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魔眼の使徒  作者: vata
第二章 暗き森の魔女
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失われた記憶~罠~

 

カミュは馬を走らせるとガノッサの館を尋ねた……勿論レイヴンを問い詰める為だ。

門を潜ると直に馬を乗り捨て直接、彼が滞在している兵舎へと向った。


「レイヴン殿は居られるか!」


 何時もは兵士達で賑わうこの建物もこの時間は訓練や御館様の警護などで人はほぼ出払っている。

しかしレイヴンは此処に居るとカミュは感じていた。


「……こちらですよ……そろそろ来る頃だと思っていましたよ……二階へどうぞ…」


 見上げると二階のエントランスからレイヴンが此方を見ていた。

何処までも余裕を崩さない態度にカミュは内心激しく激昂していた。


「……あなたに聞きたい事がある……」

「…どうやら込み入った話の様ですね……では私の部屋にどうぞ…」


 奥に向って歩き出すレイヴンに続き、カミュは階段を駆け上がりやがてその背後をゆっくりと睨みつけながら追いかけてゆく……

やがて角の部屋に着くとドアを潜り中に通された。

 

「何も無い部屋だが…かけたまえ…」


 言葉通りに何もない部屋であった……窓からは日差しが差し込んではいるが…

テーブルに机…大きな姿見の鏡……そしてベッド……その机の上に数枚の書類があるだけであった。

何と生活観の無い部屋だろうか……


「何か飲み物……と言っても水ぐらいしかないのだがな」

「いえ……それよりもあなたにお聞きしたいことがあるのです」

「ふむ……何かな?」


 鬼気迫る表情のカミュと対照的に何処か余裕すら浮かべるレイヴンにカミュはさらに苛立ちを覚えた……

今思えばカミュはこの男が初めて会った時から苦手であった……初めて彼らに付き従いネアトリーシェの家を訪問した時も彼はその表情とは裏腹に心が読めない……掴み処の無い性格だった。

柔らかな言葉使いに笑顔を絶やさないその姿は多くの人を惹き付けたが……何度か会う内にカミュは彼の本質を感じ取っていた。

言葉とは裏腹に心が全く篭っていないのだ。自分以外の事柄には一切の興味を持ち合わせていないのだった。

笑顔の裏に別の表情を隠し持っている……その視線は獲物を狙う爬虫類の様に感じていた。

ネアトの研究室でふと彼女が彼にこう言っていた事を思い出す。


(レイブンには気をつけろ)


……と……今思えば彼女の失踪もレイヴンが絡んでいる様に思えてならない。

彼女は何か確証が有ったのだろうか?


