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魔眼の使徒  作者: vata
第二章 暗き森の魔女
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失われた記憶~戦線2前編~

 マトリーシェの作り出したハイブリットゴーレムは無敵であった。

かの軍勢はさらに進軍し砦を二つ、街を一つ落し、敵王都の寸前の主要都市の目前まで迫っていた。

今回の遠征に補充されたゴーレムは新型を含め3体であった。


「…しかしこのゴーレムは恐ろしいな…自分が戦場で出会っても勝てる気がしないな…」

「ご謙遜を……しかしあの戦闘力は確かに常軌を逸していますな」


 行軍の中ほどに彼らは居た。

『魔剣王』の進行部隊を任された『剣』の一族当主マクガイアとその腹心カエサルであった。


「…暗き森の魔女が作成したと聞いたが……ガノッサの奴上手く取り込んだようだな…」

「…あの時の魔女が……」


 カエサルはキャリック村でのマトリーシェとベオの一件を目撃している………

師弟であろう魔女は弟子の少女が禁呪を使いこなすほどだ……師である魔女はいかほどの力を持っているのだろうか……


「……その者達は立ち回りを上手くせねば……標的となるだろうな……」

「……」


 主であるマクガイアの言葉は十分に理解できた……このゴーレム1体で砦が落せるのだ……10体もあれば国が落せるだろう。

しかし魔女にとってはそれが力の全てではないのだ……その存在は脅威にしかならないのである。






「……見えてきたな…」

「全軍停止!!各小隊毎に点呼し小休止せよ!」


 遥か平原の彼方に敵の最重要防御拠点の城塞都市の城壁が見えた……あそこを落せば敵の首都も落したも同然だった。

明日の朝、2体のゴーレムで城塞都市を攻略し残りの1体と遠征部隊全軍で首都を攻略する……そう伝令が走り兵士達は各自準備を始めた。


 敵城塞都市にも特使を派遣し即時降伏を進言した……

『命が惜しくば逃げ出すが良い!我が軍門に下るも良い!無抵抗な者には我が魔剣王の慈悲がかけられるだろう』

使者が戻り数刻経ったが動きは見られなかった。

密偵の情報によれば敵軍に動きは無く、都市の住民にも動きは無い様だ。


「……愚かな…罪も無い民を巻き添えにするつもりか?」

「…魔皇帝によって脅されているのやもしれませんな……」


野営地より見る都市にはその後も動きは無く、やがて夜が明けた。

マクガイアは複雑な表情で号令を発する。


「ゴーレム起動!モード『制圧アセンダシィ』!城壁の破壊を優先!緊急時には『殺戮ジェノサイド』モードの開放を許可」

『コマンダーよりノ指示を確認……モード『制圧アセンダシィ』に設定……脅威対象ヲ感知した場合『殺戮ジェノサイド』への移行ヲ設定………完了……60秒後に起動開始しまス……』


 マクガイアの指示にゴーレムが反応しカウントダウンが始まってゆく………やがてその両足に『突風ストリーム』の魔法が発動し足裏に仕込まれた車輪を動かしてゆく……カウントが0になると土煙を巻き上げて2体のゴーレムが急発進した。

マトリーシェにより改良されたハイブリッドゴーレムVer2.0はより機動性と攻撃の両立を目的に生み出されていた。

砦に向かいながらもその両腕からは『土槍ガイアランス』が放たれていた。

しかし『土槍ガイアランス』は城壁の寸前で見えない壁に阻まれるように粉砕される。


『…高濃度魔力にヨル魔法障壁を感知……攻撃魔法再設定を推奨……モード『木馬砲トロイメア』ヲ推奨』


 通信魔法球より聞こえるゴーレムからの報告にマクガイアは難色を示す……被害が拡大する恐れがあるからだ。


「……ゴーレム初号はモード維持…弐号はモード変更を許可」

『命令受諾…作戦開始まデ後30秒…29…28……』


先行するゴーレムが形状を変化させ二足歩行から四足歩行に……『木馬』の様にその場に固定される。

頭部が平行に固定されその口とも呼べる部分にはその城壁を打ち抜かんと高出力の魔力砲が充填されていた。


『出力105%…『木馬砲トロイメア』発射』


 一瞬の静寂の後、激しい閃光と光が周囲を覆い尽くした。



直線に伸びる閃光は城壁を破壊し、城壁都市に凄まじい被害を与えた……と思われた

しかし城壁の手前に居た『何か』によりそれは軌道を変えられたのだった。


『何かに切り裂かれた』


それが1番納得できる表現だ。



「何が起こったのだ?!」

「それが…一体…」


マクガイアの問いかけにカエサルは答えられなかった。

あの攻撃を止められる事は出来ないと思っていた…しかし今目の前でそれが起こってしまったのだ。


『驚異的存在を感知ジェノサイドモードの移行を推奨』

 

