(3-11)
「あんた、あのくノ一とはやったのかい?」
俺は首も手もちぎれるくらいに振った。
「なんだよ、じゃあ、やっぱり男が好きなのかい?」
「いや」と、俺は深く息を吸い込んだ。「心に決めた御方がいるのだ」
「ふうん」と、美月は口をとがらせながら俺をじろじろと眺める。「変わった男だね、あんた」
ただ単にモテたことがないからどうしていいのか分からないだけだ。
「やっぱりさ、あたしを抱きなよ」
はあ?
なんでよ。
「いざという時に怖じ気づいて失敗してもいいのか。そんなみっともないことになったら男の恥だろう」
「いざという時って……」
「だから、その意中の女を抱くときだ。おまえ、女を抱いたことがないだろう?」
ええ、そうですよ、ありませんよ、ありませんけど何か?
「どこぞのお姫様だかに義理立てしてるんだろうが、あたしみたいな女は数に入らないから、練習しておけ」
女の勘はどうしてこうも鋭いのか。
お市様のことなど、話してもいないのに見抜かれている。
「抱けと言っておるのに」と、いい匂いを漂わせながら美月が俺にしなだれかかってくる。
頑なな俺をからかっているのだが、楽しんでいる様子ではなく、どこか目つきに鋭さがこもっている。
「お心遣いはありがたいけど、気持ちだけ受け取っておきます」
俺は誘いを固辞して美月の体を離した。
「どうしてもだめなのかい?」
「すみません」と、俺は頭を下げた。
「あやまることじゃないよ」と、美月が俺に背を向けた。
肩を落とした丸い背中が月の光を浴びて闇に浮かび上がる。
冬の冷気が俺たちの間を吹き抜けていく。
俺は震える美月の肩に布団を掛けてやった。
「こんなふかふかな寝床、生まれて初めてだよ」
「これからはそういう生活をするんだ。人の物を奪わなくてもうまいものも腹一杯食えるし、明るいお日様の下を歩ける」
「べつにあたしらがそれを望んでいるわけじゃないけどね」
今すぐ変われというわけじゃない。
だが、まっとうな道を歩いていってほしい。
若造の俺がそう願ったって、よけいなお節介ということはないだろう。
二人並んで別々の布団に入る。
月が雲に隠れて部屋の中が真っ暗になる。
闇の中から声が聞こえた。
「なあ、あんた」
「ん?」
「やっぱり、あたしを抱かないのかい?」
「すまない」
「抱かないと惚れちまうよ。いいのかい?」
ヘタレな俺は返事ができなかった。
男として最低だってことは、自分でも分かっていた。
雲の切れ間から月が顔を出したのか、壁の隙間から光が差し込んでくる。
「こんなにきれいな月を一人で見て寝るなんて、悪い男に引っかかっちゃったよ」
涙声と洟をすする音が闇の中から俺を責めてくる。
お隣さんからの妖艶な声もまだ聞こえてくる。
俺はぎゅっと目をつむって布団をかぶった。
それからどれくらい時間が過ぎたのかは覚えていない。
いつの間にか眠りに落ちていたらしい。
お互いに背中を向け合ったまま俺たちは朝を迎えていた。
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