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魔眼の使徒  作者: vata
第二章 暗き森の魔女
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凍てつく心7


 伊織は庭の木陰で俯いていた……涙は流したくないが込み上げる悔しさに無駄な抵抗だった。

弟との模擬戦で負けて以来毎日のように再戦を挑んだが最初こそ優劣つかない状態だったが遂には弟に勝てなくなってしまった。

 弟は凄い。毎日厳しい練習を弱音も吐かずに続けてきた 雨の日も雪の日も毎日だ。

その反面自分はどうだろうか?天才と褒め称えられ、自惚れ、慢心し、鍛錬を怠った。

こうなるのも当然と言う訳だ。

悪いのは自分、それはわかっている、しかし理解することはまだ子供の頭では難しかった。


「…伊織や…」


 声がしたので顔を上げた…そこから見える庭先の縁側にお爺様が座っていた。

伊織は慌てて駆けつけた。


「お爺様!寝ていなくては!!」

「ほっほっ…今日は気分が良いのでな…寝てばかりでは干物になってしまうよ……」


 そう言って長い髭を撫でた……そして頭を撫でてくれた。


「また負けてしまったのかい?」

「……うん…」

「悔しいかい?」

「…うん……でも…もう勝てない…悪いのは自分だってわかってるから…」


 そういうと再び涙が込み上げてきた…

お爺様は優しく頭を撫でてくれた。




「伊織は今の剣に満足出来ないのじゃないかね?」


 唐突にお爺様がそんなことを言った……負けて悔しいけど…満足?はしていると思った。


「ふむ…まだ難しいかな?今道場で教えているのは『護身』に重きを置いた剣術だから……本当の『剣』を知りたいかね?」

「本当の…剣?」

「はははは…そうじゃの…みてなさい」


 そう言うとお爺様は私を縁側に座らせ庭の中央に歩み出た……その途中の花壇から添え木を一本抜き取った…


 そのまま目を閉じて仁王立ちになる……意識をお爺様に集中する…幼い伊織だったがこの時の祖父の様子がいつもと違うのがはっきりと伝わってきた。


 やがて音が消え風景が消えた……白い…どこまでも白い世界にお爺様と二人だけが存在していた。


「!!」


 お爺様から凄まじい殺気とも取れる気の本流が押し寄せ音と風景が戻ってきた。

伊織はやっと此処で息を吐き出すことが出来た……

見れば庭の池の中にある灯籠がゆっくりとズレて池の中にポトリと落ちていった。


「…………」

「ほっほっほっ…まだ伊織には早すぎたかの?」


 理解はできなかったが凄い事だと感じた…いつか自分もこんな事が出来たら…と思った。


「お爺様!私にも出来るかな?!」

「ん〜伊織が頑張ればできるかもしれんな…伊織の全部を剣に乗せるといい」


 でもそれは出来なかった。

この技を使えるお爺様が亡くなってしまったのだ……

私は永遠に剣を使える日は失ってしまったのだ。










「……此処は……」


 気がつくと草原に居た…どこまでも続く地平線の彼方まで緑の草原が風に靡いて続いている。



 私はここを知っているお爺様に聞かされた事のある『故郷』だ。

まだ幼い頃にいつもお爺様が話してくれた…お爺様の故郷

 気配を感じて後ろを振り返った。

お爺様が幼い子供を抱き抱えてそこに立っていた。


「…お爺様…」

「待っていたよ…伊織」


 二人はそのまま歩き出す。


「…ここは剣の聖地…強さを求める者が必ず到達する魂の故郷…お前もここに来れるまでになったのだな」

「……お爺様…私は剣を捨てその道から逃げてしまいました」

「……それは違う…お前の心には常に剣があったのではないかね?いや、物理的な事ではなくて感覚的に…と言った方がわかりやすいかな?」

「それは……」


 思い当たる節はあった。

銃のグリップを握る時、銃身を手入れする時、引き金を引く時、どこか剣の道に通ずる物をどこかに感じていた…気付かないふりをしていたに過ぎない…自分が捨てた道だからと意識して無視していたのだと気がついた。


「銃も剣も何も変わりはしない…構え、狙い、穿つ…全ての基本だ…ただ違うと言えば『想いを載せる』事であろうか…」

「想いを…載せる…」


 以前にもお爺様に言われた言葉だ。


「わかるかい?剣の一振りに思いを巡らせる…この一太刀がどうなるのか?何を変えるのか?何を倒し、何を守り、何を成すのか…命をうばい、命を守る…自身の一太刀によって何が失われて何が生まれるのか…『想いを載せる』その一撃は重く、そして強い一撃となる。」


 お爺様が一振りの刀を投げて寄越した。


「さて…今から私はこの幼な子の命を奪う…伊織はそれを止める事が出来るかな?」

「なっ!!お爺様何を!」


 瞬間、お爺様から凄まじい殺気が放たれた。

伊織の体は硬直する…これが…お爺様の本気…以前あの幼い日に感じたものとは比べ物にならない。

生前では垣間見ることの出来なかった…我が流派最強と言われた男の本気なのだと直感した。


「今から一撃でお前を切り捨てこの子の首を刎ねる…お前にそれを止められるかな?お前に『想いを載せる』事が出来るかな?」


 伊織は震える体を鞭打って刀を構える…お爺様は本気だ…本気のこの私を切り捨てようとしている…かつて感じた事のないほどの殺気に気を失いそうになる…

 どう出る?いや、こちらから仕掛けても届かないだろう…

相手の先を読む…が全て相手の方が上手だ誰もお爺様を負かせるイメージが浮かばない!!

