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魔眼の使徒  作者: vata
第二章 暗き森の魔女
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失われた記憶~姉妹~

取り合えず更新~

 

戦場から帰還したカミュは一躍英雄扱いだった…


王都の城門より凱旋パレードが行われ、カミュは出発した時とは違う真新しい鎧に身を包んでいた。

隣にはレイヴンが自身の愛馬に跨っており、その後ろには各部隊長が続いた。

英雄の噂はすでに伝わっており町は異常なまでの盛り上がりを見せていた。

文字通り『一騎当千』であったのだ……新たな英雄の誕生に国民は湧いていた。


「よくやった…カミュよ…そなたの働きは見事な物であった!」

「は…光栄に存じます」


 『魔剣王ヴァルヴィナス』の声にカミュはぎこちなくそう答えた。


「しかし戦が終わった訳ではない……今後もその方の活躍に期待する」

「はっ…我が君の為に尽力致します」


 満足げに頷くと魔剣王は側近を引き連れ奥の部屋に消えた………


 緊張がほぐれカミュは脱力する……魔剣王をこんな身近で見れるとは…しかも褒賞を貰えるとは思っても居なかったのだ。

しかし周囲の視線は『英雄』を讃えるそれではなかった。

仮にも『奴隷』の身分である者が英雄などと帰属の連中は認めたくはなかったのだ……あの戦場に居た者以外は。


「カミュよ…この度の戦、ご苦労であったな」

「ガノッサ様」


 背後から声をかけられカミュは姿勢を正した。


「そうかしこまらずとも良い……お前の働きには私も鼻が高い…」

「ありがたきお言葉……」


ガノッサの機嫌は良さそうだった

常に眉間にしわを寄せている……そんなイメージであったが本日の彼は清々しい表情していた。




「……では褒美を与えよう…そなたを奴隷の身分から解放し自由民とする」

「!?」

「わが娘 ファルミラの専属騎士とする」


主であるガノッサの言葉は衝撃的であった。

専属騎士……それは国家の要人や貴族の令嬢などの個人を対象とする要人警護の役職でありこの上ない名誉であった……この宣言を聞いた周囲の者達にも衝撃が走った

過去の歴史を見ても奴隷であった者がこの役職に着任した事は皆無である。


「しかし私はマトリーシェ様の…」

「…暗き森の魔女はレイヴンに任せるがいい……ファルミラ…こちらに」

「はいお父様…」


 ガノッサの声に反応し1人の女性が姿を見せる……淡い銀髪に純白のドレスが彼女が無垢な存在で在る事を証明していた。

その姿を見てカミュは驚きを隠せなかった……

髪の色が違えどその声…その瞳…マトリーシェではないのかと思えるほど似ていたのだ。

マトリーシェが躍動感溢れる太陽の様な存在であるとすれば

ファルミラは静寂の夜を照らす月の様な存在……と言った所であろうか。


「カミュ様……世間知らずな未熟者ですが…よろしくお願いいたします」

「…いやしかし私は……」

「このまま結婚しろと言ってる訳では無い……戦時中の間だけでもこの愛しい我が娘を守ってくれないだろうか?」


 純粋なファルミラの言葉にカミュは動揺する……初めて会う存在であったが、主であるガノッサの溺愛振りは同じ屋敷の者達から聞き及んでいた。


「私に頭を下げるなんて……お止め下さいガノッサ様… わかりましたそれでは戦争が終わるまで私がお嬢様をお護り致します」








「……なんでカミュじゃなくてあんたが来るのよ……」


マトリーシェは不機嫌さを隠そうともせずに目の前のレイヴンを睨みつけた。


「さきほど申し上げたようにカミュはこの国の英雄とも言える存在……あなた様の協力によってね……奴隷の身分よりも解放されました……あぁそれと

私もあの戦場にいたのであなたに助けられたようなものですね……ありがとうございます」

「別にあんたの為にやったわけじゃないし……」


最早使い古されたどこぞのツンデレのセリフの様ではあるが、デレの部分は皆無であった。


「ああそうそう…カミュからこれを渡すように頼まれていました」


そう言って一枚の封書を取り出す…


「それを最初に出しなさいよ!」


マトリーシェはそれを風の様に取り上げると部屋の隅に行きこそこそと読み始めた。

時折『ぐふふ』とか『ぬふふ』など気持ちの悪い声がしていたがレイヴンは気にしたら負けだと言い聞かせ全力でスルーした。


 手紙には指輪の力で生きて帰れた事……彼女に対する感謝の気持ち、彼女への想いがしたためられていた。

多くの命が救われ、同時に大くの命が失われた事に対しての葛藤が書かれていた……彼らしい……マトリーシェはそう感じた。

手紙の最後にはまだ戦争が続く事……彼女のもとに早く帰るため力を貸して欲しい……そう締めくくられていた。


 手紙を読み終えたマトリーシェは目を閉じて彼の無事を喜んだ……同時に彼の想いが心の中に染み込んで行く様な感覚に陶酔していた。


「……いいわ…力を貸してあげる…何をすればいいの?」

「貴女の力で強力な軍隊を作って欲しいのです…あの指輪の様な存在を……」

「わかったわ……時間を頂戴……それと…この手紙の返事を書くからカミュに渡して」

「わかりました……」

 

