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アンドロイドL01i(仮題)  作者: Alan Ingres


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9/11

第9回

IEI Photonic Veil™ M3.1B(PV)

標準価格:9,800 GC/㎡

外光調整・視覚保護・広告投影を統合した光子制御ウィンドウパネル。

ーーーIEI公式サイト製品ページより


 ぼくが通された部屋は道沿いにあって、そちら側は全面フォトニック・ヴェール(PV)だった。10分ごとにCMが映されて視界が遮られるが、そのとき以外は道を走る車や、ぼくのいるIEIのメンテナンスサービスセンターの駐車場に入ってくる車がよく見えた。よく晴れた春の陽射しが、PVによって人間の網膜を損傷しない程度に弱められてテーブルの上に降り注いでいる。それを見ているとなんだか暖かく感じてくるけど、それが実際の現象なのか、PVによる演出的高価なのか、ぼくにはわからなかった。センターにはぼくの予想以上に多くの客が来た。ディアナのメンテナンスが終わるまでの1時間ほどの間に、ぼく以外の客が少なくとも13人はいた。

「まもなくメンテナンスは終了します」

 ぼくの席の真横のPVにメッセージが表示された。IEIはこのPVのおかげで、今でも生き残っているといってもいい。反アンドロイド運動が最盛期のころ、他のメーカーと同様にIEIも存亡の危機に立たされた。多くのメーカーがアンドロイド以外の製造にシフトしたり、アンドロイドの外観や制御AIを、より「非人間的」に変更したりして生き残ろうとしたが、IEIだけは規模を縮小しつつもアンドロイド開発を続けた。それが可能だったのはPVの売り上げがあったからだ。現在ではIEIの一般向けアンドロイドのシェアは89%、PVのシェアは96%ある。CEOのトミー・カルメンが中央アジアでもっとも裕福な男なのも当然の話だった。

(しかし…)

 ディアナ担当のアンドロイドがぼくの席に近づいてくるのを見ながら思った。

(PVは便利すぎる。それが問題なんだよ)

 担当のアンドロイドは、少しだけディアナに似た、プラチナブロンドにやや緑の混じった肌をしていた。背はぼくよりやや高く、最初に会ったとき、ぼくの頭には「ディアナの一番上の姉」というイメージが思い浮かんだ。セクソロイドのディアナと営業特化型アンドロイドとはモデルが違うのはわかってたけど、なんとなくそんな雰囲気を感じて、ぼくは彼女に親しみを感じていた。

「お待たせしました、アングルさん」

 ディアナの姉はにこやかに言いながら、ぼくの目の前の席に腰を下ろした。

「駆動系を含めたハードウェア関係に問題はありませんでした。顎と手首の部品がやや損耗が見られますが、まだ交換が必要なほどではないですね。」

「先日、ドックから出るときに少しふらついたように見えたんだけど」

 彼女は手元のファイルをぼくの前に置いた。

「セントラル・ジャイロ・システムは正常でした。起動直後でシステムが安定していなかったのかもしれません」

 ぼくは笑いながら、わざとらしく頭をかいた。

「ぼくは心配性なんでね。少し過保護過ぎるのかもしれないな」

 彼女はにっこりと微笑んでぼくを見た。アンドロイドは完璧な営業をスマイルを披露する機会を得られてうれしそうだった。

「わたくしどもの製品を大切にしていただいてありがとうございます」

 彼女はPVの方に顔を向けると、テーブルの操作パネルに手をかざした。PVにディアナのデータが映し出された。

「OS、SPUのファームウェア、セキュリティプログラムのアップデート、不要ファイルの削除、AEP(アンドロイドの感情プログラム)のデフラグ等、ソフトウェア関連のメンテナンスもすべて問題なく完了しました」

 ぼくは少しまじめになって、身を乗り出した。

「メンテ前にも言ったんだけど…」

「ときおり見られる不規則な発言や行動のことですね」

 アンドロイドは姉らしい思いやりを示すようにうなずいた。

「アングル様もご存じのようにAEPはとても複雑で、ときに典型的なカオス的結果を出力することがあります。それらはアンドロイドの言動として最終出力される前に行動制限セキュリティプログラムによって削除または修正されますが、まれにそのまま出力されてしまうこともあります」

 彼女は頭を少しかしげて、ぼくの顔を見た。

「あまり気になるようであれば、AEPを再調整することもできます。別途料金はかかりますが…」

「でも、AEPをいじるとディアナのパーソナリティに影響があるんじゃないか?」

「その可能性はあります。しかし、AEPの安定性はアンドロイドのセキュリティ上最優先…」

 そのとき、ディアナが別のアンドロイドに伴われてぼくの席の方にやってくるのが見えた。ぼくは立ち上がった。

「ありがとう。AEPの再調整の話は二度としないでくれ」

 ディアナ担当のアンドロイドは何も言わずに立ち上がり、ぼくとディアナをメンテナンスセンターの出入り口まで案内してくれた。


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