第4章 天下布武への布石(4-1)
明くる朝、手下どもが戻ってきて、賑やかな朝飯を済ませると、俺は柴田勝家の屋敷へ向かった。
配下の者を雇い入れた事情を話し、美月たちのために清洲の空き屋敷を一軒手配してもらったのだ。
「野盗どもを仲間に引き入れるとは、おぬしも変わり者じゃな」
「更生させてまっとうな道を歩ませれば、それだけ治安が良くなりますから」
「おぬしは武士よりも僧侶になるべきだったのではないか」
「お館様のための軍師です」
「そうであったな。わっはっは」
そして、やつれた表情の秀吉と合流して、柴田勝家と共に城へ上がった。
忍びの心結が侍女姿で城内に待ち構えていた。
「お市様に帰還をご報告いたしました。大変喜んでおられました」
「そうですか。それは何よりです」
「遠州屋の塩は昨日のうちにすでに岡崎へ向かって発送されました」
「ありがとうございます」
必要な連絡事項を済ませてもまだ何か言いたそうな表情をしている。
「何かありましたか?」
「昨夜、もしあの女盗賊を抱いていたら、おまえの下半身は今頃ばらばらになっていたであろうな」
なんだよ、いたのかよ。
「姫様を裏切るようなことがあれば私は躊躇しない」
「分かっています」
そこへ、秀吉が俺を呼びにきた。
「おい、おぬし、早くせい。お館様のお成りだ」
「はい、ただいま」
侍女姿の心結はもう姿を消していた。
家臣たちの居並ぶ大広間で俺と秀吉は二人、信長の前に進み出た。
「その方ども、こたびの戦、まことにご苦労であった」
「ははっ、お褒めにあずかり、この秀吉、まことにありがたき幸せにございます」
「光秀」と、扇子で俺を指す。「その方の話していた築城法が功を奏したそうだな」
「はい」と、俺は堂々と申し上げた。「事前に加工した資材を兵に運搬させ、それをそのまま組み上げる。これを名づけて『一夜城』と申します」
「うむ」と、信長は満足そうにうなずく。「さぞ、敵も驚いたであろうな」
「それでございましたら」と、秀吉が顔を突き出す。「あの武田の慌てよう。お館様にもお目にかけたいほど愉快な光景でございました」
「サルに馬鹿にされるとは、武田どもも相当頭にきたであろうな」
信長に同調して家臣一同が快活に笑い声を上げる。
「このたびの功績により、サル、その方を引き続き城主とする。本日よりさっそく武田の動きを見張れ」
「なんと、このわたくしめが一城の主でございまするか」
「寧々殿も亭主が出世して喜ぶであろう」
「あ、いや、しかし、城へは拙者一人でございますか」
「なんじゃ、のろけか。愛しの女房を連れていきたいと申すか」
「いえ、ですが、その……」
「あい、分かった」と、信長が扇子で膝を打つ。「寧々殿も連れていけ。一城の主たる立派な姿を見せてやるが良い」
「ははあっ、ありがたき幸せ」と、言葉とは裏腹に表情は曇っている。
本当は一人で羽を伸ばしたかったんだろうに。
お館様の配慮とあれば辞退するわけにもいかないだろう。
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