(7-20)
と、諦めかけたその時だった。
照準を合わせる俺の脳内に望遠スコープでのぞいたような画像がポップアップした。
丸い画面の中に一キロメートル先の的が目の前にあるかのように拡大表示され、照準を合わせる十字線が現れた。
はっきりと五枚の板が並んでいるのが見える。
旗を振る兼重の部下の顔まで区別できる。
俺はその顔のど真ん中に照準線を合わせた。
照準はまったくぶれることがない。
――これなら水野信近の額だって撃ち抜ける。
俺はあらためて五枚の板の真ん中を狙って照準を定めた。
その瞬間、照準画面の真ん中に水野信近の顔がくっきりと浮かび上がった。
――美月、待ってろよ。
必ず仇は取ってやるからな。
俺は憎い敵の幻影に向かって引き金を引いた。
グゴオオオオオン!
ヒヒーン!
信長の馬が暴れて前脚を跳ね上げる。
転げ落ちそうになりながらも必死にしがみついて信長は馬をなだめた。
「光秀、来い!」
そのまま馬を走らせていく信長に俺と師匠は走ってついていった。
それにしても、この銃は長いし重いし、しかも爆発のせいで熱くて、いちいち扱いにくいな。
とはいっても、そこらへんに置いていくわけにもいかないわけで、こんな物を肩にかけて担いでいく俺の身にもなってくれ。
どんどん遠ざかる信長の後ろ姿に俺は愚痴をこぼしていた。
だが、的までやってきたとき、信長は上機嫌だった。
「素晴らしいぞ、光秀」
十町先に並べた五枚の板のうち、見事、中央の板のど真ん中に穴が開いていた。
「この銃があれば我が織田軍に敵なしであるな」
と、お褒めの言葉をいただいたときだった。
脳内モニターにアラートが表示された。
《新技術『狙撃』を獲得しました。鉄砲属性が特殊能力SSにランクアップします》
鈴木兼重でさえSなのに、俺は師匠を超えて覚醒したのだ。
銃を構えるだけで脳内に照準器が表示され、まるですぐ目の前にいる敵を撃つみたいに狙えるようになったわけだ。
――できる。
これなら水野信近を遠距離から狙い撃てる。
「これは見事ですな」と、師匠もしきりに感心している。「私などもう、足元にも及びませんぞ」
「いえ、これも師匠のご指導の賜物です。これからもよろしくお願いいたします」
「鈴木兼重よ」と、信長が馬上から呼びかけた。
「ははっ」と、馬の足元にひざまずく。
「その方を、織田家鉄砲方の師範とする。費用は惜しまぬ。我が家臣団の指導にあたれ」
「ありがたき幸せ。身命を尽くして励みまする」
史実では本願寺側として敵対する鈴木家の分家の分家とはいえ、その有能な一人を味方につけられたのは、織田家にとって幸運だろう。
信長は空に浮かぶ白い昼間の半月を見上げた。
「その銃でならあの月ですら撃ち落とせそうだな」
いやいや、さすがにそれは言い過ぎだろ。
だが、信長は真面目な顔で銃を指さした。
「十町先の的を手繰り寄せるように撃ち抜く。その銃の名を『月手繰り』とせよ」
月を撃ち抜ける銃……か。
大げさだが、悪くない。
「良き名を授かり、光栄でございます。この光秀、必ずや月よりもたやすく水野信近を撃ち抜いて見せまする」
「期待しておるぞ、はっはっはっ」
脳内モニターのステイタス画面に家宝『月手繰り』が登録された。
いよいよ準備が整った。
そして、まるでそれを待ち構えていたかのように、三河からは新しい知らせがもたらされたのだった。
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