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魔眼の使徒  作者: vata
第二章 暗き森の魔女
100/241

失われた記憶〜英雄〜

お待たせしました。

更新遅くてすいません。

驚きを日常に………英雄……

戦乱は収まるどころか一層激しさを増し、戦火は各地に拡がって行った…いまや魔界の全ての王達が挙兵するまでの事態になりつつあった。

マトリーシェの不安は的中し、遂にカミュにも出兵命令が出されたのだった。


「…マリー…」

「………やだ…」


旅立ちの支度を整えたカミュの前には泣き腫らした目のマトリーシェが唇を噛み締め立ち尽くしていた。

奴隷であるカミュには拒否権は無い。

マトリーシェは何とかカミュが戦場に行くまでに彼を解放しようと薬を作り続けた……戦争需要で薬の価格は釣り上がり、80万レギオンを稼いでいた……しかし間に合わなかった。

皮肉にも彼女の作る薬は傷付いた兵士を癒し、再び戦地に送り返す……戦いは激しさを増すばかりだった。


「……マリー」

「…行っちゃやだ…」


思えば二人で薬を作る傍、色々な実験を行っていた……道具に魔法を付与したり、新しい魔法を開発したり……思えば毎日が楽しくて仕方がなかった。

もうすぐミネヴァとベオの鱗から作り上げた卵が孵化する寸前であった。



「私は必ず帰ってきます……」


この家にカミュが住み始めて半年以上が経っていたが、相変わらず二人の仲は進展していなかった。

それでもカミュは勇気を振り絞り、自らの想いを彼女に伝えた。


「マリー……私にとってあなたは特別な女性です…私のような身分の者が無礼を承知で言わせて下さい…貴女はとてもとても素敵な女性です…

私は戦いを乗り越えて…必ず貴女のもとに帰ってきます」


俯く彼女をやさしく抱き締めてそう囁いた、……マトリーシェは歓喜に身を震わせた。

自らが持つ彼への想いと同じく彼も彼女に特別な想いを抱いていたのだ。


「カミュ…私も…私もあなたの事…」


 その言葉を最後までいう事は出来なかった…気がつけば彼の唇が彼女の唇を塞いでいた。

戸惑うその舌先はやがて互いを求め合い、二人の胸中に燃える情愛の炎は激しく互いを求め、貪った。

どれだけの時間、そうしていただろうか……やがてどちらとも無く二人の体は離れると再び強く抱き合った。


「マリー……私は必ず帰ってきます」

「……待ってる」





「待って」


 出掛けのカミュに対しマトリーシェは再び声をかけると彼の左手を両手に包み目を閉じた……その手に光が集まり一つの魔法が発現する。


創造魔法クリエイトマジック【守護の指輪】』


光が治まると彼の左手の薬指には赤く輝く指輪が嵌っていた……マトリーシェに創造されたものだ。


「…マリー……これは…」

「…お守りよ…私は貴方と一緒には行けないけど…この指輪が私の代わりに貴方を必ず守るわ」

「…ありがとう…君だと思って大事にするよ」


 小高い丘から彼を見送った……馬に乗った彼は森を抜けやがて街道に出るだろう……

その先には嵐の到来を予感させる様な雨雲が立ち込めていた。







 激しさを増す戦いの中、彼のいた部隊は壊滅寸前であった。

敵陣の右側より奇襲するはずだった彼の部隊は敵に完全に見抜かれており、逆に奇襲を受けてしまった。

更に敵の本体の進軍は止まる事なく、このままでは自分の本陣も危ない


何故かこの作戦が読まれている…


 王都に帰還したカミュはレイヴン率いる部隊に編成され国境付近の戦場に出陣した。

既に戦闘は行われており我が軍は劣勢であった。

 レイヴンは部隊を2つに分け自らが指揮を執る部隊を本陣の戦線に向わせカミュの属する副官の部隊を起死回生の隠密部隊として敵陣の右の斜面より奇襲する筈だった。

既に部隊は混乱し乱戦の中に突入していた。

指揮官である副官は早々に敵兵により討ち取られ、指揮系統は壊滅し敗走状態に陥った。

少しでも多くの仲間を逃がす為カミュと数名の兵士は殿しんがりに志願し撤退しながらの戦闘となった。


迫り来る敵兵を前に濃厚な死が頭をよぎった……

風を切り飛来する矢がカミュのほほを掠め、鈍い痛みを残した…

怒声を上げる兵士の振り下ろした剣が彼の肩口を切りつけた……相手は首に一撃を貰い絶命していたが………

その衝撃にカミュは体制を崩しその場に膝をついてしまった……

目の前には剣を振り上げる敵兵の姿があった。


「貰った!」


 その剣がスローモーションの様に振り下ろされた……その刀身には跪く自らの姿が映っていた……

泥と血に塗れ、その目は『死』を覚悟していた。


『マリー……もう一度…貴女に会いたかった……』


 目を閉じると彼女のあの眩しいほどの笑顔が思い出された………

やがてその剣が振り下ろされた時…この命も終わりを迎える……


『いやだ…嫌だ!嫌だ!…私はもう一度マリーに!!』

【カミュ】


不意にマトリーシェの声が聞こえたような気がした。


【カミュ…私のカミュ…大丈夫…大丈夫…私が貴方を助けてあげる】








 大きな歓声が聞こえる… 

…ここは何処だろう……酷く記憶が混乱して上手く思い出せない…

…ああ…マトリーシェは何処だろう?…さっきまで僕を抱きしめていてくれたのに……

…歓声はまだ聞こえている。


ああ……早く起きないと……一緒に水を汲みに行かないと…

…マリーが待ってる………

何だろう……体のあちこちが痛いな……


でも不思議な浮遊感に包まれておりその痛みもやがて感じなくなった。

上手く感覚が掴めないが立ち上がった……

歓声は一際大きくなった。

なんだ…何が起こってるんだ…


(カミュ……貴方はなにも心配しなくて良いの…さぁ…眠りなさい)


