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魔眼の使徒  作者: vata
第二章 暗き森の魔女
109/241

失われた記憶~戦線2後編~

「あそこまで後退すれば大丈夫だろう………」


 マクガイアは遠くに離れてゆく息子カエサル率いる軍勢を見て満足げに頷いた。

やがて振り返ると荷馬車の積荷の紐を解き布を取り払った。

 そこには正方形の金属の塊が鎖によって固定されており、その中央には金属板が取り付けられていた。

マクガイアが金属板に手を押し付けた…と同時に金属板を中心に光が走った。

まるで金属板がディスプレイの様に文字の羅列が形成されて行く…それはさながらPCの起動画面の様であった。

 カーソルが点滅し1つの文字が現れ、いつもの様に女性の声のナビが起動状況を報告してきた。


『GREED SYSTEM Ver2.4』


『生体認証確認照会中……ノーブルマージ、マクガイア:メデュナス様と確認……これより先のナビゲートは私アルファがシステムの概要説明いたします……』

「緊急時だ…省略してくれ…」

『了解しました、では重要事項のみ案内いたします。

このシステムに登録されたユニットはゴーレムコアとして取り込まれます…同化・融合・すなわち生物としての死を意味します…』

「……承知している……それであればアレを倒せるのだろうな?」

『……敵戦力未知数の為、明確な回答できません……それよりも本当によろしいのですね?』


 今までのナビと違いやたらと丁寧だなと感心する…無機質的だった音声もどこか温かみを感じられるものになっていた。


「くどいな……承知の上だ…」

『……………』


 何故かナビゲーションが沈黙し、画面上の文字が消えてしまった。

どうしたものかと慌てていると画面から声が響いていた。


『そんな言い方はないでしょう?…命に関わる事なのですよ?一応心配して言ってるんですからね!』

「……そ…そうか……それはすまなかった……」


 何故かナビの声が怒気を含んでおり、つい条件反射で謝ってしまった。


『……しょうがないですね…今回だけは許してあげます……』

「……あ…ありがとう…」


 突然の事態だがマクガイアは何とか会話を成立させ、相手の機嫌を損ねずに済んだ様だ……

ここで冷静に分析してこの女性の様な存在がこのゴーレム参号機のAIらしい事に気がついた。

どう考えても前の機体に搭載されていた物とは次元が違う物だった。


『理論上では問題ないんだけど……貴方の命を核になるからね…まともなテストもしてないから

命をかけてるのに失敗しました……では申し訳ないもん』

「……そうか…律儀なのだな……」

『えへへ……では起動開始します…』


 怪訝な顔をするマクガイアだったが、荷台の金属が氷が解ける様に融解するのを見て驚愕の表情に変わった。

解けた金属は中央にゆっくりと盛り上がり緩やかな曲線を経て、女性の上半身の部分が構築された。


「これは…! 液体金属か!?」

『そうだよ…作り出すのに結構苦労したんだ…』


中央の女性が恥ずかしそうに頭をかいた……


(これが金属だと?流体金属など過去、何人もの錬金術師アルケミストが挑戦し断念してきたテーマだぞ?!…こんな娘のような存在が作り上げたと言うのか?!)


 マクガイアは一番気になっていた事を質問した。


「…お前が森の魔女なのか?」

『え?……私は……魔女じゃないよ?何かな…まぁ…弟子…みたいなものかな?』


 全身銀色のその見た目からは何とも言えないが若い娘の雰囲気を感じ取った……また貴族の様に計算高い言動も感じられない……城下町にいるようなその辺の娘……そんな雰囲気だった。


「…これを作ったのはお前なのか?」

『うん…一応……手伝っては貰ったけど…』

「そうか若いのに大した物だな……」

『そうかな?……ちょっと照れますね……』


 照れて頬を指で掻く仕草などは金属とは思えないほどの人間味を持っていた…


「これほどの技術力は世界のバランスを崩しかねない……今後は慎重に仕事をするべきだな」

『…慎重?なんで?』

「このような技術は今までに無い物だ…今までの戦闘を見てきたが…次元が違うのだよ…君の作るゴーレム1体で戦況は大きく左右される…被害も今までと比べ物にならない位にな……」

