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魔眼の使徒  作者: vata
第二章 暗き森の魔女
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失われた記憶~幻影~



 刺客に襲われた翌日……お嬢様が……何て言うか……丸くなったと言うか…棘が無くなったと言うか……

わかりやすく言うと………『デレた』




「ほら!カミュ!早く早く!」

「まっ…待って下さい…お嬢様!」

 

 今はお嬢様に手を引かれ中庭に向って走っている……今日は中庭でお茶をするらしいのだ……

中庭に行くとメイドのカリナが頭に包帯を巻いた姿で待っていた……痛々しいな。


「もう動いて大丈夫なの?」

「はい、お陰様で…ありがとうございました、貴方は命の恩人です」

「や、やめてくださいよ…大した事では……」


 頭をさげるカリナを慌てて制する…


「大した事なのよ…カミュ…貴方のした事は」

「…お嬢様…」

「本来ならあの連中に狙われて生き延びる事は不可能よ…他にも犠牲者が出ているのだもの……でもね、そうではないの…貴方が私達を救ってくれた事で…あの連中を討伐した事で今後襲われる筈だった人達をも救った事になるのよ」


 あの連中が敵の暗殺部隊だと知らされて正直震え上がった……しかしそれを打ち倒す事が出来たのは自分の力ではなくマトリーシェに与えられた力だと認識している為彼には胸を張る事は出来なかった。

しかしその謙虚な態度がカリナやファルミラには非情に好感の持てるものだった。

 

「……そうですね…そんな風には考えが思いつきませんでした」


 こんな自分でも何かの役に立てたのなら…そう考えると自分の今している事も意味があったのだと納得できた……

たとえそれが与えられた力であったとしても……


「そ…それと…私の事はファルと呼びなさい…」

「…はい…え…と・・・ファル・・・様?」

「様はいらないわ!」

「はっ…はい…ファル…」

「ん…よろしい!…では早速カミュには紅茶を煎れて貰おうかしら……あら?」


 そう言いながら何かを探すファルミラ……思い出したように『待ってて』と屋敷に向っていった。

取り残されるカミュとカリナ……


「カミュ様」

「はっはい!?」

「貴方には感謝しています……特にファルミラ様については…あんなに明るいお嬢様は久しぶりに見ました」

「…そうですか……特に私は何かをした訳では……」

「いいえ…何もしていないかもしれませんが……でも確実に『何か』影響を与えたのは貴方です」


 彼には自覚が無い…それは育ての親に『何事にも真剣に、そして真摯に取り組め』そう言われ育てられた結果と言ってもいいだろう。

彼自身何の取り得も無く只魔法の使えない魔眼だけが珍しいからと生かされていた存在であった………


「何かの役に立てたなら……嬉しいですね」


もし…自分がファルミラに影響を与えたと言うのなら……自分に影響を与えたのは間違いなくマトリーシェだった。

いつかは彼女を…みんなを自分の力で守る事が出来たなら……そう心に強く誓った。


(マリー……君に会いたいよ……)












「もう少し!!頑張れ!」


 今、マトリーシェはミネルヴァと研究室で声援を送っていた……二人の眼前には白い卵が動いていた…

これはマトリーシェとカミュが行った『遺伝子受胎』の実験でミネルヴァとベオウルフの鱗を触媒にして別固体を誕生させようとしていた。

二人の竜の因子を強く遺伝させる為、卵での培養を行ったのだ。

九個あった卵は失敗を続け最後の一つがようやく孵化寸前だったのだ。


「これって……私とベオの子供って事なのかな?かな?」

「え?いえ…むしろ私とカミュの愛の結晶って言ったほうがいいわね」


どちらでもいい……研究室の隅で容器の荒いものをさせられているベオウルフはそう思った。

やがて卵の中から一匹の小さな翼竜が這い出てきた……


「かわいい!」

「…んーどうやら『翼竜ワイヴァーン』みたいだね……やっぱり『ドラゴン』の力だけを遺伝させるのは難しいな……」


 当たり前だ…我々高貴な『竜人族ドラゴニアン』の力がそう簡単に作れるものか……

所詮は作り物…翼竜など何処がかわいいものか!