手元の通信水晶から聞こえるゴーレムからの報告に困惑するマクガイアであった……


「…何が起きているんだ…」


激しい魔導障害が回復し通信水晶に千里眼の魔法の映像が映し出される……

辺りを覆っていた土煙が晴れたそこには真紅の全身鎧フルプレートメイルをまとった巨大な兵士が1人その身の丈ほどの巨大な剣を抱え立ち尽くしていた。

顔面部分も今は仮面に覆われその表情は伺えないが……

ただ平然とそこに立っているだけだった。


「…あれが今の攻撃を防いだというのか?生物ではないな……稼動鎧リビングメイルか?」

『肯定…目標は驚異的存在…現時点でノ作戦の遂行ハ不可能ト判断しまス……ジェノサイドモードによる対象の排除を推奨します……ご命令を…司令官コマンダー


 ゴーレムから送られる報告は2人を混乱させた…このゴーレムは2人の知る限り最高戦力といっても良い。

それと同等の戦力を相手が保有しているとは予想すらしていなかった……いや、出来なかったのだ。


「ゴーレムに対抗しての策なのか?……許可する…ジェノサイドモードに移行せよ!」


『命令受託…現時点をモッテ初号、弐号機はジェノサイドモードに移行…脅威対象の排除ガ最優先事項としテ行動開始しまス』


二体の形態が変化し改良の加えられた魔導鎖マナチェインはより細く、より強靭になり、しなやかな肉食獣を思わせるような形状に変わった…

周囲を警戒しながら二体の獣が獲物を取り囲むように距離を縮め始めた。

それに反応するように真紅の鎧が動き始めた……



先に仕掛けたのはゴーレムだった

その素早い動きは最早ゴーレムとは思えなかった……初号の鋭く伸びた爪がその鎧を破壊する為に鋭く突き出された……しかし真紅の騎士はその巨大な剣を一振りするだけで難なくそれをなぎ払った。

