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信長のアレを千回クリアした俺が戦国最強の軍師に転生して甲斐の虎に会いに行ったら、赤べこだったんだが(ていうか、男だらけの温泉回なんて誰得なんだよ)  作者: 犬上義彦
第2章 楽市楽座

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(2-11)

 俺は秀吉を呼び、酒井忠次や本多忠真に状況を説明した。


「ということは、願ってもない好機が訪れたということでございますな」と、酒井忠次が膝をたたく。「敵だった今川が一時的であれ味方になるとは」


「ここで武田を追い払えば松平の名も上がりましょうぞ」と、本多忠真もニヤリと笑みを浮かべていた。


「よし、では、飯を食ったら、早速兵どもを前線に向かわせよう」


 勢いよく立ち上がった秀吉は、作兵衛たちの頭を次々にはたいて回った。


「おい、おまえら、やる気になったか」


 腕を刺された恨みを持つ久作も、ぎこちない笑みを浮かべながら立ち上がって秀吉をにらみつけた。


「ああ、やってやるよ。おまえよりも出世して、今度は俺がおまえを蹴飛ばしてやるさ」


「ふん、威勢がいいな」と、秀吉も笑う。「戦場(いくさば)ではびびって漏らすなよ」


「うるせえよ」と、三人がそろって言い返す。


 酒井忠次が松平家の軍勢に告げた。


「天は我らに味方している。この商機を逃さずに、松平の名を天下に知らしめようではないか。みなの者、出陣じゃ!」


「おーう!」


 三河北方へ向かって松平の軍勢が出発し、秀吉の指揮で織田家の精鋭も移動を開始した。


 こちらは前線に砦を構築する役割を担っている。


「事前に練習したことを現地で再現できるか。それが今回の作戦の要です」


「分かっておる」と、秀吉も胸を張る。「一日で城を築いて武田どもの鼻を明かしてやるのが楽しみじゃ」


 織田家の軍勢が築いた城へ武田の目が向いている隙に、松平の兵が横から奇襲をかける。


 それが今回の作戦だ。


 うまくいけば、今川の兵も挟撃に加勢してくれるかもしれない。


 事前に敵に情報が漏れることを警戒して今川への正式な要請はまだおこなってはいない。


 だが、武田の動きを伝えれば、自然にそういう流れができあがっていくはずだ。


 そして、俺は次の一手を繰り出すために、織田軍から離れて一人、遠江に向かった。


 今川義元のお膝元で、織田家に有利な交渉をおこなうためだ。


 これが成功しなければ、今までの努力が水泡に帰してしまう。


 戦国最強の軍師としての試練は、肉体のぶつかり合う戦場ではなく、頭脳で勝負する情報戦にあるのだ。


「警護はお任せを」


 ――うおっ。


 いつの間にかすぐ後ろに心結が控えていた。


 質素な着物に町娘ふうに髪をまとめた姿は城下町の風景に溶け込んでいた。


「それはかたじけない」


「お市様から、一人にするなとのご命令ですので」


 それは、俺に危害が加えられることを心配しているのか、それとも、俺が外で別の女に手を出すのを心配しているのか、どっちの意味なんだろうか。


「その時はおまえの粗末なものを切り落としてやる」


 ああ、そうですか。


 そんな心配はいらないんだけどな。


 なにしろ俺は、令和なら非モテボッチ陰キャ男子だったんだから。


 戦国一の美女を裏切るなんて、そんな贅沢な考え、頭の片隅にもあるわけがない。


 その代わり、俺の心にはつねに本能寺がある。


 お市様のために、その日に向かって、一歩一歩進み続けているだからな。


「何をニヤついている」と、背後から心結にとがめられる。


 ――こいつ、なんで後ろから俺の表情が分かるんだ?


「いや、べつに」


 まったく油断のならない忍びだよ。


 それだけ頼りになるのはありがたいんだけどな。


 こいつと打ち解けるにはまだまだ時間がかかりそうだ。


「そのようなときが来ることなどあり得ぬから、余計な心配はするな」


 心を読み取られているようじゃ、軍師としてもまだまだらしい。


 かろうじてため息をこらえつつ、俺は東海道を東へ歩き続けた。



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