第2話 旅立ち
旅立ちの朝は、ケーシー兄様がギュッと僕を抱きしめて放してくれなかった。
「おてがみかくね」
「書いても届かないから、いつも元気でいておくれ。アスコットがツラい目に合わないように兄様達は空に向かって祈っているよ」
ああ、ヨークシャー夫人が邪魔するんだね。
「にいさま、ぼくもそらにいのります!にいさまたちのごぶうんを」
父上が優しくケーシー兄様を僕から引き剥がす。
「アスコット。元気で、な」
「ちちうえもおげんきで」
なんと、僕には馬車も馬も用意されてない。じいやとメグが付いて来るのも拒否された。エメルシー辺境伯がそうしたのか、ヨークシャー夫人がそうしたのか、どちらかだ。
メグが乗り合い馬車代を馭者に託し、涙で目を潤ませて僕の頭を撫でてハッとして手を引っ込める。
「アスコット坊ちゃま。メグはお手紙書きますから、読んで下さいね」
「うん!ありがとう!メグ。たのしみにまってるよ。あなたにこううんがおとずれますように」
カーテシーしてるメグの頬に口づけして乗り合い馬車に乗る。お客は僕一人だけ。馭者さんが、依頼した冒険者パーティーは隣町から乗るらしい。
出発して街から出るとすぐ山賊に襲われた。オークジェネラルより弱かったから倒した。初めての殺人。意外と胃にキタ。朝ごはんを吐いたが、次から次へと来る刺客に接待プレイでもレベリングしてもらってよかったと胸をなで下ろした。
馭者さんも山賊が出ると「来たぞ~!」と僕に丸投げして来るようになった。
夜までに隣町に着き、1泊して翌朝の日の出に出発!
Bランクパーティー【友好の誓い】の5人が、エメルシー辺境伯領まで、護衛してくれる。
皆さん20代と若いが、実力派パーティーらしく一切ふざけたりしない。リーダーのマリクさんが、時々、休憩所で、僕を鍛えてくれる。サブリーダーのハルさんは、見回りついでに晩ごはんの肉を調達してくる。
下処理して乗り合い馬車で調理する。
幸い揺れないので簡易魔導コンロを【友好の誓い】から借りてレッツクッキング!
6度目の人生で、家事全般を毒親から、やらされてたので、安ウマの家庭料理は任せて下さい!
レインフォード伯爵領から、エメルシー辺境伯爵領までの道なき道を山賊退治しながら、進む。
僕は、馭者さんと馬を守る役目を与えられている。冗談かと思ってたら割りと本気だった。野営しながら、進む辺境伯領への道。
夜中にヘルウルフの群れに囲まれたときはさすがに無理かと思ったが、マリクさんが獣人化して【咆哮】を放ったら股にシッポを隠しながら、逃げて行った!カッコいい!
「止せよ。そんなに見られたら溶けるだろ?」
竜人化して青くなった肌を赤らめながら、僕の頭を撫でるマリクさん。
僕は興奮して眠れなかったので、マリクさんと、見張りをしながら、焚き火の前でおしゃべりした。
特に僕の事情について。話を全部聞いたら、マリクさんが、低く咆哮していた。
「どおりで、イスマール様がこっそり俺たちに依頼して来たわけだよ!あー、イスマール様は西の辺境伯様で気易くて、優しい方なんだ。…大丈夫!絶対守ってエメルシー辺境伯領まで、無事到着させるから!」
「あ、ありがとう。マリクさん」
「良いって事よ!任せておけ」
辺境伯領に近くなると、傭兵と思われる身なりのきちんとした奴らが襲ってきた。
狙っているのは僕だけ。
「ウインドカッター!」
全員、首チョンパしたよ!