「ねえマリー……この子変だよ?…翼竜なのに白い……私の鱗を使ったからかな?」

「そうかもしれないし……多分『属性特化型』なのかもしれない…」


 属性特化型だと?思いっきり戦闘種じゃないか……『竜人族ドラゴニアン』でもなかなかお目にかかれない変異種だぞ……

少し興味の沸いてきたベオはその姿を見ようと近付いた。


「!!」


 ベオは一瞬呼吸を忘れてしまったかのように見入ってしまった……

その生まれたばかりの固体はまだ小さく鳴き声も満足に出せないでいた…

ミネルヴァの様な真っ白い雪のような肌に小さくつぶらな瞳……

そして…あろうことか割った卵の殻を頭に乗せていたのだ…!!!


もう一度言おう!頭に乗せていたのだ!!!!


「かわ……」

「え?ベオ何?」

「!?いや……なんだ……小さいな……」

「当たり前でしょ?生まれたばかりなんだもん」


 いかんいかん…仮にも竜人族序列第二位の黒竜たるこの俺がこんな小さな生物をかわいいなどと口走る所であった。

しかし視線は釘付けである……そんな事も知らずに翼竜はピーピーと鳴き声を挙げる……


「……お腹が空いているんじゃあないのか?」

「ん…そうだね…何食べるんだろ?」

「ん…そうだね…ヤギの肉とか?」

「……」


 絶句した…ヤギの……肉、だと?

ヤギの乳ならまだしも……肉だと?!馬鹿な…こんな小さな赤子の様な固体に肉など食える筈無いではないか!!

仮にも…もしもこの子が肉を食べれたとしよう……しかし!生肉など食べさせてはお腹を壊してしまうではないか!!

ミネルヴァ…貴様それでも母親か?いかん…この二人に任せたらこの子の未来はお先真っ暗だ……俺が…俺が守ってやらないと!!








「は~い、お口あけて~上手でちゅね~」

「………」


 翼竜にスプーンで口元に食事運び甲斐甲斐しく世話をするベオを部屋に残し二人は外に出た……


「…ちょっと意外だった…ベオがあんなに子煩悩だったなんて……」

「ふふ……これならミネヴァにいつ子供が生まれても安心だね」


 マトリーシェの言葉にミネルヴァは顔を真っ赤に染めた。

しかしあの翼竜の遺伝子は若干ベオよりにして彼の母性を擽る様に仕向けてあった……世話をさせるのに便利だと感じたからだ。

それに食事についても本来の翼竜とは違い雑食性を高めておりほぼ何でも食べれるように調整しておいた。

特にこの近くの山には野生の山羊が生息しているから将来的には自分で狩りを覚えるだろう……


「……でも…どうするのあの子…まさか戦争には……」

「使わないわよ…暫くはここで面倒を見るわ……大きくなったら…そうね…この森の守護者でもさせようかしら?」


とは言ったものの暫くはベオがべったりで何も出来そうに無いな……

しかしこれで新しい獣魔も改造計画に目処がたった。

 

「…早く戦争なんて終わってカミュが帰ってくればいいのに……」

「直に帰ってきますよ…貴女の活躍でね…」


 突然の背後からの声に二人は振り返る……


「レイヴン……気配を消して近付くなんて良い趣味とは言えないわね」

「それは失礼しました……おや?白翼竜ホワイトワイヴァーンですか……珍しいですね」

「……森で拾ったのよ」


 最近マトリーシェはこの使いの男に対して一種の疑心を抱いていた……

だから真実は出来るだけ告げないようにしていた……しかし本人の知らない間に監視されている為余り効果は無いのだが……


「ほう…ではアレが次の兵器ですかな?」

「!?」

「……違うわ……アレは私の家族よ」

「それは失礼……頼まれていた資材と資料はいつもの様に置いておきますよ…では私はこれで」


 ミネヴァからの視線に分が悪いと判断したのかレイヴンは用件をのべると退室した……

 

