2話 外からの帰還
わずか数分――
洞窟の入口から戻ってきたユラは、どこか顔色を曇らせていた。
「ご主人様……外は、ただの荒野ではありません。遺構、らしきものがありました。だいぶ崩れていましたが、明らかに“文明”の痕跡です」
「文明……?」
三億年前の地球――パンゲア大陸に、人類の文明などあったというのか。
だが今のこの世界では、それが“当たり前”であるような空気さえ流れている。
「それと……少し、奇妙なことが」
ユラが差し出したのは、砕けた石板の欠片だった。そこには、神聖文字に似た紋様と、“人”の姿を模した浮彫が施されていた。
「……これは神々の封印術式に近い。断片すぎて分からねぇが……解析」
【スキル《解析》起動中……対象:石板欠片】
【破損率:71% 言語構造:神話語(古)/解読可能範囲:32%】
【判明文】:「……民ハ、選定ヲ終エ……家畜ト為ス……導クハ“七座”……支配ノ理ハ神定……」
「……家畜? 人間を、ってことか……?」
その瞬間、頭の中で何かが繋がった。
――現代の世界で見た“人間牧場”のようなシステム。
そこに至る道筋は、三億年前にはすでに芽吹いていたのだ。
(今はまだ始まりだ。だがここから三億年の間に、奴らは“人間の自由”を完全に奪い去る……)
「ユラ、あの石板の場所……周囲に他の遺物はあったか?」
「はい。巨大な柱が数本と、崩れた玉座のような……神の居城を思わせる遺構です」
神――この世界の“支配者”。
そして自分がその敵、魔王の器として生まれたことの意味が、じわりと形を成していく。
「神どもが地上の全てを支配し、意志を縛り、未来を固定した……それが、今の人間家畜システムの源だとしたら」
彼は立ち上がる。
「だったらオレは……この始まりを、ぶっ壊す」
ユラが静かに問いかける。
「主は……戦うのですか? 神々と」
「そうなる。理由はまだ漠然としてるが……この未来は、間違ってる気がするんだ」
「だから俺は、三億年前から未来を書き換える。魔王として、な」
そう言った瞬間、彼の背後のダンジョンコアが光を強める。
外の空気が変わりつつある。神々の“管理者”が、存在を察知したのかもしれない。
(始まるぞ……この地での、最初のダンジョン戦争が)