凍てつく心12
最近のコロナ状況が非常に危険な状態ですね…皆さんも充分ご注意ください。
「アイリス!!目を覚ませ!本当の自分を思い出せ!」
「カイル…何故逃げるの?」
先程までいた場所に鋭い氷の柱が突き立った。
歩み出したアイリスがカイルの方をなんの感情も籠っていない目で見ている。
その姿にカイルは胸に鈍い痛みを感じた……あの時…魔法陣の中から見上げる彼女の悲しみを含んだ目が重なって見えた。
「……アイリス……やめろ…俺たちが倒すべき相手はあの魔女だ!」
「…また…そうやって騙すの?」
「くっ…」
「痛みは無いわ…一瞬で終わるから」
その言葉を合図にアイリスの周囲に凄まじい魔力が渦巻いた。
普段は魔力枯渇を恐れて消費魔力を抑えている彼女の本気の魔力放出は想像以上に強力なものだった……おそらく供給源は魔女本体だろう。
先程の詩音の事で接近されることを警戒してる為カイルとしてもどうにも攻める事を躊躇しているようだ。
先ほどから互いの様子を探るような牽制の魔法戦が繰り返されている。
互いの魔法は互いの結界で弾かれる……
魔女本体は椅子に座ったままで二人の成り行きを見守っている様だ……
「にゃ…これで契約更新は完了にゃ…今から紫音はボクの真のご主人様にゃ」
「はあ…よろしく?」
紫音は魔猫にせがまれて主従契約を完了させた…塔での契約は消費の激しかった紫音を気遣って仮の契約の状態で猫と紫音のパスを繋いだ程度の簡単な物だったが今回の本契約は次元が違う。
魔猫の説明によると紫音からの魔力供給で現世でも存在可能になった事
互いの位置情報の把握、思考伝達、能力共有、紫音は魔猫の全てを使役することが可能となった。
試しに視界共有を実行すると目を閉じた瞬間、魔猫の視界の風景が脳裏に見えた。
その視界の先に戦う二人の姿が見えた。
「ところで……にゃまえで呼んで欲しいにゃ」
「にゃまえ?……ああ…名前ね…た」
「まだ呼んでもらってないのにゃ」
しかしその尻尾は凄まじいまでにぶんぶんと揺れている……
一瞬「たま」と言いかけたが言わなくて良かった……
ふむ…名前か……ええとなんだっけ……あの時は色々混乱してて……
『「ねこ」じゃなかったか?』
『全く…クロン貴女のセンスは壊滅的ね…もっと知的に「キャッツ」にしたはずでは?』
脳内の二人がほぼ自分が思うような名前を出してきた……まあどちらも自分なんだけど
相変わらず私は名付けに関してはセンスの欠片も無い様だ……そんな2人のお陰でこの2人と同じ系列で名前を付けた事を思い出した。
「………よろしくね『ニャオン』」
「はいにゃ!…とても良いにゃまえにゃ!頑張るにゃ!」
その扇風機の様に回る尻尾を見て思い出して良かったと安堵の息を吐いた。
実に厄介な状態であった。
先ほどからアイリスの行動や言動を観察していたが……
紫音の『精神催眠』とは違う…
(おそらく…『呪術憑依』だな)
術者の魂の一部を個体に憑依させ魂ごと強制的に繋げ使役する呪法だ。
本人はそんな事には気が付かず自分の意思で行動していると感じている。
その時点で思考すらも乗っ取られているのだが……憑依時間が長ければ長いほど切り離すことが困難となる。
しかし今回のケースは魔女本体ではなく『一部』が憑依している為アイリスの深層意識にアクセスし排除すれば良いのだが……
この空間がチャットルーム化している事も大きな問題一つだ…この空間自体がアイリスの心象世界と言っても過言では無い。
既にここに存在しているアイリスやモネリス、ルミナリスたちは深層心理そのものだと言える……それが『個』を維持するために強力な結界で今の姿を形成しているのだ。
(魔眼戦争の時代に良く使われていた呪法だな…)
アーガイルがしみじみと呟いた…あまり良い思い出では無いらしい。
「なら…やる事は一つだな」
(その一つが厄介なんだがな……いや…そうでも無いかな?)
