第6話 討伐開始!
リック様が寝る前に僕ら食事班のところに来た。
「まだ幼い貴方達を巻き込むことを許して下さい。私たちが盾になってでもこちらには来させません!…それから明日の朝食は最後の食事になる者もいるので、ごちそうにして下さい」
アイナさんが泣いた。ロキさんが、辛そうにアイナさんの背中を撫でる。実は、アイナさんのお兄さんが斥候部隊にいて、今日ケガを負って帰って来たのだ。それなのに明日の討伐にも参加するからとアイナさんに先ほど遺書を渡したのだ。
僕はリック様に晩ごはんもごちそうにするから、夜ご飯を誰一人欠けること無く食事に来て下さいと、ぎこちない笑顔で言った。
リック様が笑って、僕を優しく抱きしめた。リック様はほんの僅かに震えていた。
僕はリック様に魔法を掛けた。
じいやから教わった【妄想魔法】。ホントは精神に干渉するから、滅多なことじゃ使っちゃいけないっていうんだけど、皆が死んじゃうなら一緒だよね?
大天幕に寝ている騎士様全員におやすみの挨拶のついでに掛けた。
明日、仕掛けはご覧じろう!
さて、僕ら3人の食事班は、明日、こっそり討伐に参加する為に寝ずにごちそうを作り、皆が出陣したのを見送り、魔法で気配を消して付かず離れず現地まで付いて行った。
斥候部隊の火薬を使った爆弾攻撃で、6メートルサイズの幼獣ゼロスが何十体と討伐できたがまだ半分以上と怒り狂った成獣体が元気に暴れている。
押されている辺境騎士団員達、拡声魔法を最大値にして出力した。
「こらよっせぇ、ハイハイ!」
5回目の前世で芸者してた頃のスキルを使ってじいやと作ったなんちゃって盆踊り唄を披露する。ちなみに三味線は手作りした3年物だ。
騎士団の皆が驚倒してこちらを2度見する。
「森の都のエメルシ~♬一度おいでよ皆で歌~い踊れば怖くない♬はあ、ヨイショ!
熱いお湯沸く泉をごちそうしてあげる~♬
あはん、皆でいいお風呂~♬さあさ、どんどんお入りよ~」
溶岩並みに沸いた泉に氷の幼獣ゼロスが順番に焦点が合わない目付きで入浴して天に召される。
「ああ、いいお湯だねぇ~♬アンタもどうだい大将♬いやさ、見てよこの玉の肌!うらやましいだろう♬一度入れば皆わかる~、ハイハイ!」
あと、成獣2体だけ。上手く精神魔法が効いてない。曲を変えるか。
三味線を早弾きして曲調が変わるとライン様が正気づいた。怒髪衝天で僕に向かって来る。そりゃそうだよね?自分の魔法と魔力使い放題されてるし。それをリック様が飛び蹴りして斥候部隊がライン様をロープで縛り上げる。おお、支持してくれるんだ!ラッキー。
お互いの気持ちのすれ違いを三味線の旋律に載せて唱えば、呆気ないほど同士討ちを始めメスがオスの首を食い千切り、そのレベリングボーナスで強くなった僕が、ゼロスの弱点の3番目の目をウインドショットで破壊する。
ゼロスのメスが倒れた。と同時に僕も倒れた。魔力が自分の中で荒れ狂っている。僕の魔力を何人かでドレインしている魔法使い部隊。
「大丈夫ですか?無茶させたね」
「リックさま、たいへんなことがある」
「何ですか?」
「ばんごはん、つくってない」
「全然大変じゃないから、寝なさい」
「リックさま、ラインさまにいっしょにあやまってください」
「私も利用された方ですが?」
「ごめんなさい」
リック様が僕をお姫様抱っこして魔境を進む。
ライン様が魔境の入り口でリック様の隣りに並んだ。
「何故、相談しない!」
「だって、せつめいしてしんじてくれましたか?」
「何にだってすがりたい気分だったんだよ!バカたれ!」
デコピンされて何だかホッとしたら、眠くなった。ライン様に嫌われたくなかったんだ。僕。
