3話
ダンジョンを出るとそこは生い茂った森であった。各地に遠い昔立派な建造物だったと考えられる破片が散乱し、それらを木々が覆い隠し長くの時の流れを見るもの全てに感じさせていた。
「主。周囲三キロ圏には人工的な建築は見られません。ただ、獣や魔物と思しき生物は点在しており……それと、霧のような存在も確認されました」
「霧?」
「……いえ、近づいたら気配が消えました。まるで……精霊のようなものかと」
主人公はうなずく。
彼の掌にはすでにコアの紋章が浮かんでおり、そこへ意識を向けることで、己が領域を視ることができるようになっていた。
「……まずは、これを確認しておこう」
【スキル《解析》起動】
対象:ダンジョン創造(特級)
流れ込んでくる情報。
――“ダンジョン”とは、魔王が支配する生命と死、そして魔力の循環領域。
――内部における生物活動、死、戦闘、魔力流動は全て“DP”として蓄積される。
――取得方法:
•ダンジョン領域内での生物の生存活動による微量生成
•死亡・殺戮による生成(とくに配下の戦闘によるものが効率的)
•空気中の魔力を変換する微量生成(常時)
•他ダンジョン主のコア破壊
「……なるほどな。狩りをすればDPが増える、か」
コアを見やりながら、彼は現在の所持DP――わずかに「7」へと増えている数字を確認する。
(つまり、俺がこの場で生きてるだけで、わずかにDPは増えるってわけか)
しかし、それではあまりにも遅い。
「ユラ。狩りに行くぞ。戦えるなら、戦闘訓練も兼ねてな」
「はい、主」
⸻
二人は簡易な石造りのゲートを抜け、外へと進出する。
岩肌と火山灰に覆われた荒野――三億年前のパンゲア。
魔力の濃度は高く、生態系そのものが既にこの時代で異形に染まり始めていた。
そして、気配。
「……いたぞ。左前方、距離30――」
霧のような存在が姿を現した。
【霞精:魔力存在体】
【戦力ランク:E】
【属性:風】
【行動傾向:中立〜敵対】
「構えろ、ユラ」
「はいッ!」
霞精は音もなく浮遊しながら、緩やかに腕を伸ばすような仕草を見せた。
その瞬間――風の刃が放たれる!
「くっ……っ!」
ユラが前に出て、魔力の膜を張って受け止める。
「《魔力弾》!」
放たれた球状の魔力が、霞精の身体に命中――が、それは霧のようにすり抜けた。
「……効いてない? いや、違う」
主人公は瞬時に見抜く。
「その本体は、あの中心部……霧の核だ」
「了解……っ!」
ユラは跳躍し、霧を裂くように近づく。
魔力の刃を掌に生み出し――
「はぁあああッ!!」
一閃。
霞精は悲鳴のような風音を残して消滅し、淡い光を残した。
【霞精を撃破:15DPを獲得しました】
【ユラのレベルが上昇しました】
⸻
【ユラのステータス画面】
•名前:ユラ
•種族:成長型魔人(魔王命名)
•Lv:2
•戦力ランク:D
•スキル:《魔力弾》《魔力視》
•加護:魔王の加護(強化成長)
⸻
「……初戦にしては上出来だ。ユラ」
「ありがとうございます、主。でも、まだまだです……次は、もっと、強くなりますから」
風に髪をなびかせながら、微笑むユラ。
その背中に、確かに“力を得る喜び”が宿っていた。
彼女は、成長する。
そして――この地で、主と共に戦っていく。
一方、主人公は魔核に意識を戻す。
(これで合計DPは……22。少しずつだが、これで次の一手も見えてきた)
まだ、この世界の全貌はわからない。
だが、神々の支配の時代において――彼らの手の届かぬ“逆の力”が芽吹こうとしていた。
(ここからが始まりだ。ダンジョンを広げ、力を蓄える)
魔王の器として転移した彼が、初めて“狩り”によって力を得た、戦いの第一歩だった。