彼女がいるのに、なんで“あの声”でドキドキしてんだよ俺。
「澪が、あの“ネム猫ちゅーぶ。”の中の人──?」
理性がバグった第1話からの続きです。
今回は、幼馴染・澪との“ちょっと気まずい再会”と、
彼女の中にある“見えない壁”を、
少しだけ、感じ取るお話になっています。
マドンナ彼女との比較や、
男心のモヤモヤ──共感してもらえると嬉しいです!
それでは、どうぞ本編へ。
「悠真くん、今日さ、放課後カフェ寄ってかない?」
桐島ひなたの笑顔は、まぶしいくらいだった。
教室の昼休み。クラスの男子がこっちをチラチラ見てるのは分かってた。
入学してすぐに付き合い始めた俺とマドンナ・桐島ひなた。
美少女と平凡男子の組み合わせに、周囲がざわつくのも無理はない。
「……あ、うん。いいよ」
ひなたの笑顔は完璧で、何ひとつ文句はないはずなのに──
それでも、心が澪を探してる気がした。
俺はスマホを握り直して返事をする。
画面に浮かぶ『ネム猫ちゅーぶ。新着あり』のポップアップ。
ほんの一秒で、心拍が跳ね上がる。
(また……あの声か)
最近、ネム猫の配信通知が来るたびに、心がざわつく。
あの甘ったるい声。猫耳つけた小悪魔スマイル。
あの“にゃん♡”を聞いてから、脳内の回路がショートしたまま戻ってない。
気づけば、俺の感情は知らない方角を向いていた。
……いや、もう変わってた。勝手に。
放課後、教室の前でひなたと話していたときのことだ。
「じゃあ、行こっか♡」
ひなたが俺の腕に自然に触れる。
柔らかい笑顔。
まるで恋人ごっこを本当に楽しんでるみたいだった。
けど――。
「……あ」
すれ違った廊下の先。
図書室の前で、ひとり立ち止まっている女子がいた。
黒髪ロング。
メガネ。
無表情。
朝比奈 澪だった。
思わず、目で追っていた。
教室では空気のような存在だったのに、今は──
視界に焼きついて、離れなかった。
「悠真くん?」
「あ、うん。なんでもない」
なんで今、澪を目で追ってたんだろう。
自分でもわからない。
けど──
そのとき確かに、“気配”みたいなものを感じた。
帰りのHR。
プリント配りの係になっていた俺は、澪の席へ。
「……どうぞ、相原くん」
その一言のあと。
彼女の喉が、小さく動いた。
何かを飲み込むように──
言いかけて、やめたような、そんな仕草だった。
言葉にならなかった“何か”が、
妙に、胸に残った。
ぼそっとした声。
なのに、どうしてか、その一言が、胸に刺さった。
そして──気づく。
プリントを受け取った澪が、
ほんの一瞬だけ、口元で……笑ったような気がした。
(……声、同じだ。やっぱり)
頭の中に、“にゃん♡”の声が反響する。
しかも澪は、
プリントを受け取ったあと──
喉元を、さりげなく押さえるような仕草をした。
「……っ!」
思わず、目を逸らす。
(いやいや、落ち着け。
これは偶然だ。考えすぎ……だろ?)
……俺の中の“相棒”(理性)は、
もう逃げ出してた。
夜。
ベッドの上で、スマホをいじる。
イヤホンを耳に差し込んで、
「ネム猫ちゅーぶ。」のアーカイブを再生する。
『今日ちょっと、喉がね……んん、出にくくて……♡』
……その一言だけで、心臓が跳ねた。
(……やっぱ、似てる)
いや、違う。
“似てる”じゃない。
コレ、澪だ。
放課後、喉元を抑えてた仕草。
プリントを渡すときの声。
あれは──
偶然なんかじゃない。
スマホを伏せた。
暗い天井を見つめたまま、息が止まる。
「……俺の“好き”って、今、どこ向いてんだ……」
自問自答しても、答えは出なかった。
けど──
気づいてしまったんだ。
「……俺、いま、彼女の顔より──
幼馴染の“声”で、心臓が跳ねてる」
スマホを伏せて、思わず笑ってしまった。
「……バカじゃねぇの、俺」
でも、ドキドキは止まらなかった。
これって──浮気?
……いや、まだ違う。
だけど、「好き」が揺れた時点で、
もう──自分に嘘はつけなかった。
それどころか、
そんな定義すらどうでもよくなるくらい──
あの声が、
心に焼きついていた。
澪の声が──
どうしようもなく、頭から離れなかった。
……あの“にゃん♡”は、ただの音じゃなかった。
澪が心から、楽しそうに笑っていた――
……なんだよ、あれ。いつも無表情だったくせに──
あんなふうに笑うとか、ズルいだろ。
忘れようとしても、脳裏に焼きついて離れねぇよ……
そして、俺は“見てしまった”んだ。
地味で、無表情で、
空気みたいだったはずの――幼馴染が。
あんなにも楽しそうに笑っている姿を。
……あの笑顔は、
俺の知ってる“地味な澪”じゃなかった。
でも、あの声と一緒に──
心まで掴まれてた気がした。
理性が何度逃げても、
俺の目と耳だけは──ちゃんと、彼女を追っていた。
そう気づいた瞬間だった。
たしかに今──
俺の心の中で、幼馴染以上の感情らしきものが、
ゆっくりと動き始めていた。
戸惑い? 興味?
……いや、たぶん違う。
うまく言えないけど、
その“気持ちの芽”だけは、たしかに、
胸の奥で息をしていた。
正体も分からないまま、
それでも──
俺の中で、確かに“何か”が動き出していた。
でも、
このあと“もっとヤバいこと”になるなんて──
このときの俺は、まだ知らなかった。
──第2話・完。
読んでくださって、ありがとうございます!
第2話では、“気づいた後”の微妙な空気感と、
澪の「何かが変わった」気配を、
悠真の視点を通して描いてみました。
マドンナ彼女との日常。
空気だった幼馴染との再会。
そして──“ネム猫ちゅーぶ。”の正体をめぐる葛藤。
恋じゃない。
でも、心臓が跳ねた。
“好き”って、形じゃなくて、
反応する心が答えなのかもしれない──
第3話では、
彼女の“中の人”をめぐる事件が動き出します。
理性と好奇心がバグる恋。
よかったら、また覗きにきてください。
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