ギターと共に眠る
いつも通り自転車を漕ぎ、いつも通りバスに乗る。窓際の席を見つける。そこに座る。スマホに有線のイヤホンを挿して音楽を聴く。小さな音量で。左胸ポケットにスマホをしまう。バックを膝の上に乗せる。そしてギターを床に置いて両足で支える。いつも通りの日常が始まる。
流行りの音楽なんて知らない。自分の好きな曲を聴く。だが、最初の3曲を聴いたら意識は飛んでいる。まどろみに向かってしまう。それ故に学校に到着するまでにしっかりと聴いた曲の数はたったの5曲。目覚めの音色はいつも紡がれた言葉の途中だ。だがこれはこれでいいと思う。どんな物語があったのかはもちろん知っている。好きな曲を集めたプレイリストだからだ。しかし、途中から聞こえてきた言葉から推測する物語はご都合よく自分中心の曲になっている。バスを降りる。リズムに乗る。この瞬間だけは主人公だと思う。刹那の主人公は部室に向かう。ギターを置いておくために。イヤホンを外し部室に近づいていくと流行りの曲が聴こえる…訳もなくマイナーなバンドのメロディーが鼓膜を震わせる。軽く挨拶をして教室へと向かう。タバコの煙が漂う先輩の横を通り過ぎながら。
空きコマにはギターの練習をする。窓からカップ麺の湯切りをする先輩を見ながら。部室は階段を降りた先にある。狭い場所であるため部室があるホールの玄関の椅子やテーブルがあるところで練習をしている。先輩が麺を啜る。私はギターを鳴らす。あり得て欲しくなかったセッションだ。気にせず練習をする。慣れてしまった。初日、練習に行った際には床におにぎりの包装とペットボトルが落ちていた。心の中で「あぁ…」と嘆いていた。その日から毎日ギターを弾く前に掃除をする。先輩いわく「掃除の人がやってくれるから大丈夫だよ」と。どこも大丈夫ではない。まずここは自宅ではない。ていうか自宅でもゴミを床に置きっぱなしはしないだろう。私の常識はこの"軽音楽部"に通用しない。先輩達は音楽をするために学校に来ているのだ。私は将来のために学校に来ているのだ。どういうことなのだ?たしかに大学を人生の夏休みという言葉を聞いたことがある。謳歌しすぎだ。どっからどう見ても。
帰りのバスの時間になりバスに乗る。席に座りとりあえず一人反省会。先輩達は悔しいが演奏が上手い。当然と言えば当然だがそんな人達と毎日練習していると自分の下手さに無性に腹が立ってくる。そんなこと考えたところで何も変わらないのは分かってはいるが反省会は終わらない。私は簡単には変わらなかった。変わるぞと思って入部した軽音学部では高校の頃と同じ感情が私の中に渦巻いていた。ドス黒く醜い嫉妬が。ギターを握りしめる。ギターの上で描いた妄想劇とギターの横で見る現実は大きく異なる。ため息をつく。まぶたを閉じる。ギターと共に眠る。明日の自分が今日の自分より上手く演奏出来ることを願って。