その隙をついて弐号が跳躍し上空から攻撃を仕掛ける……しかしこの攻撃も難なく交わしすれ違いざまにその腕を1本切り落としたのだった。


「…馬鹿な…あのゴーレムを破壊できるだと?!」


 マクガイアが絶句した…あの頑丈な装甲に加え純度の高い魔力によって強化された魔導鎖マナチェインはそう簡単に切り落とせるものではない。


「何なのだ…あの稼動鎧リビングメイルは……」






「ふふふふ……ふははは………うふぁはははははは!!!」


 稼動鎧リビングメイルの中からその光景を見ていた守備隊長マッケインは笑が止まらなかった。

連戦連敗で歴代の守備隊長は悉く戦死……名も無い地方の貴族であったマッケインに守備隊長の話が来た時には正直死刑宣告をされたのも同然と思っていた。


「あの男には感謝せねばならんな……こんな稼動鎧リビングメイルなど役に立つとは思って居なかったのだが……」


 そう言いつつもマッケインは神にも縋る思いでこの稼動鎧を実戦投入したのだった。

先日夕闇に紛れて逃走しようとしていた所を男に声を掛けられた……


『守備隊長殿ですね?実は貴方様に次の戦いでの切り札をお渡ししようと……』


 その男に渡されたのは赤と蒼の不思議な石のはめ込まれた指輪だった……言われたように武器庫の中にある騎士団の鎧に付けると鎧と一体化する様に形状が変化した。


『この鎧は無敵です……歴戦の勇者の魂が取り込まれたこの鎧は中の者の思い通りに活躍してくれるでしょう……』


着こなすには巨大すぎるのだが……それでも万が一を考えマッケインは鎧の中に身を投じた……

中は不思議な空間だった……奇妙な浮遊感の中、周囲が見渡せたのだ……


『念じるだけで貴方の思うがままに戦ってくれるですよ?』


 その言葉に従い『走れ』と念じた。

すると鎧はその巨体からは創造できない速さで走り出した。


『こっ…これは…素晴らしい!』

『貴方様に相応しい鎧にございます……これで敵軍を討ち取れば……貴方様は英雄でございます』


 英雄……その言葉がマッケインを支配した。

かつて彼にもそう呼ばれたいと思う次期があった。

しかし現実は残酷で、彼は自分にその才能が無い事を悟り地方に隠居し燻っていたのだった。


『……貴様…何が狙いだ…』

『いえ……この鎧と…敵の噂のゴーレム……どちらが強いのかと思いまして…』

『……まあいい…これほどの戦力……断る理由は無い……貴様…名は?』

『……今は…旅鴉レイヴンと呼ばれています』







「さあ……そろそろ決着を付けようではないか………」


 マッケインはただ鎧の中に存在する『空間』に居るだけであった。

戦闘は鎧が自動に行ってくれるし、攻撃の衝撃は全く伝わってこない……実に快適空間であった。


「さぁ!あのガラクタどもを粉々にしてしまえ!」


マッケインの言葉に反応しリビングメイルは素早く初号の背後に回り込んだ。


対象ターゲット消失ロスト…緊急回避行動に……』


 異変を感じた初号は退避行動を取るべく行動したが既に遅く両手足の魔導鎖マナチェインは切断され巨体が宙を舞った……


『…!?状況確認……手足稼動不可…攻撃にヨル損傷は致命的…自爆にヨル『虐殺ジェノサイド』を推奨……』


 ゴーレムコアにその剣が打ち込まれ初号のコアは沈黙した……リビングメイルはそれを持ち上げると一刀の元に両断した。


「……ば…馬鹿な!!」


 カエサルたちは目の前の出来事が信じられないでいた

ゴーレムた互角…いや、それを上回る存在を信じられないでいた



「フゥハハハハハハ!俺様☆最強!!」


 気を良くしたマッケインはここが戦場である事も忘れて舞い上がっていた。

しかし強い衝撃を受けて我に返る


「な…なんだ?……一体何が…うひゃああああああああ!」


 周囲が見渡せるマッケインの居る内部から背後を見渡すと直そこに弐号の魔導石が紅く輝いていた。

ゴーレム弐号が背後からしがみついていたのだ。


『脅威対象捕獲……緊急自爆モードに移行…10…9…8…」


 二号の魔導石の内部に白い液体が流れ込んだ……内部の赤い液体と混ざり合い発光してゆく……

やがて周囲が眩い閃光に包まれた。

すさまじい衝撃が大地を揺らし、カエサルが見上げた空には巨大なキノコ雲が立ち上っていた。









「…やったか…!?」


魔剣王の軍勢の中から歓声が上がったがそれはすぐに悲壮な叫びの声に変わった。

土煙の中人影が立っているのだ……歪な形に変形した鎧がその衝撃の凄まじさを物語っていた。


「…化物め!!」


 カエサルは歯を食いしばる……おそらく我々はここで全滅だならば剣の一族として見事戦場に散ってやろう……そう決心し剣の柄に手をかけた………


「……カエサル……伝令を頼む」


 振り返るとマクガイアが懐よりの取り出した書状を読み終えたところであった。

後ろの新型のゴーレムの取り扱いに関する書状であった筈だ。


「これより参号を使う…これ以上はこの戦場に無駄な死者は不要だ……全軍を率いて帰還せよ!」

「!?マクガイア様お待ち下さい!!それならば私が……」

「カエサルお前では力不足だ……それにこの戦は負ける…あらばアレを此処で仕留めて置かねばならん……そして一刻も早くこの状況を魔剣王様に伝えるのがお前の役目だ」

「しかし…マクガイア様…」


それでも食い下がるカエサルにマクガイアはその手を肩において先ほどとは違う声で語りかけた。


「カエサル……いや我が息子よ……此処で我が剣の一族の血筋を絶えさせる訳にはいかん……お前が剣の一族の新たな当主となり魔剣王様にお使えするのだ……私は長く生きた…最後にこんな恐ろしく強い相手と戦って死ぬならば我が生き様に相応しい…此処は私に任せろ!!」

「父上!……」

「行けカエサル……我が王に伝えるのだ…黒き森の魔女は危険であると…あの鎧もおそらく魔女が創った物だろう…」

「まさか!!」

「その可能性は高い…一刻も早く王の元へ!!」

「……どうかご武運を!……父上!!……全軍撤退!急げ!!」


 歩兵を伴って走り去るカエサルを見つめ、マクガイアはそっと呟く…

『さらばだ息子よ』………と












「何だ…何が起きている…」


 一瞬の衝撃で気を失っていたマッケインは状況が理解できずに困惑していた……先程の爆発アレで自分は死んだのではないだろうか?