『……一応戦争早く終わらせるために協力してるんですけど…』

「そう言いながらもあの鎧は君が作ったものでは無いのか?」


 マクガイアの言葉にナビの音声が嫌悪感を示した……

(ただの音声ナビゲーション相手に本気で説教を始めて……俺も歳を取ったな……)

息子しか居ない自分にもしも娘が居たとしたら……こんな感じで遣り取りをしたのだろうかと考えて

つい口元が緩んでしまうのだった。


『あれ?おかしいなぁ……アレってたしかレイヴンに渡した奴じゃなっかたかな……』

「!レイヴンだと!?確かなのか?」

『あれ?知ってるのあの優男…あそこまで強力なはずじゃ無かったんだけどな……製造工程で失敗しちゃって……中の人は『喰われる』んですよ……だからレイヴンを始末するのにいいかなーって…でも…少し弄られてるみたい…あそこまで強力な魂を取り込めるはずないもの……』


 軽い世間話のように『始末』などと言う彼女の口調にマクガイアはぎょっとした……

先ほどまでその辺の娘と同じような存在と思っていたが……どこか常識の基本となる部分が自分とはかけ離れている気がしてきた……


「…失敗作とは言えあれほどの力を持っていたのでは失敗とは言えないだろ……」

『…でも大事な人に渡せないじゃないですか…魂ごと取り込まれちゃうんですよ?……このゴーレムも同じですけど……』

「……それはカミュに渡していたあの指輪の事か?」

『あ…知ってるんですか?カミュを?えへへ…あの指輪は特別製なんですよ』

「ゴーレムは何故製作したのかね?」

『えーっと……カミュが戦争を終わらせる為に力を貸してほしいって…手紙に書いてあったから…レイヴンに相談したらゴーレムが良いからって……』


(…なるほど全て読めてきた……戦場でカミュにあったが…彼は戦い自体を好んでいなかった。

戦争を終らせたいと願っては居たが、力による解決は望んでは居なかった。

ゴーレムに関しても魔女から提供された事を聞いて驚いていたしな……

すべての裏にレイヴンが絡んでいるようだな……この件にガノッサ卿は絡んでいるのか?!)


『……何かトラブルの様ですね……大丈夫でしょうか?…私は『マトリーシェ』の人格をコピーされた『完全自立型人口知能スタンドアローン』ですが一応『本体マトリーシェ』との交信も可能です…今回の事案を送信して新たな指示を受けてみます……何かわかるかもしれません』

「そうか……頼む」

『……魔導回線オープン……魔力周波数チェック…コンタクト開始………?……あれ?…カミュ来てるの?……あら…あらららららら………』


 金属であるはずのAIマリーの頭部から湯気が立ち上った……様に見えた。


『え……えっと……今本体の方は……大事な用事で接続できません!!カミュとは接続してますがこちらに向ける意識が無いと言うか…余裕が無いと言うか……大事な時なので交信は出来ませんっ!!!』


 金属が身悶える姿は何とも言いがたいものだったが……何とかこの事実を魔剣王様に報告せねば………


「その前に……向こうも準備が整い始めた様だ……先にアレをどうにかしないとな……」

『それでは融合を開始いたしますか?……先ほども言いましたが…貴方はこのゴーレムに取り込まれますと『コア』として融合されます……恐らく高確率で貴方の意識は飲み込まれるでしょう』

