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魔眼の使徒  作者: vata
第一章 始まりの詩
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ナミダノトキ

「さて……帰ろう」


 ついつい物思いにふけってしまい 気がつけばこんな時間……ちなみにイリュは急用が入り慌てて帰っていった。

代わりに律子に頼まれて明日の授業の資料の準備をしていたのだが………流石は萌え田崎……イリュの言っていた意味を理解出来た気がした。

まぁこの辺りは後日にでも―



帰り支度をしてから教室を出た。電車の気分ではなかったので一人歩いて下校した。

ふと何気に振り返ると紫音はその光景に息を呑んだ。 夕

………暮れに校舎が赤く染まっていた。

それは紫音の記憶にある赤い校舎がかぶった。


「………出来損ない……か……」


自嘲的に呟いた。

紫音が小学校時代に友達に言われた言葉だった。


  …………………………


 その日は学校の発表会の準備だった。

クラスを飾り付け 全員で劇を披露するはずだった。

……仲良しのあの娘と二人で最後の飾りつけをしていた。

彼女は憧れの主役で手作りのドレスで舞台で舞うはずだった。

(昨日魔眼の人が火をつけるのをみたの…凄かったわ)

友達が興奮したように言った。

紫音は思わず身構えた……しかし彼女は初めて見た魔法に憧れと驚きの表情で語った。

(彼女は…私が魔眼だとわかったら皆の様に離れてしまうのだろうか?)

そんな考えが浮かんだ。

だって彼女は…魔眼を…魔法を嫌っていないもの。

もしかしたら私の事も……本当の自分を理解してくれる本当の友達……(真友)いつしか紫音はそんな考えを持つようになっていた。

(……ちゃん…あのね…これは絶対秘密だよ!実は私…)

幼い心は重大な判断を軽く見てしまう 。

言ってはいけないと母と約束したにもかかわらず……

(ホントに?!紫音も火を出せるの?)

(…えっ?……あんまり上手くは出来ないけど……)

せがむ友人に気圧されて「ライト」の呪文に挑戦 ……成功 手のひらに小さな明かりが蛍の様に灯った。

(うわあ凄い!みんなー!紫音が凄いんだよ!)

突然 その娘がクラスに向かって叫んだ。

何事かとみんなが集まってくる。

(えっ?!……何で?秘密だよって言ったじゃない!)

(だって…面白いじゃない)

………オモシロイ?ナニガ?……


幼い心は時として残酷な結果を招く

―その純粋さ故に

―その幼稚さ故に

―他者の痛みを知らぬが故に

―他人の気持ちをまだ理解出来ないが故に

幼い希望を無惨にも踏みにじってしまう。

紫音の周り殺到する子供達 自身が好奇の目に晒される恐怖 紫音は耳を塞ぎしゃがみこんだ。

(早く魔法を見せてよ)

(わっ!こいつ目の色が変だぞ?!)


彼等の言葉が紫音の心を追い立てる。


(やめてーーーー!!)


 紫音の叫びと共に教室のあちこちに炎が燃え上がった。

蟻の子を散らす様に子供達は悲鳴を上げて逃げ惑った。


(紫音!やめて!紫音!私のドレスが!)

 

彼女の叫びに紫音ははっとした。騒ぎを聞いて駆けつけた教師によって生徒は外に連れ出されていた。

私の隣では相変わらず彼女が喚いていた。

止めてあげたいけど…こうなると無理なんだ……彼女が着る筈だったドレスは目の前で炎に包まれ灰になっていった。


(ごめんなさい……止められない……止められないの!!)

 

この時はまだ、紫音は魔眼の力をコントロール出来ないでいた。

内包する魔力が大き過ぎるのかそれとも幼い子供だったからか…結果は感情に左右されやすかった。


(何とかしなさいよ!……この…出来損ない!)

 

あぁ……そうか…私は出来損ないだったんだ…

その時の彼女の目を私は生涯忘れないだろう。

私を憎んでいた。

私を非難していた。

私を呪っていた。

私の存在を否定していた。


私はその場から逃げ出した。教室を飛び出し階段を駆け下りた。

怖かった…自分の力が。後悔した…自分の愚かさを。

信じたかった…友達だったあの娘を。

振り返ると夕陽に赤く映えた校舎が紫音を威圧した―まるで彼女を責める様に。


そこから先は余り覚えていない。会いに来た先生にも会わず部屋に閉じ込もっていた。

幸い怪我人もなく教室の一部と道具が燃えただけで発表会も無事に終わった―先生はそう言っていたらしい。

両親は怒る事無く私の話を聞いてくれた……そして私はまた転校した。




思考を一区切りすると顔を上げた。気がつけば通学路の近くの庭園にあるベンチに座っていた。

既に日は落ち辺りは薄暗くなっていた。


あの時は涙ひとつこぼさなかった。

ただ怖かった……それだけだった。

しかし今は違う……


「……うっ……ううっ……」


押し寄せる感情の波に堪えられなくなり嗚咽を漏らした。


(出来損ない)


鋭い言葉の牙が時間をかけて今やっと紫音の心に突き刺さった。


紫音はその痛みをどうする事も出来ず、ただ体を抱えて涙するしかなかった。

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