 暫くの間マトリーシェが手紙を書く間室内に視線を送る……


(…かなり高度な錬金を行っているな…)


 一見不気味な機材が並ぶ室内を見てレイヴンはそう判断した……







「ではまた一月後に……」


手紙を受けとると挨拶もほどほどにレイヴンは小屋を出ると愛馬に跨ると颯爽と駆け出した。


「……愚かな娘だ」


 手紙の最後の文章……『君の力を貸して欲しい』

それはレイヴンの付け足した文章であった…全てはレイヴンの策略であったのだ。


「カミュは戦が終わるまで専属騎士のまま………その為ににマリーは強力な戦力を作り続ける……しかしその力は新たな争いを呼び戦争は永遠に終わらない!


「哀れな娘マトリーシェ……愛する男を実の妹に奪われようとしている事も知らずに…!」


その手に握られた彼への手紙……それは無残にも握りつぶされるのだった。


やがて小高い丘の上にたどり着いた。

この暗き森が一望できる場所だ。

レイヴンの視線の先には広大な森が広がりその先に荒れ果てた荒野が広がる……かつて大小数十の国々のあった西方都市国家郡跡だ


その先には微かに蠢く様な暗黒が見える。

禁断の地、暗黒領域である。

伝承では古代の都パンデモニウムがあったと言われているがそれを知るものは居ない。

その王宮から闇が吹き出しており古の都を闇で覆い尽くしているのだと言う……

その境界には深い亀裂が刻まれており向こうからの強力な魔物の侵入を拒んでいる


懐かしいものを見る様な視線を伏せると、再びレイヴンは森の中へと消えてゆくのだった。










「カミュそれでどうなったの?」

「それで酔ったそいつらは3人とも後の川に転げるように落ちていったんです」

「まぁ!3人とも!うふふふ」


今カミュはファルミラの部屋で過去の何気ない昔話を聞かせていた……ファルミラはそれを初めて聞く物語の様に瞳を輝かせて聞いていた。

 

『素直で良い子だ……』


 それがカミュの彼女の……ファルミラに対する印象だった。

良家のお嬢様として育てられたのであろうその仕草一つ一つだ可憐であり完璧だった。

だからこそ外の世界に憧れるのだろう……その彼の思考も突然のノックで打ち切られた。


「失礼いたしますお嬢様…先生がお見えです」


 お付きのメイド長がやってきた ファルミラはこれから勉学の時間であった……彼女は一日の多くを作法や勉学の為に費やしている。

貴族の娘に求められる知識と教養……その期待に応えるべく自分を殺して努力をしているのだろう……

だから彼女にとってカミュとの何気ない時間は貴重であり大切なものであった。


「もうそんな時間なのですか……カミュ…もっと貴方と話していたかったのに……勉強なんてこの先役立つのか分からないのに……無駄な時間を過ごしているように思えるもの」

「お嬢様なんて事を!貴族の令嬢たるもの知識と教養を身につけないでどうするのですか?まだまだ沢山学ぶ事が有るのですよ?何時勉強されるのですか?今でしょ?!」


メイド長が熱く語り始めた……悪い人ではないのだがファルミラの事となると周りが見えなくなるタイプである。


「お嬢様…そんな事言わずに……勉強が終わった後にまたお話をしましょう」

「本当ですか?約束ですよ?……また話しを聞かせてくれますか?」

「……解りましたお嬢様……それでは私は外で待っています」


 彼の応えに満足したファルミラがメイド長と部屋を移動する……カミュも付き従い部屋の中にその姿を見送ると扉の前に直立不動の姿勢をとった。

思わず溜息が零れる……自分は何をしているのだ……と

アレから一月が経つが彼女からの返事は無い……レイヴンによれば何か研究が忙しいのだとか……

確かにここの警備は完璧で自分の出番などこの先永遠に無いだろう……お嬢様の話し相手になっていればいいのだ……楽な仕事であった……

だからこそ彼は苦しんでいるのだ……


(ファルミラとマトリーシェを重ねて見ているなんて!!)


彼女に会えない寂しさをファルミラをその代わりにするなんて……

どちらの彼女に対しても失礼な事であった……


「……俺って……最低だな……」


 ただそう言って項垂れる毎日を過ごすのみであった。



次回も更新は遅めです

現在の失われた記憶シリーズを少々加筆したいと思ってます。





思ってるだけで終わる可能性もありますが……汗

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