『銃を奏で、弾丸と踊る』

 つい先日カイルの見せたあの幻想的な光景が脳裏に蘇った。

あの時何故カイルは戦った?何を守り何を成した?

そう考えているといつの間にか体の震えは無くなっていた。


「…ふむ…顔付きが変わったな……ゆくぞ!」


 お爺様の姿が消えた……

次の瞬間には目の前の刀が火花を散らしていた…!!

やはり最初に首を狙ってきた!

 体を入れ替え下からの切り上げを見舞うが受け流されてしまう…このままでは…

心の中に焦りの色が見えたが……ふとお爺様の動きに見覚えがあった……

数多の光の舞う中で髪を振り乱しながら舞う彼の姿が重なって見えた。


 あいつも…その手に想いを乗せて戦って居たのだろうか?

その幻の姿と視線が絡み合った。

そうだ…まだ私は自分の全てを載せていない。


「魔眼発動!」


 伊織は今まで戦いには使った事のない魔眼を使用した。

父や同門たちから「邪道」とされ使用を控えて居たからだ。

 しかし今の伊織には確信があった……自身の想いを込めるには魔眼の力は必要だと。

 その眼が紅く、時には蒼く二つの色を映し出した。

彼女には二つの魔眼が宿っている。

しかし魔法を発動させる事はできない自身の強化などの補助に特化したタイプの覚醒者だった。

 刀を地面に突き刺し両手を突き出した……思い浮かべるのは愛銃「穿つ者(スティンガー)だ。

その手にいつもの感触が感じられた…その両手に魔眼の力を載せた。


 その手に生まれたのは銃と刀の融合体……「魔銃刀(ガンブレード)」である。

伊織は身体強化をかけると祖父の元に駆け出した……右手の刀を振り下ろす……


「うおおおおお!!『炎王』!!」

「!!」


 それを受けようとした祖父は……身をかわし回避した。

刀はそのまま地面を穿ち……地面を爆炎で粉砕した…火の力を宿した右の魔眼『炎王(えんおう)』の力である。


「……ほう…魔力を込めたか…」

「…流石お爺様……ではこれはいかがですか?」


 左の刀を下段から振り抜く……地面が土煙を上げてお爺様に向け衝撃波が走った。

お爺様はそれを難なく受け流すと……受け流せなかった。


「!?これはっ!!」


 うけた刀よりその足元……その周囲が氷に閉ざされていた。

左の魔眼『蒼女(あおめ)』は水や氷による守護の力を宿している。


「お爺様これでお仕舞いです」


 右の銃口から赤い弾丸が打ち出される……がお爺様は氷を砕き破りそれを切り捨てた……瞬間に刀身が赤く熱を纏った。

 続いて左の銃口から青い弾丸が打ち出される……お爺様は再び弾丸を切り裂いた……そしてその刀身は急激に冷却され……砕けた。


「……それがお前の『想いを載せた』剣なのだな」

「……はい…お爺様…剣と銃と…私の魔眼…これが私の全ての力です」


付与(エンチャント)」ではなく「創造(クリエイト)」それがこの魔眼の正しい使い方だったのだ。

自身の魔力で創造した銃と弾丸そこに存在する刀身も魔力で作り出すものだ…。自身の魔力が100%載せられる。

炎王の力は火を主体とした攻撃特化の魔眼…この力で敵を討つ。

蒼女の力は水を主体とした守りと癒しの魔眼…この力で皆を守る。

それが私が求めた力だった。


「見事だ……我が如月流は元は暗殺を生業とする闇の流派……しかし光の当たる場所を求めた過去の当主によって洗練された護身剣術に身を変えたのだ…伊織……お前こそが正当な如月流の真髄を知る事ができるだろう」


お爺様はそう言って再び幼児を抱き上げた……


「この先…再び此処で会うことがあるかもしれん……その時までしばしお別れじゃ…」


 お爺様が頭に手を置いて優しく撫でてくれた。


「さあ行きなさい……振り返らずに進むのじゃ」

「お爺様……ありがとう……私は彼の居る高みを目指します」

「え……彼?ちょっと!伊織ちゃん!彼って……」


 後ろからどこか慌てたお爺様の声が聞こえて来たが……周囲は溶けるように白い世界へと変わって行った。


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