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(1-6)

 経済の話が出たところで、俺は伊勢屋との契約について話を切り出した。


「通商の利益を握ることは、まさに松平家にとってもうまみのある話ではありませんか」


「ううむ、農業以外の収益があれば、たしかに助かりますな」


 酒井忠次は前向きなようだったが、本多忠真は渋い顔を隠さない。


「伊勢湾の海上交易には、これまで水野家が噛んでおりましたが、これをどう思うでしょうかな」


 影武者を立てた松平家がそう簡単に一枚岩になることなどないだろう。


 特に今まで表に立っていた者としては、その権益を失うことには抵抗するだろう。


「ですが、そこをあえて推し進めることが今は必要かと存じます」


 俺の強気な発言に忠次と忠真が首をかしげる。


「いや、しかし、それでは水野家が反発するでしょうな」


 率直に異を唱えたのは酒井忠次だった。


「たしかにその通りですが、その水野家に去就を迫るのです」


「つまり、権益を放棄させ、殿への忠誠を誓わせる、と」


「はい」


 一瞬の沈黙の後、次に口を開いたのは本多忠真だ。


「水野家が反旗を翻した場合はどうするのだ」


「織田家が支援します。水野家は三河の西部に拠点を持ち、尾張領内の商人とつながりを持っていました。今後、尾張の商人が松平家と新しく契約を結び直すのであれば、水野家の影響力は自ずから下がります。織田家が後ろ盾となれば水野家は松平家と挟み撃ちとなり、抵抗はできないでしょう」


「ううむ、そう単純に行くとは思えぬが」


 忠真の懸念に酒井忠次が同調する。


「わしもそううまくいくとは思えませんな。万一、今川と組まれたら逆に松平が挟まれますぞ」


「それに対しても対策を考えてあります」


 俺は今川家との通商構想を披露した。


 伊勢湾商人たちに駿河への交易路を解放することで、互いに利益を得ようというのだ。


「しかし、織田と今川は敵対関係にあるわけですぞ」


 二人が驚くのも無理もない。


 だが、俺には勝算があった。


「武家同士の敵対と、商人の活動を切り離せば良いのです。むしろ、通商を密にすることで、(いくさ)を起こす動機を減らせます」


 この時代の人々には理解できない考えだろう。


 敵対する者同士が取引をおこなうなど、たしかに無謀に思える。


 だが、両者が利益を分かち合えるのであれば、争う必要がなくなるのだ。


 机上の空論と言われればそれまでだが、それを実現させてこその軍師だ。


「そんな提案を今川が飲むとは思えませんが」


 想定通りの反発に、俺はたたみかけた。


「今川が渋っても、駿河の商人たちはどう思うでしょうか」


 松平家の重臣二人がそろって息をのむ。


「儲けに聡い商人たちが、莫大な利益をもたらす交易を阻害する武家を支持するでしょうか。商人の力は侮れません。もし今川がこの話を突っぱねた場合は、足元が揺らぎだすのです」


 伊勢湾を握る尾張の強みは、駿河よりも京に近いことだ。


 商品の価値は都へ行くほど高くなるし、下り物も、地方へ行くほど購買力は弱くなる。


 駿河の商人たちにしてみれば、伊勢湾商人との交易が活発になることに反対するいわれは全くない。


 しかも、そこに武家の後ろ盾がつけば鬼に金棒だ。



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