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鍵穴の彼女

作者: 孤独の回廊

【閲覧注意】

本作は『狂愛』をテーマとしており、一部に生々しい描写や、倫理観に欠ける表現が含まれます。

苦手な方や、精神的に影響を受けやすい方は閲覧をお控えください。

俺には彼女がいる。


可愛い可愛い彼女がいる。


彼女は俺の顔を知らない。

俺も彼女の顔を知らない。


知っているのは瞳だけ……



――俺は1年前、運命の出会いを果たした。




           ◆



今日、俺の家の前に荷物があった。


またあいつか……


下の階に住んでいる友人がよく荷物のお届け先を俺の部屋にするのだ。


あいつは一回、置き配で盗まれたことがある。


だから、帰りが早い俺に持っておいてほしいらしい。


仕方がないから後で届けに行こう……

疲れてるから、早く寝たいんだけどな……



しばらくして、俺は下の階に降りて友人の部屋に行った。


「いつも悪いな、今回も助かったわ〜、ありがとう!」


「全然大丈夫、それじゃあ俺はもう行くわ……」


そうして部屋に戻ろうとしたとき、隣の部屋から不自然な物音がした。


このドアに何かが寄りかかったような……


気になった俺は悪いことだと思いつつ鍵穴からそっと覗いてみた……


「ッッッ!!うわっ!!」


俺は思わず後ずさった。


鍵穴越しに……目があったのだ……

俺の目の数センチ先に誰かの目が……


不気味に思いつつも、俺は好奇心を抑えることができなかった。


意を決してもう一度、鍵穴を覗いてみた……


「っ!!」


やっぱり、誰かと目が合っている……!!


ギョロッとした不気味な瞳がこちらを見つめている。


その瞳の主は一言も発することがない。


向こうからすれば、家の外から誰かが覗いている状態……


なのになぜ、ただずっと見つめているのだろう。


俺が最初に覗いたその瞬間にもう目が合っていた。

つまり、相手はずっと鍵穴から外を覗いていたということになるだろう。


一体、なにをしていたんだ……


このアパートは壁が薄い。

だから、通路での話し声はよく聞こえる。


もしかしたら、ずっと俺と友人の会話を聞いていたのかもしれない。



俺は一瞬、鍵穴から目を離して表札の名前を確認しようとしたが、表札は外されていた。


俺は、この部屋の住人を知らない。


俺はさらにもう一度鍵穴を覗くと、瞳の主は少し嬉しそうな目をした気がした。


わずかに息遣いが聞こえてくる。

女性の声だ。


俺は直接聞いてみることにした。


「なぜ、外を覗いていたんですか?」


……返答はない。


彼女はずっとこちらを覗いている。


時々、鍵穴の向こうから声が漏れ出るような音が聞こえる……



――まさか


俺は、この不気味な状況にも関わらず少しだけ興奮してしまっていた。


俺は、彼女のことが無性に気になってしまう。


異常な状況だが、今はただこの高揚感に身を任せていたい。


「ねぇ、君の名前は?」


そう聞いてみるが、やっぱり返答はない。


ただ彼女は少し笑った。

目を細めて笑った。


勘違いかもしれない。

だけど、もしかしたら……


「俺のこと……好き?」


すると、彼女は本当に愛おしそうな目をした。


鍵穴越しでもわかる。

彼女は今、喜んでいる。


彼女は、最初のギョロッとした目とは違う……

トロッとした目をしていた。


彼女の息遣いが聞こえる。


俺は思い切って聞いてみた。


「ねぇ、君……彼氏いる?」


……反応はない。


「いない?」


そう聞くと、彼女は嬉しそうに目を細めた。


俺は気付けば彼女の瞳に夢中になっていた。


「俺たち、付き合わない?」


彼女は喋らない。だけど、とても嬉しそうな目をする。


彼女が言葉を発することはない。


だけど……


きっと、俺たちは今……恋人になった。



           ◆



それから俺は毎日彼女に会いに行った。


毎日、欠かすことなく。


通路を人が通らない、夜中に……


俺が鍵穴を覗いた時にはいつも彼女がいた。

きっと待っててくれているのだ。


「お待たせ」


そう言うと彼女は嬉しそうに笑った。


彼女は、俺を必要としている。


だから、ただ会いに来ただけでこんなにも喜んでくれる。


彼女の瞳を見つめていると、勝手に表情が緩んでしまう。

俺は今、笑っている。


彼女も今、笑っている。


触れられなくても、俺たちは繋がっている。

直接繋がれなくても、俺たちは繋がっている。


今日も、俺たちはお互いの呼吸を感じながら扉越しに愛を確かめ合う。


扉で阻まれた静かな夜に、二人の鼓動が響き渡っていた……


吐息が重なり合うのを感じる……


あぁ……この扉の向こうに彼女がいる……

ただ、その事実が愛おしかった。


「今日も可愛いよ」


そんな、何気ない一言にも彼女は喜んでくれる。


あの日、告白をしてから……

彼女はいつも幸せそうな瞳をしている。


彼女には俺が必要だ。

彼女には俺がいないとダメなんだ。


そして俺にも、彼女が必要だ。

彼女がいないと、ダメなんだ……


今日も、明日も、この先ずっと……





――俺は彼女の恋人だ。

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