あぁ…マリー………わかったよ…おやすみ……







 気が付くと見知らぬ天井だった……いや…見覚えがある…砦の部屋だ…しかしそこは彼のいままで使っていた相部屋ではなく、一般の騎士の使用する個室の様だった。

ゆっくりと体を起し周囲を確かめる……一般的な調度品が置かれここが奴隷の部屋でない事を確認する。

何故自分がこんな所に居るのか分からず困惑しているとノックの後レイヴンが姿を見せた…


「レイヴン様…あの…私は…」

「いやそのままで良い…今は体を休めるのだ…」


あわててベットから出ようとするカミュをレイヴンは押し留めた……


「あの…私は一体…」

「…覚えていないのか?」

「…確か…作戦で敵陣の右側方から………!?」


 まどろんでいた意識がはっきりと覚醒を始めた……

動悸が早まっていくのを感じた……

蘇る戦場の怒声…剣と剣の火花が煌きあの血の匂いが思い出された。











「貰った!」


 その剣がスローモーションの様に振り下ろされた……その刀身には跪く自らの姿が映っていた……

泥と血に塗れ、その目は『死』を覚悟していた。


『マリー……もう一度…貴女に会いたかった……』


 目を閉じると彼女のあの眩しいほどの笑顔が思い出された………

やがてその剣が振り下ろされた時…この命も終わりを迎える……


『いやだ…嫌だ!嫌だ!…私はもう一度マリーに!!』

【カミュ】


不意にマトリーシェの声が聞こえたような気がした。


【カミュ…私のカミュ…大丈夫…大丈夫…私が貴方を護ってあげる】


その瞬間左手の指にはめられた指輪が輝きその手が黒い手甲に覆われた……次の瞬間には振り下ろされた剣を掴み取っていた。


「んなっ!?」


 相手は驚愕の声を上げた……いや…自分も上げていたかもしれない。

手甲から肩に…そして胸に…やがては全身を黒い鎧が身を包んでいた………周囲の魔素を吸収し外殻を構築してゆく………それは恐ろしいほどの硬度を誇っていた。

ゆっくりと黒騎士と化したカミュが起き上がる……いや実際にはカミュは何もしていない……鎧の中で奇妙な浮遊感に包まれていた。

そこで彼はマトリーシェの声を聞いた。


【カミュ…あぁ…私のカミュ…可哀想に……痛かったでしょう?傷もいますぐ治してあげる……そして貴方をこんな目に遭わせた愚かな連中に裁きを与えてあげる】


 黒騎士の眼が怪しく光り、この世の者とは思えない雄叫びをあげた……その手に握られた剣は粉々に握りつぶされ腰から抜き放たれた黒い長剣が周囲を一閃した。


「…あ…?…」


 眼前にいた兵士はその体が両断され周囲の敵兵も同様に恐るべき剣圧により体の一部を失っていた。

突然現われた謎の黒騎士に周囲の兵は状況が解らなかった……いや…解る筈もなかった。


「あ…新手か!?逃がすな!殺ってしまえ!」


 兵士長の言葉に数人の兵士が殺気立って殺到するが黒騎士の一閃で肉塊に変えられてしまう。


