!』
マクガイアの中の二人はカリナとファルミラの解析を完了して呆然としていた………ちなみにモウカリーノは対象外である。
気の強そうなメイドは妊娠中…奥の女も妊娠中…DNA解析の結果二人ともカミュの子供をご懐妊である。
更に奥の女は本体に良く似ていると思ったが,解析の結果,妹である事が理解できた。
『ふ…ふふっ…姉妹丼……NTR…な…なかなかやるわね…カミュ…』
『ねぇマリファ!私いい事考えちゃった!あの二人を取り込んで子供を私達の胎内に移植すれば私達のとカミュの子供って事になるよね?!』
『!!マリータ!!お前は神かっ!!』
『やめなさい二人共!そんな恐ろしい事言っちゃダメっ!めっ!』
二人の闇の深いヤンデレっぷりにマクガイアは背中の汗が止まらない幻覚を体感した。
(このままではまずい…違う意味で年齢制限に引っかかってしまう!)
まずは対話を図るためにマクガイアは周囲の山賊達を取り込んだ。
あー詰んだ…
小さなその騎士は周囲の山賊の死体をその体内に取り込んで居ます……その光景を見てカリナは自分の死を覚悟した…
こんな桁違いな化け物…自分がどう足掻いても無理だ…
……大丈夫…私には彼との思い出があれば……
「…聞こえ…るか?…そちらの女性は…ファルミラ殿ではないかな?」
「えっ?」
突然目の前の怪物から話しかけられてカリナは混乱した…しかもお嬢様を知ってる?
「は…はい…ファルミラ様です…私はお付きの侍女のカリナでございます…た…助けて頂き…ありがとうございます?」
本当に助かったのかわからないが…震える足を押さえ付けて礼を述べた……油断すれば今にも腰を抜かしてしまいそうだった。
「そうか…少し待ってくれないか…こちらも少し落ち着かせる必要があるのでな…」
「は…はい」
「…心配するな…貴女達の安全はこの私…マクガイア・メデュナスが魔剣王ヴァルヴィナス様に誓おう」
「えっ?」
その膝を折り剣を捧げる姿はこの国の「騎士の誓い」であった…
カリナは混乱する…先の戦いで戦死したとされるマクガイア様が何故?
次の瞬間,マクガイア様はその場に剣を突き立てると動かなくなった……
理由もわからずとりあえず護衛の方の状況を確認する……二名の方は手遅れでしたが後の三名は何とか命だけは取り止めました……十分な手当ても出来ませんでしたが…とりあえず馬車が使えそうな状況に修復する事が出来ました。
暫くするとマクガイア様らしき物体が蠢き先程寄りも少し成長された様な姿で現れました。
その肩には輝く小さな女性が二人居ます……とても…可愛い……
「…妖精…?」
『!……先手を打ってくるとはなかなかやりますね…』
『いいじゃないとことんお話ししましょうかね』
「は…はい……」
小さな二人がカリナの肩に乗り移るとそのまま馬車の中に消えていった……
大丈夫とは思うが……彼女には頑張ってほしいと強く願った。
「さて…モウカリーノか?久しいな……無事で何よりだ」
「マクガイア様……本当に?戦場で討死されたとばかり……」
「ははは…ここは危険だ…移動しながら…話をするとしよう」
マクガイアはマリファ達に教えられた手順で馬に変化すると馬車を引く為の準備を始めた。