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魔眼の使徒  作者: vata
第二章 暗き森の魔女
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真・暗き森のマトリーシェ 1


 森の至る所で炎が燃えていた…その中をカミュは疾走していた。

カリナの協力を得て無事に都を脱出した全力で暗き森へとやってきた。

そして先程の光景を思い出して焦る気持ちを抑えられずにいた…


 燃える彼女の家……そしておびただしい数の傭兵の死体…あんな残酷な光景を彼女が生み出したのだろうか?それよりも彼女は一体どこに……その時、背後からの強烈な殺気を感じ取り瞬時に剣を構えた。

 横の木陰から黒装束の人影が飛び出して……互いの剣が交差し火花を散らした。


「ベオ?!」

「!!カミュか?」


 やがてお互いを確認すると剣を納めた。

この状況で旧知の人物に出会えたことで安堵する一方でお互いの憔悴した姿を見て状況の厳しさを改めて思い知らされた。


「ベオ!マリーはどこだ?」

「わからん…今ミネルヴァと探している所だ…が…!?見つけた様だ!こっちだ!」


 竜族の間にある念話の様なもので会話でやりとりをしている様だ…

2人はさらに森の奥へと向かう…何かを言い争う様な声が聞こえた………やがて人影と対峙するミネルヴァの姿が見えた。

「ミネルヴァ!カミュも見つけたぞ……?!」

「え?カミュ?!じゃああれは?誰?」


 その視線の先にはマトリーシェを抱く自分がいた……

その彼女の胸元にはナイフが突き立てられており隣のベオが息を飲む音が聞こえた。


「……お前は誰だ」

「おや?君がここに居るなんて……やはりお嬢様では荷が重すぎたか…」

「!貴様…レイヴンか!!」

「ははは…では感動のご対面と行こうか」


 そう言うと何か呪文を唱えるとその姿はカミュからレイヴンへと変化した。

そしてマトリーシェの胸に刺さるナイフが黒い液体の様に溶け出すと彼女の中に染み混む様に消えていった。


マトリーシェが静かに目を開ける……それは今までのような澄み切った金の眼ではなく燃えるような赤い赤眼であった。


「貴様!!何をした!」

「何…彼女を助けてあげただけですよ…本来その強大な力ゆえに歴史に名を残したであろう偉大な魔の一族の後継者を名もない1人の娘としてのささやかな人生を与えてやっただけですよ…しかしそれは間違いでした…やはり彼女は歴史に名を残すべき偉大な魔女でしたよ……魔界の歴史に残るべきだ……最悪最強の魔女として」