「私あの人嫌い」

「……仕方ないんだ…カミュを助ける為なんだ……」


 ミネヴァの言いたいことは理解できる…私だってカミュの事やネアトが不在出なければきっとあの男との取り引きなんて応じなかっただろう……

しかし私は応じてしまった……今更後戻りは出来ないのだ……


「……私も何かをしていないと……不安だったんだ……」

「……マリー……大丈夫よ…きっとカミュは帰ってくるわ」

「…うん……!!そうだ……」


 レイヴンの持ってきた資料を漁る……そして一つの項目を見つけて目を通した……


「ああ……やっぱり……」


 それはカミュに渡した『指輪』に関するものだった……

最初の『変身』を行った際にマトリーシェの送り込んだ魔力が強力すぎて色々な機能が破損していた。


「どおりで……」


実際に会った時に修復するしかないなと溜息をついた……

(何時になったら逢えるのだろう……このまま逢えないのだろうか……)

そんな不安が過ぎった。


「カミュ……逢いたいよ……」








 夕焼けの庭で少女が軽い足取りでくるくると回っていた……僕はそれを眺めていた……


あれは誰?あれは………ファルミラ様だ……


「カミュ」


誰かに名を呼ばれ顔を上げた。

夕焼けを背に少女が振リかえる……

銀の髪が夕日を浴びて金に輝く……

その姿にカミュは絶句した。


「!!マリー!……」

「え?」

「………」


ずっと考えていた……似ているって思っていた……でもこれは『似ている』なんてものじゃない……

マリーはきっと………


「カミュ…カミュったら!」

「え?…あぁ…すみませんファル…」

「もう……最近どうしちゃったの?ぼーっとしてる事が多い気がするのだけど…」

「すみません」

「い…いいのよ…そんなに怒ってる訳ではないから……ただ……貴方が心配で……」


 カミュの手にファルミラの手が添えられる……しかしカミュは泣きそうな顔でその手をそっと引く


「…ファル…私はただの警護の兵士…過剰なお気遣いは無用です」

「!!」


 勿論カミュとて馬鹿ではない……このお嬢様が自身に特別な感情を持って接している事くらい感付いている。

だからこそマトリーシェが恋しくて堪らなくなるのだ。


「……さあ暗くなる前に戻りましょう…」

「…えぇ……」


屋敷まで二人とも無言だった……カミュはファルミラの顔が見れないでいた。

これ以上彼女ファルミラ彼女マリーを重ねて見る事は出来ない!!


「今日はもう大丈夫だから……カミュも休みなさい」

「…はい……おやすみなさい…お嬢様」

「……おやすみなさい……カミュ」


正直有難かった……今日はきっと彼女の顔を見る事は出来ない……心が悲鳴を上げていた。


「………マリー……」











 私はカミュが好きだ。

愛している……そう言っても良いのかもしれない。

昔、レイヴンが好きだった……好きだと思っていた……でも…恋を知って…本当の恋をして…あれが『憧れ』なんだと理解できた。

逢うたびにカミュが好きになってゆく……お父様は反対するでしょうが…私は彼になら身も心も差し出しても良いと思っている。

だからこそ……好きになればなるほど……気付いたことがある…

彼は私を見ているようで見ていない時がある……私を見ているようで…私を通して別の女性を見ている。

その目がいつもより一層愛情深い眼差しであることも……


「……マリー……」


先ほど私を見たカミュが言った名前……私の知らない名前……

私を通してカミュが心を通わす女………


「…渡さないわ……絶対に!!!」





その三日後……カミュはガノッサより休暇を与えられ黒き森へと向うのであった。 



修正もままならない状態だったりします。

次回もやや遅れますよ?

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