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魔眼の使徒  作者: vata
第二章 暗き森の魔女
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真 暗き森のマトリーシェ 2

(……うっ……ここは……)


 カミュの意識がゆっくりと覚醒した。

視界に入るのは見知らぬ室内だった。

混濁した意識を落ち着かせると意識を失う前の記憶が断片的に蘇ってきた。

マトリーシェにより、強制的に指輪が彼の魔力を吸い上げ、黒騎士へと変化させ、シルヴィアとベオウルフと共に逃走の一途を辿ったのだった。


「良かった!カミュ!気がついたのね!」


 部屋の隅に座っていたシルヴィアが立ち上がりこちらにやって来た…手当の具合を見るに其処まで大きな怪我は追っていない様だ。


「……シルヴィ…ベオは…?」

「えっ…あ…無事よ…暫くは…動けないけどね……」


 彼女の視線の先にもう一台のベッドがあり手当てされたベオウルフらしきシルエットが見えた。

ほぼ全身包帯で巻かれておりかなりの重症だと思われたが、その目は既に開かれていた


(安心しろ!)


と、言わんばかりの強い意志を感じた。


「そうか…無事か……レイヴンめ…酷い事をしやがる…」

「えっ?…あ…あぁ…そっそうね……」


 何故が歯切れの悪い返事を返すシルヴィアに違和感を覚えたが…何かあるのだろうか?言われてみれば彼が一番の重傷であり……

しかしベオの目を見る限りでは後遺症などの問題はない様に見える…見た目だけ?

(次に会った時は不覚を取らないぜ!)

と言わんばかりの強い意志を感じた。

まさか……逃走中もベオが追撃の手をその身で受けていたというのか!


(ベオ…ありがとう)

(当たり前だろ!ブラザー)


「………」


 気がつけばよくわからない男同士の心の通じ合いが行われていた。

彼の怪我の決め手は最後の瞬間の不時着が原因なのだが

魔力枯渇で半ば意識を失っていたカミュも記憶が曖昧な状態であり

既に意識を失っていたベオウルフも知らない事実だ。

二人の友情の為にも真実は墓場まで持って行くことを誓うシルヴィアだった。


「…シルヴィ…マリーはどうなったんだ?」

「……」


 その悲痛な顔を見れば嫌でも現実を思い出す。


「あの娘なら魔界全域に宣戦布告したぜ…」


 ドアが開かれ二人の男女が入ってきた…意識を失う瞬間に見た黒髪の男と金髪の女…あの二人だろうか?彼等は二人とも目を覆う仮面を付けており、うまくその顔を認識することができない。


「…この仮面なら気にしないでくれ…呪いのような物だ……俺はアー…アダムだこっちはイヴ」

「俺はカミュです……貴方達が助けてくれたのですね…ありがとうございます……あの……宣戦布告…とは?」

「そのままの意味だ」








「馬鹿な!戦死だと!」


魔剣王ヴァルヴィナスは台座から立ち上がった。

マクガイアの息子のカエサルは王の御前にて先の戦闘の全てを報告した。

敵側も魔女のゴーレムが保有されていた事、そして父がゴーレムに取り込まれ共に相討ちとなった事を見届けていたのだった。

今や領地内にマトリーシェの作ったゴーレムが多数存在するこの国は混乱を極めていた。

……彼女の指示により自立起動したゴーレムが各地で暴れまわっていたのだ。



「…そうか…やはり魔女が裏で手を引いていたのか…」


討伐隊も全滅し問題の魔女も失踪したとの報告も受けていた。


「…カエサル…こんな時だが剣の一族を継承し俺に力を貸して欲しい」

「御意に…この身は御身の剣…この命果てるまで!」

「…今はゴーレム供を止める事が最優先だな…」


「大変です!!」


新たに兵士が部屋にやってくると慌てた様子で外を見る様に促した。

全員がまとめてバルコニーへと駆け出すと、そこには空に浮かぶように巨大なマトリーシェの映像が映し出されていた。


『魔界に住む諸君こんにちは……私はマトリーシェ暗き森の魔女だと言えばわかるかな?さて……今日は諸君らに1つの提案をしようと思う……我に服従を誓え!そうすれば生きることを許してやろう

反抗すると言うのなら今のうちに準備をするがいい…猶予はニ週間やろう…ああ、それまでゴーレム供は大人しくさせておいてやろう…

その間によく考えるんだな』






「こんな馬鹿げた提案に乗れるものか!!」


ヴァルヴィナスは怒り、その拳をバルコニーの石像に叩き付けた。

石像は砕け、バルコニーに亀裂が走る。

一同がざわつく中亀裂も破片も動きを止めそれがゆっくりと逆再生の様に元の姿へと復元された。


「その意見には私も賛成だよ〜」


 そう言いながら黒のローブを靡かせた黒髪の女性が歩み寄ってきた。

ゆっくりとヴァルヴィナスの前に来ると彼女は優しく彼の頬を撫でた…


「まったくヴァルはすぐ物に当たるんだから…」

「おお…ベル!久しぶりだな!元気そうで相変わらずだな」


二人を除く場の全員が『誰?』みたいな空気に包まれる中カエサルが青い顔で声を絞り出した。


「ま…魔皇帝…ベルゼーヴ…」

「はーい初めましてかな?魔皇帝のベルちゃんでーす」


 カエサルは瞬時に思考を巡らせた。

この距離…主人を守るために命を引き換えにするなら刹那の瞬間でも隙を作る事が出来るであろうか?

