~間章~キオク
「……終わったよ」
彼の声に私は目を開けた。
彼は私の目の前にいて 私の肩を両手で掴んでいた……少し疲れた顔をしていた。
「大丈夫?」
「うん…思ったより君の力が凄かったんだ……もう大丈夫…とは言えないかも」
「えっ?」
彼の言い回しに少し不安になった。
そんな様子に気付いたのか彼は優しく笑って ごめん と一言。
「見てごらん」
そのまま体を反転させられた 目の前には鏡に映る自分がいた。
……その髪と瞳は私の嫌う紫ではなく……
「わぁっ!お母さんと同じ真っ黒だぁ!」
紫音は夢にも思わなかった自分の変貌に心踊らせた。
夢では無いだろうか?いや……夢だったら嫌だな……
軽くほっぺをつねられた。
「……いひゃい」
「夢かも……とか考えてそうだったから……ごめん」
……彼は申し訳無さそうに手を離した。
でもそんな彼の心遣いが嬉しかった。
私は振り返り彼の両手を握った。
「ありがとう…私…私…」
「…うん…いままで良く頑張ったね…」
お礼を言いたいのに…彼の言葉に涙が溢れて言葉を繋ぐ事が出来なかった。
彼は私を抱き寄せて泣き止むまでずっと髪を撫でていてくれた。
「…落ち着いた?」
「…うん……その…服…ごめんなさい」
彼の胸元は私の涙で染みを作っていた。……鼻水ではない!
「それから…ありがとう」
「どういたしまして……でもね…これはあくまでも一時的な方法だから…今から言う事は忘れないで」
彼が言うには私の眼力が無くなったわけではなく 強制的に休眠状態にしているらしい。
更に色々制限があった。
要約すると
‐魔眼保持者から適合者扱い(魔法は使えるが自制する様に…成功しないことが多くなる為)
‐使用した場合の成功率は著しく低い。(魔力の根元の眼が休眠している為)
‐一時的に魔眼を発動させる事が可能…強く念じる (その場合限定的な解除の、使用時間は5分間)
‐強い感情に反応して魔眼が発光する場合がある。(強い驚きや衝撃…特に怒りの感情には反応しやすい)
等々細かい指摘事項は有るものの今までの状態から考えると至って大丈夫だった。
(後に色々苦労する事は考えもしなかったのだが……)
「……うん…大丈夫…生まれ変わったつもりで頑張るよ」
紫音は小さくガッツポーズを作る。彼は笑う……うん、頑張って…と
「……私からは…あなたに何もしてあげられないけど……」
「気にしないで…君が頑張れるなら…それでいいんだ」
「でも…これは…私の感謝のしるし…」
紫音の両手が彼の頬を包み込んだ。 ふっ と 柔らかな唇が重ねられた。
それは短く重ねるだけの幼稚な口づけ……しかし紫音の感謝の気持ちと精一杯の勇気が伝わってきた。
「…い…一応私の初めて何だから感謝してよねっ」
照れ隠しにこんな事を言ってみた。彼はありがとうと言って笑った。
……不意に真面目な顔付きになると
「……君の名前は?」
そういえばお互いが名乗っていない事に気付いた。
「…紫音…紫の音って書いて紫音」
「紫音か……君にピッタリのいい名前だ」
「……ありがと」
「……僕の名前は*******……」
「…*******…」
「うん…でもこの名前は忘れて……もしも君がこの名を覚えていたら……」
再び記憶が曖昧になる……彼の名前……なんだったかなあ……