「マリーの…マトリーシェの作っている魔道兵器についてです」

「ふむ…あれは素晴らしいな…」


 グラスの中の水を飲み干すとレイヴンは椅子に座り此方を見上げた。


「あれを制作依頼したのは…貴方ですね?」

「そういえばそうであったな…それが?」

「認めるのですか?あなたは一体何を考えてるのだ!」


 思わず握り締めた拳に力が入る……

そんな様子を見てレイヴンは楽しげに口元を歪めた。


「戦争が早く終結するように手助けをしてやろうというのだ……彼女もそれは承諾したのだがな?」

「手助け?嘘だ!未だに戦争は終わってはいない……むしろ酷くなる一方だ!」

「大変だな……ではますます頑張って貰わないと…」

「ふざけるな!!」


 カミュが拳をテーブルを叩きつけた事でコップが床に落ち、その中身をカーペットにぶちまけた。


「おやおや…年代物の敷物が……お気に入りだったのに」

「……くっ!」


カミュは立ち上がり、拳を握りしめてレイヴンを睨みつけた。

その余裕に満ちた顔を殴りつけてやりたい衝動に駆られたがそれでは相手の思うつぼだ。


「このことは御館様に…いや魔剣王様に報告させて頂きます」

「そうだな…我が国の英雄である君が報告するのが一番いいだろう……あの魔女の弱点についてな」

「何を言っている?!」

「おや知らなかったのか?今や暗き森の魔女は我が国に害をもたらす天敵だ………今頃討伐隊が準備されている頃だろう」

「馬鹿なっ!」


カミュは体を翻し部屋を出ようとするがドアは開くことはなかった。

強力な結界が施してあったのだ。


「このまま行かせるはずがないだろう?」

「何が狙いだっ」

「貴方はあの女の弱点を知っているのでしょう?」

「…言うものか!」

「…ほほう…私に逆らえると?」


 ゆっくりとレイヴンが立ち上がり此方に近付いてくる……その異様な雰囲気にカミュ戦慄さえ覚えた。

姿見の前で立ち止まると手をかざし、何やら呪文を唱えた。


「…どうやら貴方は自分が傷つこうとも平気な人だ……しかし……他人が傷つくのはどうかな?」

「!?」


 姿見の景色が歪み違う風景画映し出される……女性だ…長い髪の……


「ファルミラ様!!」


 そこには暗い部屋の中で後ろ手に縛られぐったりとするファルミラの姿があった。


「貴様……正気か?!何が狙いだ!!」

「…彼女を無事に救い出したいのなら……王の報告に行くのです……魔女の弱点を!!」







 騎馬20騎と傭兵30名を載せた馬車が暗き森に向け出発した。

彼らは魔剣王より魔女討伐の命を受けた討伐隊であった。


「…魔女を討伐なんて…正気の沙汰じゃないと思ったが…俺達にも運が周ってきたぜ…」

「ああ…俺達『紅蓮の傭兵団』の名を魔界に知らしめるチャンスだぜ…」

「そうさ…こいつが居れば魔女は何も出来ないのだからな」


 男の手元には鎖に繋がれた魔猫がいた。

魔剣王の元に現われた騎士が告げた情報は魔女の魔法は魔猫の咆哮によって無効化されるというものだった。

その騎士こそ今この国で有名な『英雄カミュ』であった。


「なんでも魔女から弱点を聞き出す為に危険を顧みずに魔女の住処に潜り込んで情報を聞き出したらしいな……流石だぜ」

「でも聞くところによれば魔女はすげえ別嬪らしいぜ…ああ…俺なんかやる気が出てきたぜ!!」

「馬鹿野郎!お前のはヤル気だろうが!!」


 馬車から聞こえる傭兵達の下卑た笑いに後ろを追従する騎士は嫌悪の表情を見せる。


(…全く…不快な連中だ…我々騎士団だけで十分だと言うのに…しかしあのお方の命令とあれば仕方が無いか…)


 その隊長格の騎馬に一騎近付き騎士がなにやら耳打ちした。

その報告を『伝心テレパス』の魔法で騎士だけに伝令を伝える。


『目的地に到着後……傭兵共を先行させて魔女は奴らの好きにさせておけ…身柄を確保したら殺せ…傭兵もろともな』


 騎士たちは無言で了解の頷きを返す……刻一刻とその瞬間は迫ってきていた。





「レイヴン!!約束通りお嬢様を開放しろ!!」


 怒りの形相で彼の部屋のドアを蹴破るとカミュは抜刀しレイヴンに突きつけた。


「おやおや…そんな物騒な物は仕舞ってください…お嬢様は隣の部屋ですよ」


 カミュはレイヴンを警戒しつつも隣の部屋のドアを開く……暗い部屋に小さなベッドがありその上にファルミラが倒れていた……

すぐさま駆け寄りその無事を確認しほっと胸を撫で下ろした。


「さあ、約束は守りましたよ…貴方はこれからどうするつもりですか?」

「…決まっている!マリーを助けに行く…」

「おやおや…魔剣王様の命に反すると?」

「黙れ!全ては貴様が仕組んだ事だろうが!」


 カミュは怒りを顕にしてレイヴンを睨みつけた…これ程怒りを表したカミュを見た者など皆無であろう……


「やれやれ…彼はこう言っていますが…どうしますか?お嬢様?」

「…何を…?!」


 レイヴンの言葉と同時にカミュは体の自由が失われた事に気付いた。

視界の隅…ファルミラがゆっくりと体を起した。


「ふふ…駄目よ…カミュ…貴方はこれからはずっと私と一緒なんだから…あは……あはは…あははははははははははははは」

「…ファル……何故……」


 ファルミラの魔法により体の自由も意識も奪われてゆく中で彼女の壮絶な狂気に満ちた笑い声が響き渡るのだった。








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