きみと私の境界線
「蚕ってさ、飛べないらしいよ。」
なんとなく口にしただけだった。
「どうしたの、急に。美玲。」
――だから、逃げられないんだってさ。
一瞬変な間が空いた。
「………昨日テレビでやっててさ、」
とりあえず、それっぽい理由をつけてみる。
「ふーん?」
望が怪訝そうに眉をひそめる。
午前の授業が終わり、昼休みの喧騒が教室を満たしていた。
弁当を広げる音、椅子を引く音、笑い声。
そのどれもが遠く聞こえた。
気づけばいつもの顔ぶれ同士で固まって、そこかしこにちいさな輪ができている。
そのあいだには、踏み越えちゃいけない、見えない線がある気がした。
私は、いつも通り琴葉と望と一緒に窓際で机を寄せて、弁当をつつく。
望がふいっと琴葉の方を向く。
ずいっと顔を近づけて、スマホを見せた。
「琴葉、この人めっちゃかっこよくない?」
スマホには、どこかで見たことのある男性アイドルの動画。
横からじゃ、よく見えない。
ああ――、そっか。
望が琴葉に話しかける顔は、どこまでも無邪気で。
私は、望の目に映ってるのかな。
その光景を見ると、息が苦しくなった。
スマホの画面よりも、ちょっとだけでもいいから、こっちを見て欲しかった。
私は、平気そうに言う。
「へー……それ、なんて人?」
二人の輪に入ろうとする。
多少無遠慮でも、構わず。
――だけど。
今の、やっぱよくないかな。
2人、楽しそうに話してたし。
私が入らない方が、楽しかったりするのかな。
それは、優しい繭みたいだった。
私も、望達のこと見えてないのかな。
「……〇〇グループの水崎くん。
知らない?」
望の目線が今度は弁当に落ちた。
数トーン下がった声色が、私を突き刺す。
目は、お弁当と琴葉を往復して、私には来なかった。
雫が落ちた水面のように心がじわじわと揺れた。
それでも……なんとか話さなきゃ。
私にとっては異国語じみた名前を、処理できないまま次の言葉を探す。
考える程目の奥がぼやけてきて、思考がまとまらないまま霧散する。
もう……帰っちゃう?
私が雑巾みたいに絞り出したものは、拙く幼稚な願望だった。
「し……知らないや、望はさ……その人のどこが――」
「あ、そうそう!
〇〇ってさ、新曲出るらしいよ〜。」
どこが、好きなの。
……そう続けたかった。
琴葉の乱入によっていとも簡単に気圧されてしまう。
「あ〜……らしいね。
私、予告MV見たけど衣装がすごく良かった。」
「わかるぅ〜!
いつもはさ、タキシード衣装着てて王子様みたいだけど、今回のはザ・アイドルって感じで!
私リーダーの谷ヶ崎くんの衣装が一番すき!」
「いやそれな。
ビジュ良すぎてさ――」
ふっとため息が出た。
無言で箸を進め始める。
一気に飲み込むと、
やけに米の味がした。
初シリーズ物!
ここからバンバン出していくので
何卒よろしくお願いします!!