草原に隠れてるヤツらも、「バインド」で拘束して見せしめに乗り合い馬車の後ろに数珠つなぎしてハードなジョギングさせたら、「何でも話すから助けてくれ」って、命乞いして来たから、エメルシー辺境伯領に入ってから、拘束を解いてやったら一目散に逃げ出した。
「【バインド】…にげちゃダメでしょ?つみをつぐなわなきゃね」
関所で傭兵達は、エメルシー辺境地帯の騎士に引き渡され真っ青になって震えていた。
辺境伯領は、思っていたより都会で、驚いた僕の自然に開いてしまった口をマリクさんに閉められて赤面する。
「思ったより、デカい街だろう?」
「・・・はい」
「俺たちの自慢のふるさとだ」
その日は宿に泊まり、旅の疲れを癒やして、いざ、エメルシー辺境伯の屋敷へ。
すると、騎士様が屋敷の前でうろうろしている。寒いのに気がつかないのか、薄着でバターになりそうなくらいぐるぐる回っている。
「すみませーん!エメルシーへんきょうはくのおやしきですか?」
その騎士様が僕に飛び付いて来た。
「アスコット!良く来たな!私が今日から父上だ!」
若い!ギリギリお兄さん呼びもオッケーだ。
しかもこの人、王家の金の瞳持ちだ。
硬直してると抱っこして大きな屋敷へ連れて行かれた。
ものすごい豪華な応接間のテーブルには、見たこともないごちそうが用意してあり、それが僕の物だという。
「大地の恵みに感謝します」
お腹いっぱいになるまで食べた!
でもあんまり美味しくはない。調味料の不足と料理人の腕の不味さだろう。
もう食べたくない。
確かに見た目は美味しそうだけど、匂いが最悪。
「…そんなに美味しくない、と?ふぅむ。」
ア?顔に出てたかな?失敗、失敗。
なるべく無邪気スマイル。
「こんなにお腹いっぱい食べられたの初めてです!ごちそうになりました!」
「コックも連れて来てよかったのに、まさか、たった一人で来させるなんて、嫉妬に狂った女は恐ろしいね。道中危なくなかったかい?」
「はい!【友好の誓い】のみなさんのおかげでぶじこちらにとうちゃくできました!イスマールさまありがとうございます!」
「【父上】だよ!呼んでごらん」
「イスマールちちうえ。」
なんか、違和感バリバリ。こんなに若くて綺麗な騎士様が『父上』とか、ちぐはぐだよね?
「やはり、呼びにくいか?ついておいで、内緒の話をしよう」
「はい!」
連れて行かれたカーテンを締め切った暗い部屋でいきなりイスマール様が服を脱ぎ始めた。
「え、えと、ちちうえ?!」
イスマール様の下半身は酷い火傷で覆われていて心臓の辺りは、何度も突かれた古い傷跡があった。
それ以前にイスマール様は、女の子だった!
ツンと上を向いた格好いい乳房があった。
イスマール様は、ニパッと笑い僕を子供抱っこした。
「これが私だ!アスコット。こんな体だからまともに結婚出来なくて後継ぎが欲しかったんだ。うちに来てくれてありがとうな!」
「やけどのあと、いたくない?」
「火が苦手ではある。もう20年前のことだから、後遺症には慣れた」
「すきなひとはいないの?」
「いるが、奴は男が好きで、両想いだが、ややこしいことになっている」
僕をソファに座らせてぎこちない動作で服を着るとイスマール様は、カーテンを開けて部屋を明るくした。
「さて、これがアスコットの暮らす部屋だ!どうだ!気に入ってくれるか?」
うわぁあああ。厨二病に羅漢した男の子の部屋だ!
何より目立つのは、子供用のミスリルの鎧と槍、剣と斧も壁に飾ってある。広い部屋の半分がそんな感じの武器庫。
もう半分は本がひしめき合ってる本棚と机とイスのセット。寝室はドアを開けた奥にあった。
「ちちうえ。ありがとうございます!でももっとしっそでもぼくはかまいません。おかねのムダづかいはこれからはしてはいけません!」
イスマール様は、ニヤリと笑い僕を抱きしめた。