「…覚悟は出来ている…まずはアレを破壊する事を考えよう……」

『…わかりました…では貴方を『コア』としてゴーレムの再起動を行います……何か言い残すことは?』

「…そうだな…自らの死地と決めた戦場で最後にこうして誰かと話が出来るとは思ってもみなかった……ありがとう…最後に君と話せてよかった」

『……マクガイア様…』


 背を向けるマクガイアの背後から流体金属のゴーレムが抱きつく形となる。

傍から見れば別れを惜しむ家族の様にも見えた。


『本来…魔女とはその秘術を用いて人々の幸せの為に奇跡を起こす存在なのだと…私の師が言っていました……』


 ゆっくりと金属がマクガイアの体を侵食する……接触した部分から麻酔薬が分泌され彼の感覚を奪ってゆく……彼は朦朧とする意識の中で彼女の呟きを聞いていた。


『マクガイア:メデュナス……このまま消えてしまうには惜しい人物です……魔女である私に『奇跡』を起こす力があるなら今この瞬間に奇跡を起こしたい!!』







 ふわふわとした浮遊感に包まれてマクガイアは意識を取り戻した……

意識ははっきりとせずまだまだ夢の中にいるようであった。


『お目覚めになられましたか』


どこかで聞き覚えのあるの声がした……誰だったか……思い出せない

自我の知覚境界が曖昧だ……何処までも自分で、何処も自分ではない……

自分であって自分でなく真理であって真理でない……物事の境界が曖昧で判断がつかない。


『……奇跡は起きました……はいえ…私が起こしました…あなたの意識はそのまま残っています』

『……あれ……そうか……私は君に取り込まれて……』

『はい…取り込みました……私は貴方であり、貴方は私でもある……貴方の意識の保存に成功したのです』

『……そうか…それは凄いな……』

『……しかし……体は失われています……既にこの存在は人ならざる者……意識を残してしまった事を後悔もしています……それに成功と言ってもこの状態が何時まで保てるか……』

