表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/107

(1-7)

「分かり申した」と、忠次が深くうなずいた。「これまで松平家は家臣たちもそれぞれの思惑で動いており、決して一枚岩ではございませんでした。それが長年の今川への服従であり、こたびの御家の危機にもつながっておったのでしょう。今ここで新たな道へと進むのであれば、そこを根本から立て直す必要があるのでしょうな。のう、本多殿」


 話を振られた忠真も膝を打つ。


「わしも覚悟を決めましたぞ、酒井殿。後戻りはできませんからな」


 そして、久作康政と、六太郎忠勝に睨みをきかせた。


「おまえらも、いざというときに備えてより一層稽古に励めよ」


 はああと、二人の口から同時に情けないため息が出る。


 どうやら中身はあまり変わっていないようだ。


 と、その時だった。


 俺の脳内モニターがアラートを発令した。


《甲斐の武田が兵を起こしました》


 ――ん?


 俺はその情報をクリックして詳細を表示させた。


《武田の軍勢が川中島方面へ侵攻を開始。道中で収穫物を略奪しながら北上を続けています。耕地が狭く食糧の不足しがちな甲斐国では、毎年のように収穫時期になると他国への略奪行為をおこなってきましたが、昨年起きた永禄の飢饉の影響もあり、今回の軍事侵攻は大規模な作戦行動となっているようです》


 ――ひどいもんだ。


 武田信玄は越後の上杉と対比される戦国時代を代表する名将だけど、実際には、家臣たちの略奪を黙認、いやむしろ奨励していたんだよな。


 せっかく実った稲を収奪するだけでなく、村人をとらえて人買いに売ったりもしていたらしい。


 そういった野蛮で迷惑なことを繰り返すから、周辺国の人々にはずいぶんと嫌われていたんだろう。


 もちろんそれは武田だけの問題ではなく、多かれ少なかれ、(いくさ)というものはそういう面があるわけで、俺だって、桶狭間で松平の兵から刀を奪い取ったこともあるし、松平家にしても、奪えるのならよそから兵糧を奪い取りたいだろう。


 ただ、建前としても、織田と松平の両家はそういった略奪行為を禁止すべきだし、農業だけに頼らない収益源をどんどん開発していくべきだと俺は思っている。


 農民や商人、時には僧侶など、身分を問わず味方を増やさないことには、天下統一など戯言に過ぎない。


「いかがなされた?」


 酒井忠次が俺の顔をのぞき込んでいた。


「甲斐の武田が狼藉を働きに信濃北部へ侵攻したようです」


「またですか」と、あきれたようにため息をつく。「やつらは毎年それを狙っております。農民たちが苦労して期待していた収穫を根こそぎ横取りしていく。大国は驕り、弱者をくじく。非道な行いは必ず自らに仇をなすというのに」


「忠次殿の矜持、感服いたしました」


 酒井忠次が家老でいる限り、松平家は安泰だろう。


 作兵衛信康、久作康政、六太郎忠勝も本多忠真に鍛えられれば、そのうち影武者から本物へ覚醒するだろう。


 翌朝、尾張へもどる前に俺は心結に今川氏真への書状を(たく)し、届けてもらうことにした。


 頼まれていた『隼ストライカー瞬』の漫画だ。


 他にも、明智光秀に改名したことや、伊勢屋惣兵衛の仲介についても書き添えておいた。


 脳内アシストの自動書記モードで、昔のくねくねした文字が勝手に書けるし、宛名書きなどの礼儀作法も教えてもらえるのはとても助かる。



感想・ブクマ・評価ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