第4回
「つまり、おまえはただ隣りでぼんやり座ってるだけの用途でアンドロイドを買ったのか?しかも最新の?」
あきれたような眼でナーキーがぼくを見た。
「座ってるだけじゃないよ…」
ぼくはそれだけ言うと、後を続ける気が失せた。ぼくはもともと人と会話するのが苦手だ。ナーキーとは高校以来の友人だけど、それでも用がなければ直接会って話したいと思ったことはなかった。
「そりゃそうだ。セクソロイドはただのインテリアにするようなやつはいないだろうさ」
わざとらしくおおげさに笑ってから、ナーキーは手を上げた。背後に控えていたアンドロイドがぼくたちの座っているソファに近づいてきた。
「IEIのセクソロイドのスペックを知りたいんだ。モデル名は、えーと…」
「L01i」
「エル・ゼロ・ワン・アイだってさ」
アンドロイドが微動だにしなかったが、リビングの壁のディスプレイには瞬時にディアナのスペックが表示された。
「SPU…ICOURSE、GeeSpot、SEX、7020、36GB…なるほど、すごいな。よくこんなもの、買えたじゃないか」
ぼくは自分のコーヒーカップをのぞきこんだ。ナーキーは自他ともに認める優秀なビジネスマンで、ぼくはそうじゃない。ナーキーからすれば、セクソロイドなんて高価なおもちゃくらいの認識だろう。彼にはすで3人のパートナー(そのうちのひとりは男だけど)がいるし、精子トレードでもかなりもうけてるらしい。今、そばにいるアンドロイドもナーキーくらい稼いでる人間にしては、かなり安物の部類で一般家庭向けのものだった。一通りの家事ができるだけの、見た目も同じモデルならすべて同じの量産型だ。ぼくはコーヒーを飲み干して、アンドロイドを見た。
「コーヒーのおかわりをもらえるかな」
アンドロイドは微笑みながら、うなずいた。
「かしこまりました」
「おれのも」
ナーキーが自分のカップをアンドロイドの方に突き出した。アンドロイドは二つのコーヒーカップをトレーに乗せ、ナーキーに一礼すると、ぼくたちに背を向けた。しかし、一瞬動作を止めると、再びぼくたちの方を見て、にこやかに話しだした。
「現在、ナイル・オンラインでは最新のコーヒーメーカーがセール中です。くわしい情報…」
「いらん。さっさと行け」
アンドロイドは一礼して、ぼくたちに背をむけた。ナーキーはおもしろくないという顔でボクを見た。ぼくは笑いをこらえながら、
「ナイル製のアンドロイドか。初めて見たよ」
「ほんとか?そこら中にいるぞ」
「性能のわりにすごく安いんだろ。そのかわり定期的に宣伝が入る」
ナーキーが顔をしかめた。
「思ったよりうっとうしいよ。まあ、別にアンドロイドと会話を楽しみたいとは思わないがな」
ぼくはいつもの感覚が甦るのを感じた。ディアナに早く会いたい。あの笑顔を見ながら、今日会ったことを、どんな細かいことでも、全部話してあげたい。ビジネス以外には何の興味も知識もない人間や、定期的にほしくもない商品の宣伝を口走るアンドロイドなんかといっしょにいるのが、どんなにうんざりすることか、ディアナに教えてあげたい。リビングにおかわりのコーヒーをもってきたアンドロイドが入ってくるのを見ながら、ぼくはソファから立ち上がった。
「じゃあ、そろそろ行くよ」
ナーキーは手にしたタブレットから目を離さず、手を振ってこたえた。アンドロイドがトレーをもったまま、ぼくに話しかけた。
「コーヒーのおかわりをお持ちしました、お客様」
「すまないが、いらないよ。君にあげるよ」
「私はコーヒーを飲めません。そうしたオプションを備えたモデルにご興味があれば…」
ぼくはリビングを出て、SDを取り出すと、ディアナに「今から帰る」とメッセージを送った。2秒後に「♥」の返信が送られてきたのを確かめて、ぼくはタクシーをつかまえるためにターミナルに足を向けた。
同じ設定で、もっとダークなテーマのものも構想してます。
こっちがいつ終わるかわからないので、平行して書くかもしれない。




