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魔眼の使徒  作者: vata
第二章 暗き森の魔女
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凍てつく心3

ルミナスは項垂れていた……助けに来た筈の妹は強大な相手に取り込まれており、更には無断拝借したアイスロッドでその本来の力を解放してしまったのだ。

極め付けはカイルに良い所を見せようと張り切り過ぎて見せるどころか不甲斐ない姿ばかりを見せてしまったのだ。


「……最悪ですね…私なら自殺ものです」

「ああああああああああ」


 頭を抱え地面に伏せている、その背後には侍女であるネルフェリアスが付き従っていた

そのネルの言葉がさらに追い討ちをかけてルミナスは身悶えする。


「…しかもカイル様と離れ離れ……まぁ私はあんな男には興味無いので平気ですが……」

「私は一緒が良かったんだもん!カイル様がいいもん!いいもん!もう…いやだ!!」

「…お嬢様そんな事言わずに…」


 地面にしゃがみ込む彼女ルミナスには魔界の大臣である面影は微塵も無くそんな彼女を懸命に励ます(?)侍女の姿が延々と続いていた。


「ちょっと!何時までそうしてる訳?」


 そんな二人を見下ろす形で黒髪の少女……ルミナリスが鼻で笑った。

先程から延々と続くこの芝居のようなやりとりに相当苛立っているようだった。


「少々お待ちくださいませ…お嬢様は今取り込み中でして…立ち直るのに暫く時間が掛かりそうです…お急ぎでしたら私共の事は放置してもらって構いませんので」

「え…あ…うん……そうなんだ…………!ちっ…違うでしょ!今はそんな場合じゃないでしょ!私は貴女達をここで抹殺する為に来たのよ!」

「そうでしたか…ですが只今お嬢様は人様にお会い出来る状態ではありませんので…日を改めて頂けると嬉しいのですが……」

「えっ…あの…だからー!私は今ここで!貴女達を!」

「もうやだぁ~お家に帰りたい~!」

「お嬢様…大丈夫ですあのキノコ…カイル様はああ見えて心が広くて鈍い鈍感野郎ですから…お嬢様の事もきっと受け止めてくださいますよ………多分」

「やっぱり多分なんだ!もうダメよっダメダメー!ダメな子だって思われてるよぅー!!」

「な…何なのだお前たちは先程から………まあいい…そいつがその様では最早お前達に勝ち目はあるまい」


 完璧侍女のネルの返答に一瞬素に戻ってしまったが肝心のルミナスがこの状態ではまともに戦う事すら出来ないであろうとルミナリスは内心ほくそ笑んだ。


「あははは!そんな様では恐るるに足らないわね!魔界一の智将と言われた貴女も所詮はその程度ね!」

「うぅ…はい…るみなすはダメなこですぅ…ふわぁぁぁん!」

「ちょっと!困りますわ!」


ルミナリスの言葉にルミナスは 地面に伏せて泣き始めた。

それを見たネルから非難の声が上がった。


「…だって貴女も言ってたじゃない!」

「お嬢様を虐めていいのは私と未来の旦那様だけです」

「…旦那様…きっとカイル様だわにゅふふ」


二人のやりとりを聞いてルミナスが立ち直りかけた。


「あぁいけません…立ち直りそうです…お嬢様あのキノコ男にはそんな甲斐性ありませんから無理ですよ、お嬢様とは釣り合いませんから」

「そんなぁ〜ふみゅう~」


再び落ち込むルミナス.その背後で良い仕事をしたと言わんばかりの顔をしたネルが良い笑顔を見せていた。


「なんなの…あんた達」

「どこから見てもお嬢様とその侍女な関係ですが…判りませんでしたか?お嬢様の魔素から生まれただけあってまだまだですね…そんなわけで貴女の相手は私です、苛めてあげますからご安心くださいね、あっ、本物のお嬢様はそこでいじけていてください」


そう言い終わるか終わらないかの瞬間にルミナスの周囲に無数の三角形の光の壁が形成された。

自己相似結界(フラクタルシールド)

ネルが持てる最高強度の魔術結界であった。


「では、参ります」


ネルが緩やかに両手を動かし構える…魔界では一般的に普及している「魔闘武術」の様ではあるが何処かに違和感を感じた。

ルミナリスは二体のゴーレムを作り出すと挟み込む様に襲い掛からせた。

氷で出来たゴーレムは見た目以上の速度でネルに迫った。


「おや?以外に素早いのですね」


 気が付いた時には二体のゴーレムは頭部を粉砕されており地面にその巨体を崩していた。

それを見届けたネルは両手の埃を払う様に叩くとルミナリスに向き直った。


「ルミナス様の魔力を有すると聞きましたが……まさかこの程度ではありませんよね?」

「!!……こいつ……!いいだろう!貴様は強いな!だがその言葉を後悔させてやるぞ!」


 






「……ふむ、貴女の匂いはどこかで嗅いだ事があると思えば……」

「……何なんだよ……」


 イリュが鼻先をくんかくんかと近づける仕草に伊織は警戒した。

彼女の伊織に向けられる視線には明らかな敵対心が感じられた。

勿論初対面である彼女に何かした記憶は無い………


「先日、朝方に帰宅したカイルがやけに貧乳臭い香りをプンプンさせていたものですから…」

「…うっ…貧乳だと?!」


 その言葉に思わず自らの胸元に視線を向ける………そしてイリュの胸元に視線を向けた。

思わず地面にへたれそうになった。


(大丈夫だ…まだ俺は成長できる!クレアだって言ってたじゃないか!『人間大きくなれば胸も大きくなるって!)