そんな疑念が込み上げたが依然として彼は鎧の中に居た。

しかし先ほどとは変わり周囲の画像は所々乱れ鎧は地面に膝を着いて動きを止めていた。

『壊れた』…それが彼の正直な感想だった。


「早くここから脱出を…んっ?」


 気がつくと正面に光が集まり小さな何かが動き始めた。

金の髪を靡かせて小さな『マリーちゃん』が現われた。


『緊急事態発生の為マリーちゃんが緊急復旧作業に来たよー!あれ?レイブンじゃないね?あいつ胡散臭いからこの指輪渡したのに……まいいか…あのね……もうすぐこの鎧は壊れちゃいまーす!』

「いやだあああああああ!!早く外に出してくれ!!」


 取り乱したマッケインが画面に取り付こうともがくが画面が近付く事はない……


『……ごめん…そんな機能はついてません!敵を殲滅するまでは!!』

「何とかしろよ!!こんな状態じゃ戦えないだろう!」

『一つだけ…今よりも強くなる方法がありまーす!』

「何?じゃあ早くそれをしてくれ!!何なんだそれは!?」

『バーサクモード』

「……強そうだな……勝てるのか?」

『勿論だよ…今なら魔剣王とかって言うのと同じくらい強くなるかも?』

「!?すげぇな……いいぞ…いいぞいいぞ!!俺にも運がようやく周ってきたぜ!!よし今から直ぐにその何とかモードを始めてくれ!」


 マッケインは考えた…ならば自分が新たな魔王になれるのではないか……と

結論から言うと魔界はそんなに甘くは無いのだが………

異常なまでの戦闘の連続がマッケインの思考を正常から遠く逸脱させてしまったのだった。




『ふふ……じゃあ始めるよ!英雄スロット!スタート!』


 マリーの掛け声に反応して周囲は一変して賑やかな雰囲気に変貌する…周囲には12人の人影がマッケインを取り囲むように現われた……やがて賑やかな音楽が鳴り響きそれらが回転を始める。


『目押しに自信はある?』

「め…目押し?」

『この人たちは魔界の『英霊』だよ…ここのボタンを押して三人この枠の中に止めるんだよ』

「え……こうか?」


 マッケインは目の前に現れた3つのボタンの左を押す。

同時に回転していた人影が左の枠内に止まった。


『ふむ……『顎鬚のミシュル』か……魔界で過去最高の顎鬚の長さを持つ英雄だよ…その記録は未だに破られていない…』

「……大丈夫なのか?……次いくか……ポチっとな」


 真ん中のボタンを押した……


『ん……『魔界最高の文学少女・エリン』…彼女の書いた作品『花とおじいちゃん』は魔界文学大賞を総舐めし未だにその表現力の高さは語り継がれている……か』

「おいおいおいおい!!大丈夫なのかよ!!顎鬚とか…文学とか…!!」

『大丈夫だって!最後の一人をすっごいの狙えば良いんだから…』


 不安がぬぐいきれないマッケインは深呼吸する……一瞬だが先ほどの英霊の中に『斬首皇帝ギルロンド』の姿を見かけた……

魔界では伝説の暴君である……


「この一撃に俺の全てを懸ける!!」


 マッケインの親指が右斜めからボタンを抉るように捻り込んだ……恐る恐る第三の枠を見やる……


『………『最強の道化師…ゴージャグーラ』音と光で多くの人を驚かした……だね』

「は……はは……終った…終ったよ……」


マッケインはその場に崩れ落ちた……どう考えても戦闘が出来る者達ではない……

ふと間の前に大きなボタンが現われ『PUSH』と表示されている……もうどうにでもなれとそれを叩くのだった。









 いつもの癖でまた分割する羽目に……

次回ものんびりとお待ちください。

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