「この野郎!よくも!!」


背後から屈強な男が戦斧をその背中に叩き込んだ……が傷一つついてはいなかった。

腕で薙ぎ払うと男の頭は簡単に胴体から切り離された……周囲の兵士に恐怖の色が浮かぶ……

男の落とした戦斧を拾い上げ兵士長に向かい投げつけた。

それなりの距離があったものの、斧は兵士長の体と周囲の兵士を巻き込み大木に突き刺さり木を倒壊させた。


それを見た敵兵士達は悲鳴を上げ逃げ惑う……しかし黒騎士は非情な一言を告げた。


【逃がすものか……皆殺しだ】




『魔皇帝ベルゼーヴ』の配下である魔将軍ヒュゴラスは鬼族の戦士である。

青い髪に青い肌…虎柄の服こそ着用してはいないが一言で言えば『青鬼』である。

戦いこそが『人生』を地で行くような人物であった。

だからこそ今回何者かによってもたらされた敵の奇襲についての情報が腹立たしかった。

正面からぶつかる事しか興味ない彼にとっては幾ら敵とは言えその様な姑息な手を使うことに怒りを覚え、さらにそれを敵に漏らすような卑劣なやり方に憤慨した。

しかし此処は戦場……自らにも主君が居る以上はたとえ卑怯でも勝利を持ち帰らなければならなかった。

奇襲を待ちうけ、予定通りに進軍した……最早この戦場の勝利は時間の問題であった。


「…ほ…報告します!」

「おう…なんだ」

「…右舷より敵襲…戦線が乱戦となり維持できません!」

「……あ?右だと?!そこには伏兵を配置いただろうが!情報の3倍の兵士を配置したんだぞ?情報が嘘だったのか?」


 予想外の報告に語気が荒くなり報告に来た兵士が怯えるのが解った……


「いえ…情報通りの敵兵数でした……その…殲滅しましたが生き残りが……」

「…戦線崩壊するほど逃したのか?馬鹿共がっ!!」

「…そ…それが…敵は黒騎士…単騎で戦線の中央突破しております!」

「……は?」


ヒュゴラスは天蓋の外へと向かった………そこで信じられない物を見た。

右側面から確かに戦線が崩壊していた。その中心に居るのは全身が黒尽くめの黒騎士で頭部の兜の目だけが赤く輝いていた。

あの騎士の働きで相手の兵士が息を吹き返し戦場は拮抗状態に突入していた。

ヒュゴラスは震えた……眼前の強者に対して畏怖の感情を持った。


「……この俺が…恐怖で震えている!!」


同時に喜びの感情が溢れてきた…この様な感情は何時以来だろうか?


(まだこの魔界にこの様な者が居たとは!!)


 ヒュゴラスは天蓋より自身の大剣を持ち出すと雄叫びを上げてその存在を誇示した。

遥か戦線の先に切り込んでくる黒騎士がこちらに気付くのを見つけると雄叫びを挙げ自らも戦場に駆け出した。

二人の剣が交差し火花を散らした。


「我が名は魔皇帝直属第三騎士団団長!ヒュゴラス!貴様なかなかの手練と見た!」

『………』


 ヒュゴラスの口上に黒騎士は答えない……しかし沈黙がその強さを認めていた!

