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(1-5)


   ◇


 伊勢屋惣兵衛との会合の数日後に俺は三河へ向かった。


 織田家の人間としては俺一人だったが、影として心結が同行していた。


「わざわざありがとうございます」


「姫様のご命令でしかたなく随行するのだ。こっちを見るな」


 護衛としては優秀なんだろうが、完全に一人の方が気楽だ。


 岡崎までの道は脳内モニターにナビが表示されるし、一度行ったことがあるので風景に見覚えもある。

 とはいえ、お市様が俺のために遣わしてくださったのだから、追い返すわけにもいかないし、もちろん、盗賊など、万一の場合には頼らざるをえない。


 稲刈りの季節を迎え、通過した農村はどこも活気があった。


 戦国時代の農村風景は想像していたよりも水田が少ない。


 治水や灌漑(かんがい)技術が未発達で、洪水や干ばつ、冷害などに立ち向かえなければ生産力の向上は見込めないのだろう。


 まだ俺の戦国生活は始まったばかりだが、課題が次々と見つかって休んでいる暇などなさそうだ。


 夜明けと共に清洲を出発し、十一里(四十四キロメートル)の道を歩き通して夕暮れと同時に岡崎に到着した。


 慣れというものは恐ろしいもので、俺はこのくらいの距離を歩くことを苦に思わなくなっていた。


 もちろん疲れるが、考え事をしていると退屈しないし、体が動いていると頭が切り離されるせいか、思考が自由に膨らんでいくような気もする。


 道端の木陰で休憩しながらそういった考えを帳面に記録しておくと、すぐに一冊使い切ってしまうほどだ。


 令和の高校生としてはサボってばかりいたのにな。


 もちろん、こんなことでへこたれていたら、忍びの心結に蔑んだ目で見られてしまう。


 令和の非モテボッチ陰キャ男子にしてみれば、黒髪だけどギャルっぽい心結にそんな目で見られるのだけは避けたかった。


 岡崎城で世良田村の影武者三人と重臣酒井忠次、本多忠真(ただざね)の二人に再会した。


「ご無沙汰しております」と、俺は自分から頭を下げた。「このたび、明智光秀と改名し、織田家の軍師として正式に仕えることになりました」


「ご立派になられたな」と、酒井忠次は和服姿の俺を笑顔で眺めている。


 そういえば高校の制服姿しか知らないのか。


 榊原康政の久作と、本多忠勝の六太郎はずいぶんと武士らしくなっていた。


「わしが鍛えておるからのう」


 本多忠真が顎を上げて二人を交互に眺めると、恐縮して首をすくめるあたり、相当しごかれているんだろう。


 一方で、松平信康として松平家の当主となった作兵衛はふてくされたような態度で床几に体を預けていた。


「殿様ってえのは、もっと贅沢できるもんだと思ってたんだけどな」


 シナリオの狂った桶狭間の戦いで今川の代わりに崩壊した松平家は目下再建中で、贅沢どころか、家臣たちの日々の暮らしもままならないらしい。


「三河武士は質実剛健。ぶくぶく太るなどもってのほかですぞ」


 本多忠真にたしなめられて信康はぼりぼりと頭をかいていた。


「実際、先の(いくさ)で糧食の蓄えが尽きておりまして」と、酒井忠次も首の後ろに手をやり撫で回す。


 桶狭間の戦いは経済基盤の弱い松平家にとってかなりの痛手となったわけだ。


「ようやく秋の収穫で一息つけますが」と、忠次がため息をつく。「次の麦の収穫まで持たせることを考えると頭の痛いこと」



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