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史実では織田信長と対峙した本願寺と組んで相当苦しめた敵の一族になるわけだが、一五六一年の段階ではまだ織田家に対するわだかまりはないのだろう。
俺は念のために秀吉にたずねておいた。
「鈴木殿に私が関わることはお館様にも許可をいただいているのでしょうか」
「問題なかろう。そもそもこのわしにつけられた配下なのだからな」
「そうでしたか。では、お願いいたします」
俺はまだ病床にあるうちから、鉄砲の仕組みや、撃ち方の講義を受けた。
本物を持ったこと自体初めてだが、ずっしりどころか、最初は構えることすら難しかった。
「かなり重いものですね」
「はい、本体そのものが重いですし、それが長いので、重心をうまく意識して構えないと、腕が支えきれません」
布団の上に座ったままの中途半端な姿勢で構えるのはますます困難だったが、俺は執念で兼重の講義を受け続けた。
そして、自分で起き上がれるようになると、実際の射撃練習を始めた。
銃口から火薬と弾を詰め込み、朔杖という棒で押し込める。
火皿に別の口薬という着火薬を置き、いったん火蓋を閉じて火縄をつける。
これで準備完了。
狙いを定め、引き金を引くと、火縄が口薬を爆発させ、その爆発が銃身内部の火薬に引火し、弾が発射されるという仕組みだ。
まずは二丈(六メートル)先の的を狙うことから始めた。
ほんの目の前のようだが、これがなかなか当たらないのだ。
引き金を引いた瞬間、ズドオオオオンと、鼓膜が破裂するのではないかという轟音が場内に響き渡る。
火薬の爆発の威力はすさまじく、しっかり構えているのに銃身が空へ跳ね飛び、銃床を支える肩が外れそうになる。
そのため、いくら狙ったところで、火薬が爆発した段階ですでに照準がずれてしまうのだ。
下手をすると、背後の壁を飛び越えて、あらぬ所へ飛んで行ってしまう危険な武器なのだった。
「明智殿はまるで力がありませんな。あまりにもひ弱すぎる。紙風船が銃を構えているようですな」
鈴木兼重はあきれると言うより、哀れむような顔で俺を見ている。
「そんなのだと、弾はみな空へ飛んで行ってしまいますよ」
師匠は銃を構えると空に向かって銃を撃った。
飛んでいた雁がひらひらと落ちていく。
同じ空を撃つのでも俺とは大違いだ。
「体を鍛えることから始めないといけませんね」
まだ病み上がりの俺はさすがに鍛錬を始める余裕はなかったから、逆に、銃を固定して発射できるような装置を作ってもらうことにした。
銃身に脚をつけ、台座に固定できるようにし、狙撃手のように狙いをつける練習を重ねた。
あまりにも毎日俺が熱心に練習をしたせいで、城内の兵士たちが銃声を聞いても昼寝ができるようになっていた。
「まったく、いいことなのか何だか分からぬが、おぬしのその執念は見直したぞ」
秀吉も時々俺と一緒に射撃の練習をするようになった。
小柄な秀吉はやはり銃を持つのが難しいようで、二発も撃てば腕が疲れたと放り出していた。
歩くことから鍛錬を始めて、重い物も持てるようになった頃、心結が長篠城へ戻ってきた。
首尾は上々であった。
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