第3話 小さな友達《sideイスマール》
「私も30か。そろそろ養子でももらうか…」
「ヨシ!俺が探してくる!」
私の内縁の夫ユーマが、張り切って養子捜索を開始して半年経った頃、レインフォード伯爵家から、『ウチの三男坊が良い子ですから、是非ともよいご縁を結びたい』とのこと。
ユーマを使って情報を集めた。
報告書を読んで机を叩いた。
「虐待ではないか!」
「落ち着け、この子、レベリングしないとここにも来られないから、そこら辺をレインフォード伯爵に頼んできた。一人でここまで来るなら運だけじゃムリだ」
「ハア?まさか、誰も共に付けないつもりか?!」
「あの家 牛耳るババアが、そんな機会見逃すはずない」
「今、何歳だ?」
「今年の誕生日で5才になる。剣の腕はまあまあだな。ボアや、角ウサギは当たり前に狩れる。自分で革のバッグ作ってアリールで売ってるし手先も器用だ。これがそのバッグ」
庶民が使ってる肩掛けカバンは、そこそこ名の知れた職人が作っているものと遜色ない。
「幾らだった?」
「6ナルで売ってたが、卸売価格が、1ナルだぜ。ぼったくりだろう?せめて3ナルで仕入れろってよぉく言い聞かせておいた」
銀貨3枚をユーマに渡す。調査代込みだ。
それからアスコットがいつ来てもいいように部屋を整え、使用人達に養子を迎えることが正式に決まったことを言うと、皆、不安げな顔をしている。
執事のバモアが何とかしてくれたらしい。
翌日には、皆楽しげに仕事していた。
それからアスコットのレベリングが出来るのを待って更に1年が過ぎ、6才のアスコットを私一人で迎えた。
まず、考えてたより美男子だった!茶髪にエメラルドグリーンの瞳の少年は屋敷中の女の心を射貫いた。
しかも、使用人達にも優しく重いものは持ってあげたり、自分の部屋の掃除は自分でしたりと礼節を知る子だった。
1週間もするともうエメルシー辺境伯爵家になじんでいて、若様、若様と使用人達が奪い合う始末。
「いいか?アスコットは今から勉強だ!邪魔するな!」
ユーマは、ユーマで教師のはずなのにアスコットに帳簿の付け方を教わっている。
「ほら、だからまちがえるんだよ」
「あ、そうか!わかった!ありがとうアスコット様」
どいつもこいつも!
私も覗き見なんかしてたから仕事が溜まったとバモアに執務室に閉じ込められた。
真夜中まで、書類を決済していると侍女頭のユリアンが夜食を持って来た。
「旦那様、お疲れでしょう?一息つきませんか?」
「ありがとうユリアン。今日は何だ?」
「見た目は悪いんですが、これを食べないと貴族が語れません!」
「ああ?香草を使ってるのか!かぐわしいな。でも、すごい色してるな。大地の神ヘーセウスの恵みに心よりの感謝を捧げます」
私はあまり肉が好きではなかった。が、オークカツにはまった。これがあると元気になれるのだ。
茶色の香ばしいソースがかけられたオークカツを見た瞬間によだれが口の中いっぱいに溜まった。しかしこの白い粒は何だろう?
興味本位で食べるとマホロ牛が食べてるエサだと解った。一度、人間が食べられるものか試した事があるが、こんな甘みある物にはならなかった。
茶色のソースをかけて食べると思ってたよりずっと辛かったのが、白い粒のほのかな甘みで緩和される。そこにオークカツを一切れ。うん、たまらない!美味しい!
ユリアンがグラスに入った果実水をそっと机におく。
「シェフから、ご注意が。オークカツばかり食べていると太るそうです」
「解った!1週間に1回にする!」
「サラダは食べますよね?」
「うん!バモアにもこれを食べさせてやってくれ!」
お代わりを持って来てくれている。初めて聞いた、バモアのうらやましそうな心の声。
解る!分かるぞ!その気持ち!
「おっほ!辛っ、辛いけど美味しいです!旦那様」
「ハアハア」「ハフハフ」
「さて、バモア。作っているのは誰か今日こそ教えてくれるのだろう?」
「当家のシェフが調理しておりますがルセットをいただいたのは、若様からです」
「料理まで美味いのか!さすが私の息子だ!」
「来週からの訓練に若様もレベリングで参加させてはいかがでしょう、旦那様」
それは考えていたが、辺境守護隊の騎士達の反発に遭うだろうと思って二の足を踏んでいたのだが、こんなに美味い飯を食べられると知ったら誰もが手伝わずにはいられないだろう!
「そう…だな。試してみるか」
「ひと月後の誕生日の贈り物は予定通りうまく行きました」
「そうか!よかった!…でも、あとひと月あるから、油断禁物だな。さて、もうちょっとで終わるからバモア、頑張ろう!」
♢♢♢♢side辺境騎士団団長ライン・オーデル
「あ~ん?俺の耳が悪くなったかぁ?もう一度言ってくれユーマ様」
「魔境でアスコット様のレベリングをしてほしい。君たちの善意に期待する!」
「魔境は遊びに行くような所じゃないとわかってて言ってんのか?!ユーマ様もイスマール様もせっかく苦労してぶんどった養子が呆気なく死ぬのを推奨してるとは思わなかったぜ!あ~あ、命がけの冗談か、アホらしい!」
副隊長のリックは、遠征費用の増額と引き替えに【若様のレベリング】を引き受けたらしい。ケッ、やってられるものか!
リックに押し付ける!
ユーマ様が帰ってから騎士団の団員皆がお昼の鐘の音をまち、食堂にすっ飛んで行く。
昨日からコックが変わったらしく、食事がすごく美味い!あれだけ嫌いだった生野菜も白いタレがかかってて味わい深い。
「おばちゃん、俺、全部大盛りで!」
「ホホホ、あるだけしか、あげられないよ!今日はハンバーグ!一人二つまでね。ご飯はたんとお食べ」
「うわ、何この細切りキャベツの山盛り!いらないよ!」
「野菜食べないと突然体が動かなくなって困るわよ。血もドロドロになるしね!」
「何それ、コワッ」
「今日は玉ネギのタレかけて食べるんだね!」
皆が席についたら祈りを捧げて食事を取る。
「「「「「「「「「「「「「「「「「「大地の神ヘーセウス様の恵みに感謝を捧げます!」」」」」」」」」」」」」」」」」」
ん!この肉柔らかい!美味い!肉汁がすごっ!
柔らかいと食べるのが早い!…もう2個無くなっちゃった。残りのキャベツの細切りを玉ネギのタレで自分の口に押し込む。後はハンバーグのソースで丼ご飯を食べる。
まだ、お腹いっぱいにならない。
すきっ腹を抱えて午後の訓練に挑む。
夕食は、家に帰る。
妹のサリーに怒られながら若鶏の丸焼きを二人で分けて食べる。
「これじゃないんだよ…」
サッと下げられる若鶏。
「じゃあ、食べないで!フン!」
「サリ~」
食べ物の怨みは怖い。その日から夕食が無くなった。
リックに相談して領都一番の菓子屋で、一番高い菓子を買った。
誠心誠意謝って菓子の詰め合わせを渡したらまた、若鶏の丸焼きが食卓に戻ってきた。
「団長、決してご飯を作る人を怒らせてはなりません!」
これは怖い話として辺境騎士団に広まった。




