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魔眼の使徒  作者: vata
第二章 暗き森の魔女
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凍てつく心1

最上階の階段を上り巨大な扉を押し広げると

今までとは比べ物にならないほどの広大な空間が存在した。


「空間魔法か…キース、鉄平、伊織…油断するな」

「…今はその必要は無いみたいだぜ…行こう」


 マードックは瞬時に判断し周囲を警戒するように促したが

平然と部屋の中央に進んでゆくカイルに合わせ進んでいった。


「よくぞ来たな…約束の時間通りだな」


この空間の中央に存在する庭園にある骨董品の様な石造りのテーブルに

マトリーシェ、紫音、アイリス、モネリス、最後の一人はおそらくルミナリスだろう……

彼女たちが優雅にテーブルを囲んでいた。


「さてせっかくここまで来たのだまずはお茶でもどうかな?」

「生憎だがこちらは忙しくてな…用事を済ましてさっさと帰りたいんだ」

「やれやれ……女性の誘いを断るとは……」


 マトリーシェはそう呟きカップを口に運んだ……そしてカップを置くと彼らを不敵に見つめて微笑んだ。


「……それで?用事とは?」

「さっさと紫音とアイリスを返してもらおうか」

「これはおかしな事を言う……彼女たちは自分の意思でここにいるのよ?…ねぇ?アイリス…紫音……」

「そうです」

「そうだよ…カイル」


 普段通りに見えるがどこかやはりその瞳には生気が感じられなかった

予想はしていたが……


(精神支配か魅了の類か)


どちらにしろ強制したものではなく隙をついてうまく絡め取ったのだろう…

二人ともあくまでも自分の意思でそうしているように感じている。

強制的にでもこの空間を破壊して覚醒させるしか無い物かと思案する。


「全く…直ぐに力でねじ伏せ様とする……男とはいつの時代も野蛮な存在だな」


 その気配を感じ取ったのかマトリーシェがその眼光を光らせた。


(お前が言うのかよ……)


 そう言いたかったが先程の彼女の過去を知れば、その言葉には重みがあった。


「…カイルよ……私は本当に存在する事が許されない存在なのだろうか?…確かに過去の出来事を考えれば私を危険と考えるのは判らなくもないが…私は静かに生活したかっただけなのだが…我々も先程は色々とあったが…争い以外の道を模索するのはどうだろうか?…勿論今すぐこの塔を解除しろと言うのならばその通りにしよう……私の身の安全さえ保証してくれれば今後はこの学園に力を貸しても良いぞ?お前がこの私を欲するのならば身も心も差し出してやってもいいのだぞ?」

「それは魅力的な提案だが……一体何を企んでいる?」


 カイルの言葉に感心したように微笑むと彼女はテーブルを立ち上がった。

常に笑顔を絶やさぬその姿は余裕の表れか、紫音達も笑顔のままでこちらを見ている……

明らかに異常な空間であった。



「……何…簡単な事だよ…私は魔界に復讐がしたいのだよ……今もなお続く王族、貴族の支配……そのおかげで力なき者たちが虐げられているのが現状だ……昔も、今もな……だから思い知らせてやるのさ……自分達のしてきた事がどれ程の事かを!!」

「お前の言う王族や貴族も昔のままでは無い、少なくともあの時代よりは住人達もマトモな生活が出来ているだからお前のその主張は了承できないな……その結果新たな争いが生まれ、さらなる悲劇を生み出す事になると何故気付かない!」

「改革には犠牲がつき物だ…今回犠牲に成るのは貴族の連中だがな!」

「今はその改革など必要は無い!お前は自分の手で自分と同じ境遇の者を作ろうとしているだぞ!!」

「……ならば結構!私の苦しみを思い知るがいい!!」


 彼女の強い意志と共にその手をテーブルを叩きつけた……そして静寂が空間を支配した。


「完全な仕返しじゃねえか……狂ってる!!」

「はっ!私が狂っていると?私は自分に正直なだけだ!!むしろ狂っているのはこの世界の方だ!

…親が子を殺し!子が親を殺す!正義と称して平気で暴力をふるい平和と称して都合の悪い事は闇に葬り去っているではないか!!私のしようとしている事と何ら変わりがないではないか!!」


 伊織の言葉にマトリーシェが畳み掛ける様に糾弾した…それは悲痛な叫びの様にも聞こえた。


「……それには同意するが…自分の周りの人物が巻き込まれるのを静観する事は出来ないな……ましてや自分の大事な者がそれに巻き込まれるのなら尚更だ……」

「交渉決裂だな…残念だよ」


 マトリーシェが背を向けて歩き出すと床が揺れた…その衝撃は部屋全体を揺るがし天井から巨大な氷柱が崩れ落ちてきた。


「危ない!!」


 全員が氷柱を避けて四方に回避すると氷柱を中心に凄まじい速度で氷の壁が全員を隔離してしまった。


「罠かっ?!」


カイルは直に体制を整え周囲を見回したがここには自分一人の様だった。


「おや…お前一人とは好都合だな…今度は誰も助けには来ないぞ」

「…最初からこのつもりだったのか…性格悪いぜ…お前」


 彼の目前にはマトリーシェ…そして彼女に付き従う紫音の姿があった。

この様子ではそれぞれが隔離されていずれかの人物と対峙している事だろう……それぞれ実力はあるから大丈夫とは思うが……脅威となるのはアイリスだろう……


「…さあ…紫音…彼をもてなしてあげましょう……」

「…はい……魔眼…発動…」


 紫音の右眼が紫に染まる…彼女とこうして向き合うのは2度目だが、生身の状態で戦うのは初めてだった。


「……やれやれ…手加減してくれよな!」


 カイルの髪が黒く変色し、アーガイルの魔力を纏った。

彼女の魔眼が発動できるのは5分間だけ……その5分間は全力で逃げと回避に徹しないと致命傷を負うことになるだろう……


そんな光景を椅子に座ったままのマトリーシェが眺めているのだった。


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