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信長のアレを千回クリアした俺が戦国最強の軍師に転生して甲斐の虎に会いに行ったら、赤べこだったんだが(ていうか、男だらけの温泉回なんて誰得なんだよ)  作者: 犬上義彦
第8章 後始末、そして新たなる裏切り

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(8-12)

 と、そこへ、心結(みゆ)が俺の屋敷へやってきた。


「待っていたぞ」


「頃合いだと思いまして」


 まずはお市様からの書状を俺は受け取った。


《我が身の定めを受け入れる覚悟はできておりますが、光秀殿との誓いは忘れてはおりませぬ。たとえ遠く離れようともわたくしの心はつねにあなた様のおそばにあると思ってくださいまし》


 令和のチョロい非モテボッチ陰キャ男子を手懐けるには充分なお気持ちだった。


 お市様、俺も覚悟を決めました。


 あなた様をお守りするためなら、俺はいかなる罪、どんな汚名でも背負います。


 俺は心結にお市様への伝言を頼んで、あらためてたずねた。


「水野信近の件、今川氏真と接触していたことを、なぜ知らせなかった」


「知らせなかったのではございません」と、悪びれる様子もなく答える。「確実な筋からの話として申し上げただけでございます」


 たしかにその通りだが、名前を隠していたのは事実だ。


「俺に何をさせるつもりだった?」


「織田家にとって何か問題はありましたか?」


 はぐらかすように逆に問いを返す。


 ――いや、何もない。


 俺は復讐を遂げ、織田家は宿敵今川を滅ぼし、駿河を手に入れた。


「わたくしは何も嘘は申し上げておりませんし、隠してもおりません。どこから聞いてきたことかなど、重要ではないから申し上げなかっただけです」


「重要かどうかは俺が決めることだ」


「聞かなかったのは明智様です。だからわたくしも申し上げませんでした。それだけのことです」


 心結の言うとおりだ。


 情報源をたずねなかったのは俺の落ち度だ。


「わたくしは姫様付きの忍び。その姫様が最も信頼なさる明智様は前にも申し上げたとおり、姫様同様にお仕えする(あるじ)でございます」


「他意はないというのか」


 心結は静かにうなずく。


 単にまだまだ俺が甘かったというだけか。


 これからは情報源や裏付けについても確認しておくべきだろう。


 心結がぽつりと口を開いた。


「これはわたくしの独り言でございます」


 それは鞭で打たれるような衝撃的内容だった。


「姫様は明智様のことを心配なさっておられました。心お優しい御方であると。それゆえに、いざという時には背中を押して差し上げなければならないでしょうともおっしゃっておられました」


 ああ、そうだったのか。


 俺の心の弱さ、男としての足りなさをすべて見抜かれていたのだ。


 ただ単に未来から来て史実を知っているにすぎない男がその情報だけを武器にしたところで、この戦国乱世をのし上がるどころか、生き残ることすら難しいだろう。


 お市様はそんな俺のために、心を鬼にしろと……。


 いや、違う。


 鬼になったのはお市様自身なんじゃないのか?


 兄の天下統一を壊すために、自ら鬼の面をかぶった――いや、逆だ――鬼となった自分に従順な姫の面をかぶって兄のための人身御供となろうとしているのだ。


「それで、明智様は、どうなさるおつもりですか?」


 心結が俺に決断を迫る。


 すでに俺の腹は決まっている。


 迷いなどない。


 俺はすぐに書状をしたため、心結に託した。


「これを越後から川中島に向かっている上杉方の武将柿崎景家に届けてくれ」


「かしこまりました」と、心結はすぐに出立した。


 第四次川中島の戦い勃発まであと一ヶ月。


 すでに武田も上杉も兵を動かしている時期だ。


 ならばそれを利用させてもらうまでだ。


 もう後戻りはできない。


 お市様をよそに嫁がせることなど俺が許さない。


 俺は甲斐国における武田信玄との交渉で『啄木鳥(きつつき)の計』について山本勘助に話している。


 武田家は当然、俺が伝えたとおりその作戦の失敗を回避するために別の策を練るだろう。


 だから俺はさらにその裏をかいて武田信繁を葬り去るために、川中島で『逆・啄木鳥の計』を発動させるのだ。


 盟友となった武田家に損害を与えるために動く俺は裏切り者だ。


 だが、それは明智光秀となった俺にとって最高の称号だ。


 俺の心にはつねに本能寺がある。


 すべてはお市様のため。


 そして彼女を手に入れる俺のため。


 自らの欲望のために天下を転覆させてやる。


 織田信長を支える軍師としての俺の冒険は新しい章の幕開けを迎えていた。



これにて第2部完結です。


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