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信長のアレを千回クリアした俺が戦国最強の軍師に転生して甲斐の虎に会いに行ったら、赤べこだったんだが(ていうか、男だらけの温泉回なんて誰得なんだよ)  作者: 犬上義彦
第7章 復讐と覚醒

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(7-12)

 と、そこへ侍女がやってきた。


「おそれながら、お市様がお目通りを願っております」


「何、そうか」と、信長が背筋を伸ばして真顔に戻る。「これ、サル、その粗末な物をしまえ」


「申し訳ござりませぬ。ただちに」と、秀吉があわてて着物をかき集めた。


 ――ふう。


 助かったぜ。


 戦いに敗れるのならまだしも、この物語がこんなくだらない理由で強制終了させられたら、俺の野望までゲームオーバーになるじゃないかよ。


 着替え直した秀吉に信長が命令を伝えた。


「光秀の進言により、この先我が織田家は美濃攻略に着手することとなった」


「ははっ。僭越ながら、このサルめも、武田との同盟で東への備えができた今こそ、光秀の申す通りかと」


「うむ、そこでだが、サルよ、美濃にいる竹中重治なる男を連れて参れ」


「それは何者でございますか」


 俺が代わりに説明した。


「非常に軍略に優れた武将です。彼一人で、一国の兵を使わずとも戦いを制することでしょう」


 信長が扇子で秀吉を指す。


「金に糸目はつけぬ。なんとしてでも竹中重治を我が織田家へ迎え入れよ」


「かしこまりました」


「金で動かぬ場合は、その方がサル躍りでもして引っ張ってこい」


「困りましたな」と、秀吉がウッキッキと頭を掻く。「金で動かぬ堅物ならば、酒や女も効きませんでしょうな。この光秀のように」


 俺に視線を送って信長が笑っている。


 ――堅物か。


 この二人には俺がそういうふうに見えているわけか。


 ただの経験のない非モテボッチ陰キャ男子なんだけどな。


 だがまあ、お市様への気持ちが漏れてはいけないから、そう誤解されている方がいいだろう。


「大丈夫ですよ。秀吉殿なら、竹中殿も心を開いてくれましょうぞ」


「またおぬしの予言か。先の読めるやつにはかなわぬわい」


 と、そこへ予告通り侍女を引き連れたお市様が姿を現した。


 俺と秀吉は畳に額をこすりつけて頭を下げた。


「市、どうした?」


「兄上に菓子をお持ちいたしました」


「ほう、そうか」


「南蛮渡来のカステイラなる焼き菓子にございます」


「何、それはどのような物じゃ。早く見せてみよ」


 甘い物に目がない兄の好みを熟知してご機嫌を取るのが巧みだ。


 戦国の風雲児がうまい具合に飼い慣らされている。


 信長は差し出されたカステイラを一切れ手でつかんで早速かぶりついた。


「おお、なんとも柔らかな菓子であるな。まるで真綿の布団を食っておるようじゃ。むむむ、この茶色く焦げたところが絶品じゃな」


 南蛮菓子が俺と秀吉にも下げ渡された。


 令和ではありふれた菓子だが、秀吉がパクリと頬張って、もぐもぐと茶色いかすを飛ばしながら飲み込む。


「まことに美味でございまする。お市様に会えると……いやその、お館様のためにと懸命に駆けつけた疲れも吹っ飛んだでござる」


「もうお一ついかが?」


「なんと、よろしいのでございますか。ぜひぜひ」


 お市様が自ら差し出す皿に手を伸ばそうとする秀吉を信長がにらみつけていた。


「サル、食い過ぎて腹を壊すなよ」


「腹だけは丈夫でござる。万一の時には、行商の折に売っていた薬もございますので」


 あれは確かヨモギを干しただけの怪しい薬だとか言ってなかったか。


 遠慮を知らない秀吉をにらみつけながら、信長がお市様に菓子を下げろと手を払った。


 口いっぱいに頬張った秀吉もさすがに気づいたのか、二切れ食べたところでようやく手を引っ込めていた。



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