伊織は最後の力を振り絞り何とか持ちこたえた。

しかしその両手は僅かに震えていた。


「そ…その件に関しては大丈夫だ!今後の成長に期待しているからな!……それよりお前…さっきよりも垂れてきているんじゃないか?」

「えっ!?……垂れてなんかないわよ!」


 一瞬胸を確認するところがイリュらしかった。

つい先日律子に『イリュの女子力では将来形が崩れる』と言われたばかりだった。

今のやり取りでお互いに認識する……この女……デキる!……と


「いつまでそんな事やってんのさ」


 そんな二人を呆れた様に眺めるモネリスがいた。


「うるさいわね 燃やすわよ」

「蜂の巣にするぞこの野郎」


 かなり本気の殺気にモネリスは沈黙した。

しかしこのままお互いにいがみ合っていても平行線のままだと伊織は意を決して質問を変えた。


「……あのさぁ……お前…あいつの何なの?俺…何か悪い事したのか?」

「………いえ…貴女は何も…………私は……一体彼の何なのでしょうね……」


 急にしおらしくなったイリュを見て伊織はしまったと後悔した……地雷であった。

立場的にはカイルの同級生で家族同然……アーガイルの使い魔にして従者…そして慰み者

一体自分は彼にとってのどういった存在なのだろうか?

常に彼女が抱えている不安材料の一つであった。

いつかカイルに相応しい存在の女性が現われると私は要らない存在になるのではないだろうか?

そんな妄想が彼女の内面で蠢いていた。

だから今回のように伊織のようなカイルの周囲の女性に対してつっかかってしまう傾向があった。


「……そうだな……恋人とか」

「!!!こここここ恋人?!?!?!?」


伊織の言葉にイリュが予想外に反応した。


「…恋人……ねぇ!ホントにそう見える…その……恋人…とかに……」

「ああ……あんたは美人だし……見える……よ」

「!!!!!!」


(え……何?なんなの?急に可愛くなっちゃって……)


やけに食いついてくるイリュに圧倒された伊織がいた。


「うふふ……そうか…そう見えちゃうか!いやーまいったね!あら?貴女も良く見れば可愛いじゃないか!」

「え?…俺が?可愛い?……冗談はやめろよ……」

「冗談じゃないよ!ほら!よく見れば……鍛えられていて引き締まってるじゃん…プロポーションいいな!カイルは結構こういうスタイル好きだと思うな!」

「!!何言ってんだよ!なんでカイルが出て来るんだよ!べべべ別にあいつに好かれても………嬉しく……無いわけじゃ……ないけど」

「そんな反応もいいわね!貴女って彼の好みよ!きっと!」

「いやそんな……俺はあんたみたいに凄いプロポーションないから……」


 気が付けば最初にあった様な殺気は何処へやら……年相応の二人が楽しく話を繰り広げていた。


「……ちょっと……無視しないでよ!」

「あら・・・?モネリス…居たの?」


 いい加減に耐えかねたモネリスが涙目で声を上げた……


「話は纏まったから……カイルはどこ?」

「ふ、ふん!教えるもんか!あんた達は此処で私が……!」

「あぁん?!」

「ひっ!……そ…そんな顔したって怖くないもん!教えないもん!」


 凄むイリュに更に涙目でモネリスが必死に言い返した……

伊織は何となく気の毒だな~と考えていた。


「あ…あんた達は此処から出してやらないんだから!『暴風牢獄トルネードプリズン』!!」


モネリスの声と共に室内に暴風が吹き荒れた……乱気流の暴風による牢獄結界だ。

ここから出る為には術者を倒して解除させるしか無い様だ。


「仕方ないな……モネリス…またあの時みたいに泣かせてやるよ」

「~~~!!!!」


 モネリスは過去に一度イリュと喧嘩をして完膚なきまでに敗北を味わっている。

それ以来イリュのことが苦手だったのだ。

今にも泣きそうな表情のモネリスに変化が起こった。


『そうね…この子は優しいものね…私が変わりに遊んであげましょう』


何処からとも無くマトリーシェの声が響くとモネリスがガクンと首を項垂れた……

その紫の髪が根元から金色に変色した。

やがてゆっくりと顔を上げた……先ほどまでの泣きそうな表情ではなく笑っていた。


『さあ…待たせたわね…いらっしゃい?遊んであげるわ』

「……中身はマトリーシェか…最悪だな!」


イリュが視線を向けると伊織が震える手を抑えて頷いた……


(……カイルが気にするだけあって……良い娘じゃないか……)


うっすらと笑みを浮かべると せめて彼女だけでも守ろうと決意するイリュであった。







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