その巨大な剣を振り上げると黒騎士目掛けて振り下ろした………黒騎士は直撃を受けてそのまま地面に倒れこむ。


「…え?…嘘だろ?普通かわすとか……?!…むっ…俺を試しているの…か?」


 ヒュゴラスは勝手にそう思い黒騎士を評価するがそれは大きな間違いであった。

この黒騎士はマトリーシェがカミュを守る為だけに創り出した存在であり胴体部分は魔界においても最強の硬度を誇っていた……ただそれだけである。

もちろんこの中は周囲と遮断されておりカミュが安らかに寝息を立てていた。

自律行動型ではあるが基本となる『暗黒騎士(ダークナイト)』であればそれなりの戦闘も可能だが、

今はマトリーシェによる遠隔操作状態であった為、戦闘力は皆無であった。

勿論彼女にも戦闘スキルがある筈が無い……




『…………い……痛いなああああああー!!!!ちょっとあんた!何すんのよ!』


 黒騎士が叫び起き上がった。


「え…女?だと?」

『信じられない!!いきなり切りつけるとか………馬鹿じゃないの?!』


今はマトリーシェが操作している状態だが、ダメージは皆無である。

それよりもこんな凶悪な存在から可愛らしい女性の声がすれば誰だって驚くだろう。


『だから反対だったのよ!!いいわ!さっさと片付けて私の元に帰らすんだからっ!!』


周囲を敵兵に取り囲まれた中、黒騎士は剣を地面に突き立てると呪文を詠唱した。

瞬時にヒュゴラスは危険を察知した。


「お前たち!!今すぐこいつを殺せぇぇぇぇぇ!!」


鬼気迫る表情が周囲の兵士をどよめかせた……過去、ヒュゴラスのこの様な表情は見た事も聞いた事も無かったからだ。


暗黒ダークネス聖櫃アーク


 黒騎士が地面に両手を着くとそのまま引き上げた…そこには黒い棺が二つ地中より引き出されていた。

ゆっくりと蓋が外れ地面に倒れた……中からは『闇』が溢れ出ていた。


『……さよなら』


 その声を合図に闇が黒い稲妻の様に四方に散開し敵兵士の体を次々と貫いてゆく。

周囲は悲鳴と断末の叫びが溢れ一方的な虐殺の幕開けであった。


「こ…これは…闇の精霊『シェイド』?!」

『あら…良く知っているわね』

「…ば…馬鹿な……これではまるで…魔王様ではないか?!」


 ヒュゴラスは戦慄した。

魔界において闇の精霊は特別な存在である……魔界を創りし創世の魔王の僕…それが闇の精霊達だ。

今では四魔王しか使役できないと言われている存在である……

だから目の前でこの精霊を使役するこの黒騎士の存在が信じられないのだ。

闇の精霊が黒い渦となり戦場を駆け巡り一つの大きな奔流となり聖櫃の中に流れ込んだ。

ゆっくりと蓋が閉じ、周囲には静寂が訪れた……彼の周囲には動くものは何一つ見当たらなかった。


「……き…貴様は…一体……」

『へぇ……あの中で生きてるなんて…凄いわね…でもさよなら』


 黒騎士の振り上げた右手に握られた大剣が瀕死のヒュゴラスに振り下ろされ、真の静寂が訪れた。

事の成り行きを見守っていた見方の部隊すら動く事が出来なかった……それ程に圧倒的かつ一方的な虐殺であったのだった。

カミュの体を覆っていた黒い鎧が黒い光の粒子となって霧散した。

カミュはそのまま血だまりの中に倒れこむ…………








 カミュは頭を抱えた。


(ああ……!マリー!いくら私を守る為とはいえ君はなんて恐ろしい事を……!)


 多くの命が失われた……自分の意識が無かったとはいえこの手がその命を奪ったのだ。


「……全く…マトリーシェ様は素晴らしいですな」

「?!」


 レイヴンの言葉にカミュは耳を疑った。


「…素晴らしい?…多くの命が失われたのですよ?!」

「…勿論、それは悲しい事ですが…これは戦争なのですよ?…カミュ…彼女だって貴方の命を守る為に行った事ですよ…」

「………それは……わかってます…でも……」

「まぁ…今は結論を急ぐのは辞めましょう……皆、『英雄』の事を心配していますよ」

「…英雄?」


 レイヴンが窓際まで歩きカーテンを引き開けた。

眩しい日差しが差し込みカミュは目を背ける………目に飛び込んだのは庭を埋め尽くす兵士達の姿だった。


「さあ…皆『英雄』の姿を望んでいるのですよ…」


 レイヴンがカミュを窓際へと導いた。

兵士の一人がカミュに気付き声を上げた。


「英雄だ!英雄カミュだ!」


 その声は次第に広がり大きな歓声となる。


「…英雄?…この私が?」

「そうですよ…カミュ…この戦場での戦果は貴方のものです……過去誰も出来なかった事を……あの砦を15000の敵兵の命と一緒に陥落させたのですよ……間違いなくあなたは『英雄』だ!」

「…英雄…違う…私は英雄などでは……」


 鳴り止まない歓声の中、カミュは今まで感じた事の無い不安と戸惑いを隠す事が出来ないでいた。

そんなカミュを見るレイヴンは不敵な笑みを浮かべるのだった。




 




ちなみ私の携帯キャリアは白犬です。


一応、記念すべき100話目です。

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