なぜかしら
電灯の明かりが消えて そのまま 迎えにくる人もなく ずっとそこで待ってる 私の上には空 空 空 ここからは届かないものばかり美しくみえる 綺麗なものばかり集めていたい 影 影 影 薄くなって消えてしまう 私がいたこと あなたがいたこと そして夜 そして朝 そして夜 そして朝
花が咲いてしまった 花が咲いてしまった 木々が枯れてしまった 木々が枯れてしまった 歩くことはもうない 休むことももうない ただ永遠に似た時間 ここで待っていればいい 叶うことはもうない 失うことはもうない ひたすらに続く道だというのか すぐに終わる旅だというのか
ここで終わる 今終わる 必ずしも約束されてない事柄について 私たちはとやかく言い過ぎた この町では目を開けていないのがルール この町では耳を塞いでいるのがルール 口にしたら 鼻を利かせたら 指で触れたら 爪先立ちで 何を探そうとしているんですか。夕闇の中 妖しく揺らめく侵入者 そんなもののために 誰が時間を使ってくれるんですか
照らされたものだけ失ってしまって暗がりにあるものだけ私のものではないみたいなのです その扉はまだ開いていません その扉はまだ開く時間になっていないのです 立ち会う人の数だけ私には情けない思い出が増えていきます 立ち会うことが多ければ多いほど それを忘れることができます 私たちっていつからここにいたんですっけ 覚えてないよ 覚えてないことをいつまでも いつまでも ずっとそれにしがみついていられるかのように いつまでも いつまでも それには終わりが来ないみたいに
からみとったものだけ からまったものだけ 問いかけるものだけ 言わずと知れたことだけ 私たちは まだそこにいなかった 私たちは まだ声を聞いていなかった 私たちは まだ足を止めていなかった 私たちは まだ昨日のこと 私たちは まだ いなかった 私たちは まだ
ここから手を離して歩いてください ここからは手を掴んでください ここから手を握ってください 一人きりの手をつないで どこにもたどり着かないで 触ってしまう 本当のことに 本当のことは手の届かないところにあって 本当のことはもう手にいれてしまっている そこから大きな影が忍び込むとき それを忘れないでください
あまり考えていないことばかり 突然に起こってしまったら 開いたばかりの扉を閉めて 乾いたばかりの洗濯物を投げ捨て 磨いたばかりのガラスを破砕すると良い そうしてなにもかも嫌になってしまったら裸足でジンベエザメの上を歩く なにも怖いことはない なにも怖いことはない 怖いこはまだ起こっていない 怖いことはまだ起こっていない