第11回
パシックセンター
パシックセンターは、フォンジー地区にある超高層建築物。2212年12月31日に完成し、翌年1月1日に複合施設として開業した。フォンジー地区中央駅周辺で最大の建物で、高さは1268m、高層建築物としては、SAFARI(アフリカ中央連邦)に次ぐ世界第2位であり、単独の企業(オンライン通販グループ「パシック」)が所有する建物としては世界第1位である。
地下3階から地上10階までは商業施設「フォンジーサークル」、11階以上は200社以上の企業のオフィスが入り、最上階はパシックの本社オフィスが占めている。
ーーー『パシックセンター』 - Omnipedia(最終更新2218年09月17日、閲覧2046年10月16日)
部屋の入り口までぼくを案内してくれたアンドロイドは、ドアを開けると、脇へしりぞいた。
「どうぞ、アングル様」
「ありがとう」
ぼくが部屋に入ると、アンドロイドは廊下にとどまったまま、ゆっくりとドアを閉めた。予想通り、廊下側からカチリとドアのカギをかける音がしたので、ぼくはかすかに微笑んだ。
「ようこそ、アランくん」
トミー・カルメンはソファから立ち上がると、ロイヤルスイートの分厚いカーペットを踏みながら、ぼくに近づいてきた。わずかに右足を引きずるような歩き方が、ぼくの注意を惹いた。カルメンは若いころ、事故だか病気だかで右足首を損傷したが、人工関節による治療を拒否し、今でも歩行が困難だという噂を聞いたことがある。ほんとかどうかはわからない。トミー・カルメンに関する情報は99%が「真偽不明」だった。そもそも、この男がトミー本人だということすら、ぼくはまだ疑っていた。ディアナは78%以上の確率でトミー・カルメン本人がいると言っていたけど、今回ばかりは彼女の言葉を信じきれないでいた…
「きっとあなたをスカウトするつもりよ」
ディアナはぼくがスーツを着るのを手伝いながら、はげますように言った。
「まさか。パシックで働いてるエンジニアなんて、みんな博士号持ちばっかりだよ、きっと。ぼくなんか車の免許もないんだぜ」
「そんなの関係ないわ。アランのスキルは素晴らしいことは、私にだってわかるもの」
「ありがとう。それでも、トミー・カルメンが中途採用のために直々に面接するとは思えないな」
ディアナがだまって、ぼくの腕に腕を絡ませた。
「彼についてはたしかに信頼できるデータが多くないから、確度の高い推測は難しいけど」
彼女がリビングのPVの方を見ると、新しいウィンドウが表示されると、そこに彼女がたった今生成したトミー・カルメンのプロファイルが映し出された。
「彼はたしかに疑い深い人間よ。一度もパートナーをもったことがないし、自宅に自分以外の人間が入ることは絶対にない。せいぜい屋敷を取り巻く庭園内までしか、足を踏み入れた人はいない。これはかほぼ確実な情報ね」
「まあ、そんなような話は聞いたことあるよ」
「だから、特に重要な人物が関係する場合、必ず自分が直接会うことにしてるの。間に入る人間を信じられないから」
ぼくは笑って、ディアナを抱き寄せると、その髪にキスをした。
「きみはどうしてもぼくを特別な人間にしたてたいみたいだな」
ディアナは笑って、ぼくを見上げた。
「あなたは特別な人間よ」
「たしかに、きみにとって、ぼくは特別な人間だ。きみがぼくにとって特別なようにね」
ディアナは微笑みながら、首を振った。
「そう。たしかにそうだけど」
ぼくたちは腕を組んだまま、リビングを出て、玄関に向かった。
「わたしが言いたいのはそういうことじゃないの。たしかにあなたは特別な人間なの。あなたが世界に与える影響は、一般的な市民よりはるかに大きい…」
ぼくはディアナの言うことがよくわからなくなってきた。
「ぼくはただのフリーランスのエンジニアだよ。それもDICEとかPVとか、一般的に使われてるデバイス関連のね。きみはぼくのどこにそんな影響力があると思ってるんだ?」
玄関で慣れない革靴を履きながら、そう言ったが、ディアナの返事はなかった。ぼくが顔を上げると、ディアナがぼくを不思議そうに見ていた。
「そうね…それはわからないの。あなたのなにが『特別』なのか。つまり…」
ディアナが困ったような顔を見せたのは、そのときが初めてだった。
「私の知らない、あなたのデータがあるのよ。でも、その周辺情報から推測できるの。それがとても重要で、かつ…」
「かつ?」
「とても危険だってこと」
ぼくは笑って、首を振った。でも、言うべき言葉が何も思いつかなかったので、ディアナにキスをすると、そのまま家を出た。
話が動き始めましたけど、どうなるかな。ディアナちゃんのかわいいところをもっと書きたいし…




