(7-10)
「それでいい」と、信長は鷹揚にうなずいた。「サルならやってのけるであろう。間に合わぬと言うのであれば、光秀!」
――え、俺!?
「街道の整備を進言したその方の落ち度であるぞ。ゆえに、サルが来なければその方も同罪として処刑する」
ちょ、え、何の気まぐれ?
どういうこと、『走れメロ……』、いや、『走れ秀吉』ってこと?
いやいや、いくら戦国時代でこっちの方が数百年早いからって、文豪の名作をあからさまにパクったらいろいろ問題になるだろうよ。
あいつ、途中で山賊に襲われたり、飽きて昼寝したり、実は歩く速さとあまり変わらないとか、最後の最後、放送時間に間に合わせるように清洲城に登場してみんなで大合唱とか、なんか他のやつと混ざったようなよけいな演出しないでちゃんと来てくれるんだろうな。
距離もちょうど百キロだし。
嫌な予感しかしない。
「俺を待たせるなど、言語道断」と、困惑する俺を眺めて満足したらしく、信長は上機嫌に立ち上がった。「よし、では、本日はこれまで、みなの者、夜分ご苦労であった」
「ははっ」
信長が奥へ去り、家臣たちが散会する。
俺は柴田勝家から命じられて書状を作成している右筆に、一言言い添えた。
「書状の最後に、『お市様が待っている』と書き添えてください」
あいつのことだから、鼻息荒く駆けつけることだろう。
早速早馬が長篠へ向けて出発し、それを見送った俺は自宅に戻ってようやく一息ついた。
あとは松平家が水野信近を討伐すれば今回のことは一件落着。
美月たちの敵討ちと供養になるだろう。
病み上がりの俺に付き添ってくれていた心結が床に手をついて丁寧に頭を下げた。
「明智様。お疲れ様でございました」
「ああ、心結もご苦労様でした。今夜はゆっくりと休んでください」
「いえ、お市様より添い寝をするように指示を受けております」
――はあ?
添い寝?
だからその……。
俺はお市様にこの身も心も捧げると誓ったのだ。
いくらお市様御本人のご意向とはいえ、他の女性に手を出すなど、できるわけがない。
「いや、その、俺はまだそのような……体力は回復しておりませんので」
心結がキッとにらみつける。
「それはどのような意味でございますか。姫様がおっしゃっていたのは、病み上がりの明智様が安心して寝られるようにとのご配慮でございますが」
「あ、ああ……そうですよね。あはは、ご配慮痛み入ります。では、すぐにでも休みましょう」
冷たい布団にくるまって眠りについたところで、闇の中から声がした。
「ただ今の勘違い、お市様には内緒にして差し上げます。くれぐれも下心など抱かぬよう。あらためて身を振り返ってくださいまし」
――ふう。
とんだ勘違いだよ。
だけど、お市様への忠誠心を試そうと、わざとそういう言い方をしたんだろ。
まったく危ないところだったぜ。
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