♢♢♢♢sideイスマール・エメルシー
「ゼロスを倒した?あれは、SS級災害指定魔獣だぞ!どうやって倒した!」
報告に来たラインとリックはアイコンタクトして報告を譲りあっている。
ヒマでは無いのでリックに報告させた。
「…あんまり現実離れしてるんですが、アスコット様が歌って倒しました」
「冗談は他で言え」
「アスコット様が私達に提案出来なかったように私達にもこうとしか言えません」
「バモア、アスコットを呼べ。歌ってほしいとおびき出せ!」
「アスコット様は魔法治療中です。あと何日かお待ち下さい、旦那様」
「朝食もちゃんと食べていたぞ?」
「魔力が急激に増えたので魔法を使わせながら治癒しているのです。いきなり爆散してもおかしくないくらい何でもうちょっと魔力が安定するまで、歌は控えさせて下さい」
何だか私だけわがままを言ってるみたいだ。
「わかった」
何となくすっきりしない。ユーマをいじめて紛らわすこととしよう。
♢♢♢♢sideライン・オーデル騎士団長
「全然、信じてなかったな!」
リックが困っている。辺境騎士団員には箝口令を敷いた。命の値段だと思えば安いものだ。
「ライン、いい店を見つけたんだ。これから飲みに行かないか?」
まだ陽は沈んでない。
「まあ、いいけど?それはお前の奢りか?」
「コットの奢りですよ。ゼロスの素材を売って今、大富豪なんですって!お酒も飲み放題だから、一度おいで、って」
「何処が魔力の治療中なんだよ!おい、騎士団食堂じゃねぇか!」
「ラインさま!リックさま!やっときたね!みんな、さそってるのにこないんだ」
「魔力暴走中じゃないのかよ!」
「ひるまでまきょうでかりしてたからすっきりしてるんです!きょうはハンバーガーとキーマカレーと、ロールキャベツとポトフです!なにからたべますか?」
「かれぇ、って言うと打ち上げで食べたやつか!それにする!」
リックは悩んでポトフにしたら、ぶっとい肉の塊をトロトロになるまで煮た野菜もゴロゴロ入ってる黄金色のスープだった!
キーマカレーは、肉を小さく潰したのを甘辛い味付けで炒め煮した物でがっかりしたが、量も少なかったのでポトフもお替わり出来た!
俺たちが酒を酌み交わしていると騎士団員達が集まって来てハンバーガーと酒をコットに注文する。俺たちの前には頼んで無いのに、串焼きが大盛りで置かれた。コカトリスの肉を使った串焼きはリックと二人で簡単に殲滅した。…うまかった!
楽器演奏を頼めば、気軽に引き受けて皆が酔いつぶれるまで、演奏してくれた。
途中から、イスマール様がユーマ様を連れて酒盛りに加わったがちゃんとユーマ様が抱き上げて屋敷に連れて行ったから、大丈夫だろう。
翌朝、騎士団食堂の床で目覚めた俺は騎士団員達を起こして風呂に入るように言った。
「コット!いないか!」
「今、お風呂沸かしてます!私たちも入りましょう。今日は昼まで休みにしましたから」
リックは気働きが利く。俺は大雑把でいけない。今夜は良い女達が働く酒場に連れて行ってやるか!
また、明日からは忙しい日々が続く。
魔境の調査に改めて行かないといけない。
2~3年に1回のスタンピードの年なので、多すぎる魔獣は早めに狩らなくてはいけない。
アスコットの異能には、なるべく頼らないようにしなければ騎士団が何のためにあるのか、と野次られても仕方ない。
団員達には団結して働いて貰おう。
追記
ロキ/アイナさん、酒場行くよりコットのいる団員食堂の方が断然良かったですよね?
アイナ/うん、以前はそう言う酒場の方が楽しかったのに、な。団長には秘密だぞ!




