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設定あらかた煮詰まったのでお試しです
俺の人生は、神に弄ばれて終わった──そう思っていた。
この国では、一定の年齢に達した子供は“選別”を受ける。
祝福を受け、神に仕える資格を得るか。
才能がなければ──廃棄される。
俺と妹は、唯一の家族だった。
おとなしくて、人の目を見て話せない妹だったが、俺には何より大切な存在だった。
だが、その妹はある日、“神の儀式”という名目で施設へ連れていかれた。
それが最後の別れだった。
「このままじゃ、妹も俺も……使い捨てだ」
そう悟った時、俺はすでに“処分”の薬を打たれ、視界が歪んでいた。
──だが、その時だった。
耳の奥で、何かが呼んでいる。
『応えよ。汝、我が器として相応しき者』
──お前が、最も適している。
次の瞬間、視界が反転した。
焼けるような痛みとともに、全てが闇に溶けていく。
•
目を覚ましたとき、そこには赤黒く脈動する宝石が浮かんでいた。
周囲は苔むした石壁、ひび割れた天井、そしてかすかに動く空気。
どこか“生きている”ような、不気味な空間だった。
「……どこだ、ここは……?」
体が重い。だが、確かに息をしている。
意識の奥に流れ込んでくるのは、誰かの記憶──
三億年前に神々と争い、敗れた存在、“魔王”の遺志。
この場所は、その魔王が最後に堕ちたダンジョン。
そして俺は、魂だけの存在として彷徨っていた時、彼の呼び声に導かれた。
『我が遺志を継げ。ダンジョンコアを託す』
宝石が浮き、俺の胸へと溶け込む。
同時に、頭の奥で何かが起動する。
──ダンジョンポイント:0
──支配階層:第零階層《崩壊の間》
──魔王権限:暫定承認
まだ状況が飲み込めない。が、体の奥に確かな“力”が芽吹いている。
•
その時だった。
ゴソリと、石の隙間が動く音。
そこにいたのは、異様な姿の人影だった。
虚ろな瞳、歪な骨、痩せこけた体──背からは精霊のような光が漏れている。
「……神兵……!」
だが、何かが違う。様子がおかしい。
背中の精霊核が不安定に揺れ、身体は半ば透け、崩れかけている。
──これは、俺と一緒にいた“処分係”だ。
俺に薬を打とうとしていた男。神に忠誠を誓った、人間の皮を被った兵士。
転移の衝撃に耐えられず、霊体と肉体が中途半端に分離してしまったのだろう。
「ここまで来たのか……俺と一緒に」
神の兵士すら、耐えられない。
ならば、このダンジョンがどれほどの隔絶された領域か、理解できる。
呻くように神兵が立ち上がる。半霊のまま、狂った目で俺に向かってくる。
敵意しか感じない。
──戦え。逃げられぬなら、立ち向かえ。
それが、魔王の遺志。
「……やるしかないってことか」
不格好でもいい。
何も知らずとも、命を拾ったなら生きてみせろ。
殴る。殴られる。受け止め、崩れ、また立ち上がる。
そんな応酬の末に、俺はようやくその体を地に倒した。
ゼェ……ゼェ……。
ここが、俺の新しい地獄だ。
だが、あの世界に戻るよりはマシだ。
妹を──神に囚われた“たった一人の家族”を、必ず取り戻す。
「魔王の器? 上等だ。やってやるよ」
そして、始まる。
神に抗う力を手にした、たった一人の人間による、反撃の物語が。
稚拙な文章にお付き合い頂きありがとうございます