第5話 魔境への遠征
ロールケーキのお礼のお返しはお手紙とチーズのマフィンにした。マフィンならあまり手が掛からないし、大量生産出来るから簡単ポン!だ。
あ、もう食べるの?いや、15時のおやつだったのにな。
ちなみに高級アクセサリーをくれた騎士団員にもお手紙とマフィンをあげた。
何も考えずに死蔵していた蔵にある宝物を実家から持って来たらしい。
アイベルン副騎士団長に死にかけるまで扱かれて、何かに目覚めたようで、アイベルン副騎士団長は深く反省してるという。
「「似合うぞ!アスコット!」」
「シィーーッ!ふたりともこえがおおきいよ!」
「許せ、入学祝いみたいなものだ。あどけない君の戦闘服。思ってた以上に似合ってて父は嬉しい!」
「私も感無量だ!しかし日の出に出発とか、鬼畜過ぎて笑えない。…心配だ」
まだ、闇のこの時間帯は靄がかかっていて一番危ないらしい。ユーマ様は自分がついて行こうか、まだ、悩んでいるらしい。
まあ、それにつけこんで、投げナイフを10本買ってもらった!
「ちちうえ、ユーマさま、ちゃんときをつけてたたかうから、しんじてまっていてください」
「「アスコットぉお!!」」
気が付けば屋敷の使用人達全員が寝間着にストールを肩に掛けて、柱の隙間から、こちらを盗み見ていた。
「いってきます!」
「「「「「「「「「「ご武運を祈っております!若様!軍服よくお似合いです!」」」」」」」」」」」」
「アハハ、ありがとう」
肩越しに大きく手を振って別れた。演習場までライトの魔法で行く手を照らして走った。
余計なやり取りしていたせいで初めての野営訓練の出発に遅刻だ!
十数台もの荷馬車がパンパンに荷物を積んで今にも出発しそうな雰囲気だ。
「お、来た来た!ユーマ様はついて来てないな?」
軽口のオーデル騎士団長に、ギョッとして後ろを振り返る。皆が笑う。
「コットが来たから行くぞ!アスコット、遠征中は愛称呼びする。俺もラインと呼べ!アイベルン副団長は、リック、お前が仕事を教わるのは、アイナと、ロキ、朝食のときにちゃんと紹介する!コット、お前は、俺の馬に乗れ、よっ、と今日は駆けるから、しゃべるなよ?出立!」
結構な早さで移動している。皆、生活魔法のライトか、暗視の魔法を自分と馬に掛けて行軍している。
ちょっとばかり緊張してたのだが、1時間も乗馬すると内股が震えて来て体力の限界を迎えた。ゆっくり止まったライン様は拡声魔法で指示を出す。
「止まれ!ここを補給基地にする!調理部隊!30分で朝食を作れ!斥候部隊は早速浅く探ってこい!」
馬から降ろしてもらった僕は足をプルプル震えさせながら、アイナさんとロキさん達と竈をブロックで組み始める。
「きょうからよろしくおねがいします!コットです」
銀髪に黒い目の成人したばかりの細マッチョが口を開く。
「ロキだ。30分なら干し肉と堅パンだな。お茶を沸かすから火は使う」
「アイナだ。初っ端から、携帯食料かよ。魔境は冷えるから、スープでも、あればな」
ミルクティー色の肩までの髪をいじりながら、アイナがウンザリしたように言う。
「ありますよ」
レインフォード伯爵家の執事じいやからマジックバックを譲り受けたのだ。昨日まで知らなかったけど、荷作りしてたら、ベッドまで入ったので寝ずにいろんなスープやシチューやカレーを仕込んで温かい内に鍋ごと突っ込んだ。
コーンポタージュを個人の持つマグカップに注いでいると何だか怒ってるライン様が迫力満点で迫って来た。
手加減ナシでビンタされて後ろにあった木まで吹っ飛んだ僕は何故叩かれたか必死で考えた。
「俺は昨日よく休むように言ったはずだ!これはいつ作った!」
「…さくやから、けさにかけてです。もうしわけありませんでした!」
口の中を切った。血の味が口腔内に広がる。
「コット、お前は、補給基地で休むように!そんなフラついてて、レベリングできるか!もし、今度命令を破ったら屋敷に帰す!」
素早く立ち上がり略式礼する。
「ハイ!心得ました!」
ワンハンドで頭を掴まれてのベロチュー。
びっくりしたが、ヒールしてくれたので、ただの嫌がらせだろう。
「見たか!これでコットも辺境騎士団員だ!腹減ったな!メシ食おう!おう、いい匂いだ。コットよそってくれ」
「はいはい」
「大丈夫ですか?コット。変態は夜ご飯抜きにしましょう!」
リック様がガンガン、ライン様を殴っている。
いいのだろうか?一応止めるか?
「リック、や、やめてくれ、死ぬ死ぬ!」
「貴方がコットに手を出したとユーマ様に知られたら、このくらいの制裁ではすまないでしょうねぇ」
あ~。それはそうだね!リック様にボコボコにして貰おう。南無~。
僕にはリック様がロキとアイナと一緒に付いていてくれる事になった。
コーンポタージュでご機嫌になった騎士団員達によく寝るように言われて朝ごはんの片付けをしたら、三番目の荷馬車に積んである麻袋の上で大の字になって眠った。
頰を突かれ起きると昼過ぎだった。
僕を守ってくれた3人にブルーベリーを混ぜたマフィンを2つづつあげると、3人は僕に紅茶を入れてくれた。
「剣の鍛錬してたら、腹減ってヘロヘロだったんだよ!ありがとう、コット。これ腹持ち良いから好き!」
ロキさんが大事に食べてるブルーベリーマフィンをアイナさんは一気に食べて「無くなった」と呟く。リック様が自分の分を分けていた。優しいなあ。
食べ終わったら、ただちに夕食の準備に掛かる。荷馬車2台分、在庫がある堅パンの一部をすり下ろして、いっぱいあるジャガイモを蒸して潰して塩コショウしてコロッケに。サラダは野草を収穫してクリーンを掛けてハーブドレッシングで和える。
小麦粉がたくさんあるのでうどんを麺打ちして、実家から持って来た醤油をエメルシー辺境領で採れた昆布でダシを取った汁に適量入れてうどんのつゆの出来上がり。
パスタを打つには卵が足りないので、うどんにしたのだが、これが正解だった!
騎士団の皆が寒さで震えながら、魔境の調査から帰って来たのだ。
温かいうどんとコロッケは喜んで食べられた。
洗い物は水が貴重なので、クリーンをかけて片付けを済ませる。
魔境の調査結果を大天幕に集まって聞く。
いつもわりとふざけるライン様が硬い表情で、騎士団の皆に言う。
「今回の遠征で、災害級の魔獣氷のゼロスの群れが確認された!成獣が2頭、幼獣がおよそ150頭、近くにいるだけで体が凍りつく。成獣が子育て中で気が立っていて斥候隊が近くに行ったら攻撃されて、今も医療班が治療中だ。指先が重度の凍傷になって腐り落ちている。静観するかどうか、考えたが、恵みの森を拠点にしている聖獣ユニコーンに討伐を要請された。よってこの遠征は討伐任務に昇格した!命が惜しい者は、直ちにここを去れ!討伐に挑む者は、遺書をしたためて、ホルンに渡せ!討伐は明日の朝日の出から行う!
食事を担当してる3人は、この場で食事を作って医療班と待機だ!」
「「「「「「「「「「「「かしこまりました!」」」」」」」」」」」