『……いや…ありがとう…残された時間があるなら…最後の瞬間まで成すべき事を成すまでだ…』

『……では私は戦闘経験がないので……ゴーレムの主導権をあなたにお任せします私はサポートに回りますので……』

『…え………どうすればいいんだ?』

『今まで通り普通に体を動かしてください……』


 マクガイアは立ち上がれと念じた。

地面に蠢いていた流体金属が盛り上がり人型を形どった………銀色の体がやがて色彩を帯びて白を基調とした騎士の姿へと変貌した。

生前のマクガイアが装備していた甲冑を模倣したデザインであった……のちに『聖白騎士ホワイトパラディン』と呼ばれる存在であった。

ゆっくりと立ち上がり自分の体を見回す……


『ホントにこれが私のなのだな……』


 ゆっくりと自分の手を見る……見た目は鎧だが確かに自身の生命の鼓動を感じて取れた。

ふと魔力の波動を感じて平原を見下ろすと向こうの鎧も以前の面影が残らないほどの異形の形状を持つ鎧となっていた……

混沌騎士カオスナイト』……そう呼ばれる存在であった。



『……武器はあるのか?』


 マクガイアは目の前の混沌騎士を見て直感的に強敵だと判断した……

今まで出会って来た中では最強の相手であると。


『……少々お待ち下さい…剣でよろしいですか?物質召喚いたします』


 左手が急動き出し空中に魔文字を描くとその空間から柄が現われた…それを手に取り引き出した。


『あなたと一緒に取り込んだ剣です……こちらで勝手に最適化しましたがどうでしょう?』


 以前とはサイズは明らかに違うがこの腕に響く重さは彼が慣れ親しんだ愛剣であった……


『そうか…感謝する……では始めようか』



 抜刀し構えた聖白騎士を見て混沌騎士は雄叫びを上げた……それは格好の相手を得た戦士としての喜びか……破滅をもたらす者の断絶の叫びなのか………

今となっては知るものは居ない。















 城塞都市『マデェンダ』は半壊の状態であった。

この都市を守る守備隊長のマッケインの姿は無く副隊長は戦死……軍は混乱を極めていた。



「さてと〜報告を聞こうかな?」


 机に座った黒髪の女性が告げた…目の前には二名の兵士…何処と無く緊張している様だった。


「はっ!まずは守備隊長マッケイン殿は自ら持ち込んだ巨大な全身鎧に身を包み単騎で出陣成されたと…………」

「……ふむ?…単騎??」

「…報告では我が軍を苦戦させた敵の新型ゴーレムを二機……撃破されたと……その際に敵の自爆に巻き込まれ生死不明です」

「…敵は?」

「…自爆後に敵の総大将であるマクガイア卿を残し全軍撤退したと……」

「全軍撤退……?なのに何故この都市がこのような有様に?」

「…そ…それが……マッケイン隊長の鎧が変質した…と…」

「変質?…」

「我々も…信じがたいのですが…」


 報告する兵士も困惑気味だ。

女性は目で続きを促した。


「負傷兵の報告によれば右腕はヒュゴラス将軍で左手はゴルドラ将軍……その頭部はみた事もない角のような装飾があり……まるで昔話に聞くような斬首皇帝のようだったと……」

「……いや…ありえないっしょ?なんかいけない薬とか充満したとか?」

「はい…我々も最初は薬物や幻覚の類を思いましたが…この都市に居る者の殆どが同様の証言をしております……大気中の精神汚染物質も発見されませんでした」

「………それで?」

「…敵将マクガイア卿も白い甲冑を身に纏い三日三晩激しい戦いが繰り広げられたそうです……」

「よほど激しい戦いだったみたいだね〜この街がこんなになっちうぐらいだし…」

「…いえ……その……マッケイン隊長の……彼らは混沌騎士と呼んでいましたが……混沌騎士が三日目に突如奇声を発して……無差別に破壊活動を始めた………と」

「…はぁ?あいつ何やってんの?」

「ええ……そして……マクガイア卿の……聖白騎士と呼んでいるらしいですが……彼が盾となり…町を救ったと……」

「……ん?マクガイア卿が?…」


 怪訝な顔つきで女性は報告する兵士を睨む…どこか妖艶な雰囲気の彼女はそれだけでも絵になる存在である……兵士にすれば生きた心地がしないだけであるが。


「…はい……城壁付近で警備をしていた魔法兵団と騎馬隊に『危険だから下がれ』と忠告したと……」

「……」

「………聖白騎士が自分の剣で自分ごと混沌騎士を串刺し…中央平地に連れて行き……爆散したと……」

「……それが……アレね…」


 女性はふと後ろの窓に視線を向けた……その先の平地には巨大なクレーターが出来ており周辺の川から大量に水が流れ込んで大きな湖と姿を変えている途中だった。


「……ん~…なんだか物語の様な話になって来たね……何か見つかった?」

「…鎧と思しき破片はいくらか……それ以外はこれと言っては……」

「そっかー報告ありがとさん〜もういいよー」


 兵士は一礼して部屋を出て行く……  

女性は暫く腕組みをして目を閉じていたが………不意に目を開けると呟いた。


「……はぁ…さっぱりわからん」






 首都で久しぶりに政治を頑張ろうと思ったら何故か魔剣王が攻めてきた。

困ったから宰相二相談したら暗殺されそうになった。

とっ捕まえて軽く拷問したら戦争の混乱に乗じて王の座を乗っ取ろうとしたらしい……。

宰相が国境でトラブルを起こさせてそこから戦火が拡大したらしい……

気が付けば魔剣王の軍勢が凄いゴーレムと一緒に直そこまで来てたから謝って許してもらってついでに凄いゴーレムも見せてもらおうと思ってきたらこんな状況だった。


「…だから国王なんてめんどくさいから嫌だったんだよ……」


 彼女は不満そうに口を曲げた……

彼女の名はベルゼーヴ:シュトロメア……この世界では『魔皇帝:ベルゼーヴ』と呼ばれる存在だった。


「取り敢えず…ヴァルのとこに行っちゃおーっと!」











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