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「おや、明智様」


「惣兵衛さんもこちらへ?」


「仲間内に例の話をしに参ったのですよ」と、店の主人を紹介してくれる。「こちらは織田家の明智様。この店の主の能登屋(のとや)重四郎さんです」


 能登屋は四十代後半くらいだろうか、この時代では隠居していてもおかしくない年頃だが、顔の艶もよく現役らしい。


 お互いに頭を下げる。


「能登と言えば石川県……」と、言いかけて、この時代の人にしてみたら能登は能登だと思い直した。


「ああ、ええと、北陸の輪島とか七尾、畠山(はたけやま)家の土地ですね」


「ほう」と、能登屋の目が輝く。「能登をご存じですか」


 まあ、日本の都道府県は令和の学校で習うし、そもそも俺は『信長のアレ』のおかげで、旧国名もすべて把握している。


 だが、自分の村から外に出ることすらないのが普通だったこの時代の人からすれば、日本地理が頭に入っている若者は珍しいのだろう。


「わたくしどもは畠山家臣の温井(ぬくい)様とお取引をいただいております」


 脳内モニターに武将ウィンドウがポップアップした。


《温井景隆:統率49、武勇31、知略70、政治54》


『信長のアレ』では平凡な能力値だが、畠山に仕えつつも上杉と連携したり、なかなか一筋縄ではいかない武将だ。


「畠山家と温井家の関係もいろいろと複雑なようですね」


「戦国のならいでございますな」と、能登屋は快活に笑う。「そのため、わたくしどもでは、この土地に新たな拠点をつくっておる次第でして」


「なるほど、危険の分散ですか」


 真顔に戻ってうなずく。


「伊勢屋さんのお話通り、とても頭の切れる方のようですな。今後とも、どうぞ能登屋をよろしゅうお願いいたします」


 と、そこへ店にいたもう一人の商人が話に入ってきた。


「伊勢屋さん、能登屋さん、私も紹介してくださいな。ぼんやり茶など飲んでる場合やありまへんな」


 能登屋と同じくらいの歳か、瞬きの多い目で顔を突っ込んでくる。


「おお、すみません」と、伊勢屋が俺を紹介してくれた。「明智様、こちらは京の商人、皀莢(さいかち)宗及(そうきゅう)さんです」


 揉み手をしながら小柄な体を折る。


「たまたま来ておりましたが、明智様にお目にかかれて嬉しゅうございます」


「こちらこそ、よろしくお願いいたします」


「なにやら、お武家さんらしゅうございませんな」


 まあ、元は令和の高校生だからな。


 パワーアップキットのおかげで東大生なみの知力を授けられただけだし、脳内モニターに表示される方言自動翻訳のおかげで会話ができている。


 とはいえ、メッキでも金色は金色だ。


 俺は信長から関銭免除の許可を得たことを伊勢屋さんに伝えた。


「ほう、それはまた話が早い」


「さすがは織田のお殿様」と、能登屋も感心している。「ならばお約束通り我々も協力させてもらいましょうか」



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