通り過ぎる景色の中に紫音とネルフェリアス達を見た。
戦いを眺めていると膝枕していたルミナスが起き上がった。
『よし、お前達……なんだ?この体…なかなかに俺好みじゃねえか…』
「?…ネルさん…ルミナスさんが起きましたけど…」
「どうしました?」
『……あいつの娘だからイマイチ気が乗らなかったが…これは早めに手をつけるべきだな…』
ルミナスが上体を起こし何か独り言を言いながら自分の体を弄っていた……自分の胸を掴んで「おおおお!」とか言ってる……大丈夫かな?
「?お嬢様…大丈夫ですか?どこかお気分でも?」
『ん……んんっ?なんだよこのメイドもよく見れば上玉じゃねえかよ……全くあのカイルときたら……ああ…俺だ…アーガイルだ少しの間この娘の体を借りて話させて貰うぞ』
「………!!ちょっと!何をする気!?変なことはさせないからね!」
先ほど体を弄る様子を思い出し紫音がルミナスの体にしがみついた。
『馬鹿やめろって!状況の説明をだな……なんだこの感触……紫音お前意外と…』
「!!へ…変態!!」
紫音が慌てて飛び退いてネルの背後に隠れた。
ニャオンが毛を逆立てて威嚇していた。
『そんなに邪険にするなよ……じゃあ真面目な話するぞ』
『…というわけだ』
「『呪術憑依』とは……」
アーガイルの話を聞いたネルの顔色が悪くなったように見えた。
例えるなら先ほどの紫音自身の状況が発熱程度
今のアイリスは末期状態と言える。
「……方法はあるの?」
『……厄介な方法だが……有る』
「…まさかまた下着を使うとか…卑猥な方法じゃないでしょうね…」
『意外と根に持つタイプなのか?あれはあれで最善の策だったろう?それに大人の女性の下着がどの様な物か勉強になっただろ?』
「し、下着の話はもう良いので!その方法とやらを説明してください!!」
ネルが耳まで赤くして捲し立てた。
「魔力弾!」
カイルから放たれた魔力の塊が結界には弾かれ地面にめり込み他は左右へと軌道を逸らされる。
その程度の魔力ではこの結界は破るどこらか傷さえつける事は出来ないだろう…慎重になりすぎる余り正常な判断も出来ないと見える……
「さあ……そろそろ観念して…」
その時、まだカイルが何か企んでいることに気づいた
以前にもこんな事が……!!!!
しかし気がつくのが遅すぎた!!先ほどの「魔力弾」はわざと弾かせていたのだ!全て計算された攻撃で魔力弾を使って魔法陣を描いていたのだ!!
「描図式魔法陣」
術が発動する……体に強烈な負荷がかかる……重力結界のようだ…
「ぐうう…これしきの……!?」
突然目の前に1匹の猫が現れた……何故こんな所に思った矢先に
猫が鳴き声をあげた
「魔猫の咆哮!!」
瞬時にアイリスの体を覆う防御結界が無効化された……その瞬間に猫の姿が紫音に変わる……その背後からはカイルがすぐそこまで迫って来ていた。
「捕まえた!」
触れた途端にアイリスの深層結界を突破された……結界破りか!!
どうやらあの猫は紫音と契約したらしい…その能力共有によってあの猫は重力結界を破り中に入ってきたのだ…カイルとグルなのだから猫は範囲指定で重力の効果を受けない様な状態で!!そして魔猫の咆哮でアイリスの使うマトリーシェの魔法効果を全て無効化されたのだ!そして主人と使役される猫の「位置交換」によって紫音本人がここに来たのか!!この結界を破るために!!
しかもタイミングを合わせたカイルも一緒にダイブしてきた!
厄介なことに重力結界はこの部屋全体に効果を及ぼし魔女本体も対処に遅れてしまった…!
『おのれ!!またしても!』
魔女の呪詛が木霊した。