凍てつく心14
「あんたがマトリーシェ?じゃあさっきのは?」
「わからない…私は確か森の中で……転生の術式を実行して…ああ意識が混濁していてはっきりと思い出せないわ…ちょっとモネリス少し離して!」
「ふぁーん!マリー無事で良かった〜!!」
目の前にいる金髪のアイリスのような少女はそう言った……
さっきの影と比べて悪しき波動は感じられない…
それ以前にあの人見知りの激しいモネリスがしがみついて甘えまくっている……
危険な存在では無い様だ。
(イリュ…聞こえるか?)
「!!カイル聞こえるわ!」
先ほどの影を排除したことで魔力的な通信が回復したようだ。
カイルからもたらされた情報は一つ「魂割」についてだ。
その情報を元にモネリスと自称マトリーシェのスキャンを行ったがその様な魂の痕跡は発見出来なかった……先ほど伊織の切り裂いた「嫌な気配」がその魔女の魂の魂割だったのでは?と結論付けた。
「……魂割については排除できていると思う……それと…」
(どうした?)
「……信じてもらえないかも知れないけど……ここにマトリーシェが居るの」
とりあえずこっちに来いと言われたので伊織と2人で最大火力の攻撃を壁にぶつけて破壊してみた……崩壊した氷壁の破片が霧の様に視界を遮った……
やがて視界が回復するとそこにはカイルと紫音,アイリスの三人が仲良く抱擁をしていた……様に見えた。
「!!ちょっと!なんで私が居る時にしないの!!仲間に入れてよ!」
「…何を言ってるんだお前は」
「ぷぎゃん!」
今まさに服を脱ぎ出しカイルに飛びかかろうとした所でおでこに痛烈なデコピンを喰らって悶絶した。
『ふむ……この娘には魂割の形跡が見当たらないな……』
「…そういえば……お嬢様が調きょ…躾をされている最中に黒い煙の様なものが確かに立ち上っていました」
『……結構解除するのに高度な術式とか必要な筈なんだけどな……まあ素晴らしい仕事だと褒めておこう』
地面に平伏するルミナリスを鑑定しても魔女の痕跡は見当たらなかった……むしろ今,この恍惚とした表情を浮かべている方が問題だと思うがな……
『取り敢えず俺はあっちに戻るから……お,そろそろ目覚めそうだぞこの娘…また近いうちに会おうと言っておいてくれ』
「……かしこまりました」
どうしよう…言ったほうがいいのかな?絶対ロクなことにならない様な気がするんだけど……カイル様に相談した方がいいのかな……
などとネルフェリアスが考えているとふっとアーガイルの気配が消えた。
一応問題がないように痕跡を消す魔法を使用してくれたようだ。
「…う…う〜ん……ネル?」
「お嬢様!」
暫くするとルミナスが目を覚ました……
どう説明したら良いかな……
「私は…一体………?……!!……!!……」
やがて意識がハッキリすると何があったのかを思い出した様だ……ズボンの中に手を入れると下着の有無を確認したようだ…… 出来ればその話題は避けてほしいな……とネルは内心思いながら思い出して赤面しそうになる。
「……履いてる……気絶した後に剥ぎ取るくらいの覚悟はしていましたが……カイル様はやはり紳士ですね」
「……ソウデスネ」
「……?!…ネル…もしかして貴女が下着を……」
「!!…いいえ!ほら私も履いてますよ!紫音様も無事に助け出せましたし!!」
慌ててルミナスだけに見える様にスカートをまくりチラ見せすると後ろの紫音を指差した……三人が戯れあっている様にしか見えなかったが……
「いいな……今から私もあそこに混ぜて貰ってもいいかなあ…ついでにまだ下着は必要なのかしら?今からでも持って行ったほうが良いのかしら?」
「…いえ…その…必要はないかと……」
間違っても自分が差し出したなんて知られたら一体どんな責めに遭うのか恐ろしくて言い出せなかった……