 レイヴンの視線の先には地面に蹲ったまま 苦悶に顔を歪めたマトリーシェがいた。


「おや?まだ抵抗しますか……全く末恐ろしい……もう抵抗するのはおやめなさい…深い闇に身を委ねて全て彼女(・・)に任せればいい」


 瞬間、彼女の胸から黒い煙が吹き出し、彼女を取り囲み込んだ……さながら黒い繭の様であった。

それは生き物の様に蠢き・胎動した…

暫くすると霧が晴れるように繭は消えていった……その場に一人の女性を残して…


「……今回は随分と若い肉体だな……しかしながら魔力は恐ろしいほどだ」


 ゆっくりと女が立ち上がる……黒いドレスを身に纏い、黒髪・黒目・全身が黒ずくめだ…


「レイヴン……ご苦労だったな、今回は思ったよりも早かったな」

「お褒めに預かり光栄です陛下」

「しかも今回は客人まで居るではないか…ふむ…この母体の関係者か?」

「はい、その娘の友人と恋人にございます」

「あはははは!!相変わらず悪趣味だな!」


 一体この二人が何の会話をしてるのか理解出来ないでいた……ふと女の視線がこちらに向いた。


「お前がこの娘のつがいが?我に忠誠を誓うなら以前と変わらぬように愛でてやるぞ」

「…マ、マリーなのか?」

「うん?その質問の意味は私がマリーとかいう娘だと言うことか?」

「……マリーなのか?」

「この体は『マリー』のもので間違いないぞ…今は私のものだがな」



 そう言って妖艶な笑みを浮かべた女は自身の体を撫でる様に抱きしめた。


「違う!その体はマリーのものだ!早く彼女を返せっ!」

「……はぁ…全く人の言葉が理解できなかったのかい?もうあの娘は居ないんだよ!」


 彼女が言葉を荒らげると風圧のように魔力が周囲に渦巻いた。


「おっとすまないね まだ体と魔力のコントロールがうまくいかないようだ」


隣のベオウルフが片膝をついた…魔法生物の最高峰たる竜族すらも凌駕する魔力を持つマトリーシェの存在は2人の竜族を震え上がらせた。


「どちらにせよお前たちは私に従う気は無いようだね…ならばここでお別れだよ」


彼女が手のひらを広げるとその上に小さく青白い炎が灯った。

やがてそれはボールのような大きさになりさらに人の頭ほどの大きさにまで膨れ上がった。


「なんて魔力の塊だ…あれはヤベェぞ」


見ればベオウルフの肩は小刻みに震えているミネルヴァも同様だ。

この2人の様子では躱す事は難しいだろう…かといってレジストできる雰囲気でもない……どうする?今ここで魔眼を発動すれば2人を逃すことができるかもしれない…しかし必ずレイヴンが動くだろう…どちらにしても1人ではあの2人を相手にする事は無理だ。


「……さて、残念だがお別れだ…一足先にあの世で……?」


 黒髪の女性は異変に気づいた。

ゆっくりと右手が上がり手のひらを自分に向けた自分は動かしていないのに…

次の瞬間手のひらから白い煙がもうもうと吹き出した。

辺り一面白煙に包まれ何も見えなくなった。


「カミュ!早く二人を連れて逃げて!」

「マリー?!マリーなのか!!」

「早く逃げてもう私には力が……」


次の瞬間上の指輪が蠢いたかと思うと瞬時に体を黒い鎧が被った

そのまま地面に倒れる2人を抱え上げると森の外に向かってかけだした。


周囲は煙幕で覆われておりレイヴンも彼女も意表をつかれて動かないでいた。


「末恐ろしい娘だこの状態で私の制御を奪うとは」

「大丈夫ですか」

「今は捻じ伏せているがもう少し躾が必要だな」

「奴らはどうしますか?」

「興が削がれた…今は放っておけ」

「御意に」





「!!止まれ!止まれ!!!」


暗黒騎士化したカミュは鎧化の解除を試みていた…

マトリーシェによる強制変化は彼の意志を無視してその魔力を吸い上げてひたすら逃走を行なっていた。


(変身できるという事はまだマリーの魔力と繋がっているという事だ!)


 しかし現時点での彼の魔力では彼女の魔力によって稼働するこの鎧を解除出来ないでいた。

方法が無いわけでは無い……しかしそれは繋がりの有る彼女との魔力を自分から断つ行為なのだ……

しかし彼は決断する 彼女を救うために。


「魔眼発動!」


 瞬間カミュの体がブレると淡い翠色の魔力が身体を覆った……そして鎧の魔素が分解を始めた……消えてゆく…彼女との繋がりが………

鎧を失うと二人を抱えたままのカミュはバランスを崩し転倒した……幸いにもそこは柔らかな若草の広がる草原だった。

ミネルヴァを傷つけない様に抱え込み……ベオは……まあ頑丈だから大丈夫だろう。

きっとミネルヴァを傷付ける方が怒られてしまう筈だ。

そう自分に言い聞かせて彼を放り出した。


衝撃防御(シェル・シールド)


 地面を転がる2人を柔らかな魔力が覆い衝撃を和らげてくれた……完全にとは行かないが。

回転が止まるとミネルヴァの安否を確認した。

気を失ってはいるが安らかな表情からは彼女の無事を感じられた。


(…これならベオからお叱りを受ける事は無いな……ベオは………)


 土煙で見えないがそれらしきシルエットが見えた…無事を祈ろう。


 すぐさまマトリーシェの元に戻ろうと態勢を立て直そうとするが急激な目眩と睡魔が襲ってきた。


「!!魔力が………」


 鎧に吸い上げられた上に残りの魔力全てで魔眼を解放した反動であった。

そのまま前のめりに地面に倒れ込んだ。

かすかに動く腕だけを前に少しでも進もうとするがここに来るまでに相当の無理をしてきたことで最早限界であった。


「何かと思えば旅芸人か何かなのか?」

「バカ言ってる場合じゃ無いでしょ!」


 急に聞こえた男女の声にカミュは身構え……る事は出来ずに朦朧とする意識の中 黒髪の男と金髪の女性の輪郭を幻視した。


(……マリー……)


 カミュの意識はそこで深い闇の中に沈んだ。



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