しかし彼女のなあんとも言えない軽い感じは何なのだろうか?


「いやー真面目だねぇ…でもやめといたほうがいいよ?」


気が付けば彼の耳元で彼女がそう囁いていた。

一瞬何が起きたのか理解できなかった

あの一瞬で背後を取られた…

後めっちゃ良い匂いがした!



「お前ら辞めとけ…ベルは強いぞ」


瞬時に殺気立った周囲の騎士達だが主人であるヴァルヴィナスの一言で警戒を解いた。


「うふふヴァル…よくわかってるじゃん」

「あの…ヴァルヴィナス様…この方は…」

「……あー…昔こいつとはパーティを組んでいた事がある」

「懐かしいわね〜おじさんも元気かしらね?」

「ベラはどうした?何かあったのか?」

「は?あの子がどうにかなるわけないでしょ?私の妹よ?」


いきなり現れた魔皇帝ベルゼーヴ……長年の怨敵かと思えば長年の腐れ縁……部下達の困惑は如何程のものか………


「とりあえず場所を移そう」














「つまりレイヴンがお前の国にもゴーレムを持ち込んだと…」

「そうなのよねーあいつ私の国で結構暗躍してくれたから大臣クラスの連中も勝手に軍を派遣したりとか……お気に入りの魔将軍とか死んじゃったんだよねーゴーレムもうちのお馬鹿さんが使って街が一つ無くなっちゃってたわー……そのレイヴンって奴が森の魔女さんをポーションやら何やらに誘導してたのは知ってるんだけど…そっかー愛する奴隷の男の子解放するためだったのか」


にやにやとした目つきでベルゼーヴはヴァルヴィナス見た…何かを含むその視線に居心地の悪さを感じた彼は咄嗟に途端に目を逸らす。


「本人の意思なのか…それとも唆されたのか…はたまた体を乗っ取られたのか……ってところかしらね?」

「ガノッサを連れて来い」








 呼び出されたガノッサは混乱の極地にいた。

呼び出された先で主人であるヴァルヴィナスと敵であるはずの魔皇帝ベルゼーヴが優雅にお茶をしながら二人がかりでレイヴンの事や奴隷のカミュ、そして娘達の事まで問い質された……

静かな殺気の中でガノッサは全てを話すしかなかった。


「産まれたばかりの娘をあの森にねぇ……」

「ないわーこのおじさんマジでないわー」

「しっしかし…双子は忌み子であり…我が一族を守る為に…」

「あ?手前殺すぞ?」


 そんな言い訳も凄まじく殺気の篭った言葉に黙殺された。


「うふふ…そうだよねーヴァルは子供大好きだもんねー特に双子とか大好物だもんねー」

「「「ぇっっっ?!」」」


 何故が部下達から驚きの声が漏れた。

マジかよ?本当かよ?

城下町では子供達には

『悪い子は魔剣王に食べられるぞ!』って大人達にとっての鉄板の殺し文句であったからだ。

カエサルも亡き父にそう言われた事があった様な気がした。


「……今はそんな話は良いだろうベル?」


 こんな時でもカラカラと笑う彼女にどこか毒気を抜かれた様に溜息をはいた。その途端に先程までの室内に渦巻いていだ殺気が煙の様に霧散した。


「で、どうすんの?もちろん戦うよね?」

「…そうだな…」

「!!って事は〜みんなも力を合わせないとだよね!!もうこうなったら魔界もいい機会だから国を一つに纏めちゃおうよ!勿論ヴァルが初代魔王様で私は正妻って事で!」

「ちょっと待ってください!!話が違いますわよお姉さま」


 彼の決断に興奮冷めやらぬ勢いでベルゼーヴが捲し立てていると突如ゲートが開きそこにもう1人の美女が現れた………黒いドレスに黒いベールを纏った白髪の女性であった。


「おう、ベラドンナ…元気そうだな…」

「はい、ヴァル様もお元気そうで…」

「あら?ベラどうしたの??」


 優雅に挨拶を交わす二人に軽い感じの声をかけたベルゼーヴに対して先程までの柔らかな雰囲気から周囲の温度が一気に冷めるよう

冷たい視線を投げかけた。


「どうしたのではありませんわ!!約束が違いますわ!!二人で平等にと言う約束でしたでしょ?いけませんね…仮にも一国の代表ともあろう方が約束を違えるなど……そうですね……この際私が正妻で姉様が愛人ということで納得しましょう」

「なんで愛人やねん!」


ギャーギャーと姉妹が喧嘩を始める……彼女の名は呪魔女ベラドンナ 魔界を四分割する実力者の一人で魔剣王のかつての仲間でベルゼーヴの双子の妹であった。


「我々は一体何を見せられているんだ」


 カエサルの呟きに応える者は居なかった。


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