「…何故必要なくなったの?…貴女何か私に隠して…………」
剣呑な気配がネルに向けられたと思ったらルミナスがフリーズした。
「……こ…これって……ねえ…ネル……何故…私の体から……アーガイル様の魔力の残滓を…感じるのかな?」
「…え?…そ…それは……」
ハッキリ言ってありえない。
アーガイルがルミナスから憑依を解除する際にその痕跡の一切を「消去」する魔法を使用しているからだ。
それはネルフェリアスも確認している。
なので今彼女が感知出来る筈がないのである。
「ねえ!な…何があったの?!そんなありえないわ!…私の…私の体内からあの方の魔力がっ!!」
「ええっと……先程まで……アーガイル様は…お嬢様の中に憑依おられました」
「!!は…挿入いた!?ですって?」
「?…ええ憑依ましたよ……しっかりと…」
「そ、そんな……意識がない相手でお楽しみされるご趣味なのかしら……ネ…ネル?記録映像とか…」
「申し訳ございません…突然の事でしたので…記録はございません…」
「うう…初めての体験だったのに……何も覚えてないなんて…」
ルミナスが地面に両手を突き、まさにorzを実演した。
いや…なんで記録映像?何か盛大な勘違いが起きている様な……
そんな彼女の肩にルミナリスの手が置かれた。
「…何?犬の分際でこの私を憐れだというの?」
「お嬢……いえ…奥様」
「!!…奥…様…私が?…」
「はい…奥様の分身たるこの私がしかとこの目に焼き付けました……間違いなくあの方は奥様の中にはいっておられました……あのお方は仰っていました……奥様の体は素晴らしいと…その身体の隅々まで弄っておられました」
「!!私の…身体を?……ああ…ルミナリス…御免なさい…貴女に対して犬だなんて…」
「いえ…奥様…あのお方はこのような犬の身体にでさえ優しい眼差して鑑定くださったのです…」
「まあ!貴女も?」
「ええ…奥様がとても良い仕事をしたと褒めてくださいました」
「ああ…ルミナリス…いいえミナ…犬なんて呼んで御免なさい…貴方はとても良い娘だわ……?……え……見て?……貴女達……見てたの……その…」
「?はい…見ておりましたが……」
ルミナスの顔から「ぼっ」と湯気が立ち上る
「みみみみみ…みんなに見ら…見りゃれ…ながら……ふわあ」
「?!お…奥様!!」
脳の処理限界を超えたのかルミナスがそのまま意識を失った……
お嬢様が多分想像していることは全部勘違いなんだけど……間違っているけど間違っていないと言うか……何だか疲れた
この件が片付いたら……暫く休みを貰おう。
「さて……貴女がマトリーシェ?」
「ああ…貴方は?それにここは一体どこだ?」
カイルはイリュが連れてきた自称マトリーシェと面会した……いや…本人だな。
今までアイリスの中に居たのは間違いなくこのマトリーシェで生前の記憶と精神世界の記憶が繋がっていない様だ。
「ここは人間界の魔法学園都市『世界樹』貴方の居た時代から1000年の月日が経過しています」
「…せ……千…年…?は…はは…そんな…嘘よ…」
「…残念だが本当だ……貴女は「悪しき魔女」として討伐された…あの本当の悪しき魔女によって」
「…悪しき魔女…」
カイルがテラスに居る魔女に向きなおった。
「そうだろ?悪しき魔女。いや「混沌のヘブラスカ」…」
「……ふ…ふはははははは!!まさかその名で呼ばれるとは思ってもみなかったよ…」
魔女はゆっくりと顔を上げる…その髪は夕焼けの黄昏が闇に消えるように深い黒へと変化する。
「一体何が?…カミュ。?そうだ!カミュはどこだ!」
「…まずはその記憶を補完した方がいいな…」
カイルの手に小さな水晶……記憶の結晶が握られていた。
次回更新は少し間が開くかも知れません…